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ひめみこ  作者: 転々
第十三章 心の確認
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デート?

 待ち合わせ場所は、ショッピングセンターの駐車場でも、外れの方に在るコイン精米所脇。帰りに備えて自転車を駐輪所に停めて、鍵をかける。

 精米所付近は、早い時間とあってか、車は白色のオヤジセダンが一台。高橋さんだ。


 近づくとミラーで私の姿を認めたのか、車から降りて助手席のドアを開ける。


「おはよう、昌さん」


「おはようございます。でも、急に連絡したばっかりに……」


「誘ったのは私の方だよ。まぁ、外は寒いから続きは車の中で」


 私は助手席に座った。高橋さんも運転席に着く。まぁ、スマートなエスコートだろう。でも、二十代も後半の男性と、中学生の女子。誤解される組み合わせだ。というより、正解なのかな?




「今日もウィッグなんだね」


「さすがに、真っ白の髪は目立ちますから。コレ、登下校中も着けてるんです」


「防犯上の理由?」


「そうです」




 うーん。会話が続かない。二十代の男性が好む話題、か。でも十代の少女が振っても不自然で無い話題でとなると、なかなか難しい。

 とりあえず、なにか褒めることか。男性だったら、自動車の話題が鉄板かな?


「いい車に乗ってますね」


「二十代にクラウンは分不相応かな?」


「立場上、仕事でお客さんを乗せることもあるでしょうから、必要経費ですよ」


「必要経費、なんて言葉を聞くとは思わなかったよ。

 実はこの車、本当は会社の持ち物なんだけどね」


「やっぱりですかー。普通の二十代独身男性に、クラウンはちょっとオヤジ趣味ですから」


「でも、これはこれで運転もし易い、いい車だよ」


「確かに、クラウンはいい車です。でも、最近はどんどん大きくなって、顔も押し出しが強くなって。

 ずっと前の、直6からV6に変わった頃のデザインが、一番すっきりしてると……、父が言ってました」


 危ない危ない。私が知らないはずの知識だ。


「で、でも、直6とかV6って、何のことですか?」


 取って付けたように、訊いてみる。


「車にもよるけど、クラウンのエンジンにはガソリンを燃やすところが六つある。それの配置が違うんだよ。V6の方が、エンジンを短く出来るから、ボンネットも短く出来るんだ」


「そういうことですか。道具は同じ能力なら、小さい方がいいですもんね」


「そうだね。業界にも依るだろうけど『小は大を兼ねる』だね」




 うーん。会話がなかなか続かない。やっぱり、高校時代とか学生時代の話を訊くか。女性遍歴とか。いやいや、こんなことを訊いたら、私が『そういう意味』で興味を持っていると誤解されかねない。


「どこへ行きたいかな?」


「むしろ県外かな?

 ほら、近くだと、知り合いに会っちゃったら気まずいし、高橋さんにもご迷惑をおかけするかも知れないし」


「はは。別に私は迷惑じゃ無いけどね。

 女性はちょっと考えるところかな? それじゃぁ県外まで足を伸ばそうか。どんなところがいいかな?」


「美術館でもいいし、博物館でもいいし、寺社仏閣ってのもアリですね」


「へー。歳の割にシブいところを選ぶね」


 しまった。絶対女子中学生らしくない選択だ!

 でも、そういう人だって居るかも知れないし、そうだ、光紀さんだって結構詳しかった。彼女は見た目通りの年齢だから、そういう人は案外多いに違いない。


「美術館とか博物館だったら、どんな分野が好み?」


「うーん。まだまだ知識も浅いので、どこでも」




 車はETCのゲートをくぐった。

 県外か……。

 私自身は普段の白髪の印象が強いから、茶色のウィッグを着けている限り、そうそう気づかれる心配は無い。でも、問題は高橋さんだよね。私がいくら大人っぽく作っていても、未成年にしか見えないだろう。対して高橋さんは二十代男性。

 本人は迷惑じゃないって言ってたけど、場合によっては社会的なダメージが大きすぎる。それとも『そういう関係』でないことを主張できる確実な方法でもあるのだろうか?

 客観的には、女子中学生――戸籍上は十七歳だけど――を連れ回している成人男性だ。考えが甘くないかな。


「あの、やっぱり誰かに見られたら(まず)いと思います」


 私は説明した。


「そう言われてみると……、確かに客観的にはそう見えるかもしれないなぁ」


「そうですよ。当事者が二人揃って否定しても、周囲(まわ)りはそう思ってくれないかも知れません」


 かも知れないじゃなくて、まずそういう見方をする。たいていの人はそういう話が好きだし。この兄ちゃん、ワキが甘すぎる。


「設定を考えません?

 私たちが兄妹……、には見えないか。

 例えば、姪とかちょっと年の離れた従姉妹とか、二人で行動していても、怪しくない関係を(よそお)うんです」


「姪は……昌さんが私のことを『叔父様』なんて呼んだら、却って変に見られそうだね。従姉妹というのが無難かなぁ」


「じゃぁ、高橋さんは私のことを『ちゃん』付けか呼び捨てで、私はどう呼びましょう? 『高橋さん』じゃぁ、他人行儀に見えるだろうし、『慶一さん』でも変だし。ちゃん付けか『お兄ちゃん』が無難かなぁ」


「そこは昌さんに任せるよ」


「『昌ちゃん』!」


「昌ちゃんに任せるよ」


 どう呼ぼう。でも、本当にこの兄ちゃんは世話が焼ける。自分たちが客観的にどう見えるか、考えないのかな?




 途中のパーキングでトイレ休憩を取るあたり、女性の扱いには慣れているのだろうか。でも、会話が続かないんだよね。でもこれは私が原因だ。女子中学生がどこまでの知識を使っていいか判らない。

 趣味の話に持っていった方が良いのだろうか? とは言え、おっさん好みの小説は拙いだろうし、テレビはほとんど視てないし、音楽はというと……、最近はクラシックぐらいしか聴いてない。考えれば考えるほど、共通の話題が無さそうだ。




「どこへ行くつもりですか?」


「それは着いてのお楽しみ」


 いや、そこは目的地を言おうよ。そこから話題も拡がるんだからさ。こっちからは話題を振りにくい。学校の話をしても、中学生レベルにしようとすると、一方的に話すだけになってしまう。しかも、男性からはどうでもいい話だし。

 普通は、年長者で男性の方が気を遣うべきなんじゃないかなぁ。




 ふと視ると、左手の人差し指と中指を擦り合わせている。やっぱり癖なんだろうな。


「あの」


「なんだい?」


「左手の人差し指。

 怪我でもされたんでしょうか?」


「三歳か四歳頃に怪我したらしいけど、憶えてないんだ」




 あー、この兄ちゃん、雑談がダメだ。

 私も他人(ひと)のこと言えないけど、この兄ちゃんの方が重症だ。

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