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ひめみこ  作者: 転々
第十二章 新たな日常
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合宿で第二種接近遭遇?

「「乾杯」」


 とりあえず飲み始めたが、留美子さん、何しに来たんだろ。


「ねぇ」


「ん?」


「両方を知っている視点で、女の子って、大変?」


「分からないよ。女性としては中学校を半年しか経験していないし。社会に出て働くのは、勉強してればいい学校よりずっと大変だから、同じ基準では比べられないよ」


 まして、私は社会人としての経験や能力を使える。学校では友達にも恵まれているから、イージーモードでニューゲームだ。確かに、初めは失ったものばかり多く感じたけど、その多くは経験によって身につけたもの。それを改めて身につけるだけだ。


 家族の中での関係が変わってしまって、夫として、父親として生きることはできなくなったけれども、これはどうしようもない。

 どれぐらい先かは判らないけど、いずれは、妻として、母親として生きることになるのだろう。帳尻は合っているどころか、収支はプラスだ。

 ……と思える生き方をできればいいなと思う。


「そういうことじゃないの。身体が変わったことで、何が変わったかな? って。

 女子生活は、慣れた? 女子って自覚したのは、どんなとき?」


「慣れた。でも、自覚かぁ」


「アレが来たとき?」


 露骨に訊くなぁ


「うん。まぁ、子どもを産める身体なんだなぁって」


「じゃぁ、辛かったことって、やっぱりあった?」


「それは……、あったよ。

 初めは、性同一性障害みたいだった」


「今は違うの?」


「よく、判らない。でも、あまり以前ほど悩まなくなった。

 実はね、自分のMRI見たんだけど、そのときに、女だって理解させられたのかも知れない。

 卵巣や子宮があるだけじゃなくて、脳の構造も女性だったんだ。それを見たとき、あ、自分は心の部分もこれから変わってくんだろうなぁって」


 そのときは、自分の人生よりも家族の生活や子ども達の将来の方が優先だったから、そのために生きようと思っていたけど……、でも、これは言えない。


「やっぱり、怖かった? 生きるのが辛かったりした?」


「そりゃね。初めは、たとえ以前の自分は死んだことになっていたとしても、家族、親より先に死ぬわけにいかないし、とにかくその日その日を生きるだけだったかも」


「女の子として生きるために、悩んだり苦労したり?」


「初めは、沙耶香さんに行動を矯正されて……、立ち居振る舞いから言葉遣いまで。あと、抵抗があったのはお風呂とかトイレかな。

 でもね、慌ただしく過ごしているうちに、それが普通になって、いつの間にかものの考え方も変わっていった気がする。初めは気づかない振りというか、考えないようにしていたけど……。

 いつの間にか、こうなってた。脳がそうなってて、月々のリズムが考え方も変えていったんだと思う。

 多分ね、性同一性障害の女性が身体の性に合わせて生きるより、神子になって女の子になる方が、ハードルはかなり低いんじゃないかな、って思う」


「ふーん」


「あとね、女性の方が精神というか脳が柔軟で、男性よりも圧倒的に耐性があるんだと思う。ショックなこともしなやかに受け流せるのかな? それに、悩んで堂々巡りするようなことに捕らわれずに、気持ちを切り替えられるようになった。

 実は、ある人に言われたんだ。女は、一つの出来事から一つしか感情を選べないほど弱くない、って。そのときは解らなかったけど、今はなんとなく解る気がする。なんとなくだけど」


 私の缶が空になると、留美子さんが次のを開けて渡してくれる。私は既にかなり酔ってるんだけど……。

 留美子さんも二本目に口をつける。結構、強いんだなぁ。


「恋愛とは少し違うと思うけど……。

 男性だったら、別に好きでなくても女性と関係を持てるけど、昌ちゃんはどう?」


「多分、それは無い。

 今のところ、男性をそういう目で見たこと無いし、それに比売神子になるまではそういうことは御法度だったし」


「じゃぁ、女性が相手だったら?」


「うーん」


 どうなんだろう。この身体になって、そういう溢れるリビドー的なモノは無くなった気がする。渚ともあの一度きりで、それも一方的にされただけだった気がする。


「やっぱり、そういう目では見られないかな。

 多分、男性と女性じゃ、性欲の方向が違うんだよ。極端な言い方をすれば、男性は種をばらまければ良くて、女性はなるべくいい種を選ばなきゃいけないと。遺伝子がそれを命じるんじゃないかな?

 ほら、恋愛を扱った話でもさ、男性向けは大抵相手が決まってるけど、女性向けは二人の間を揺れ動く乙女心、的な、相手を決めるまでが重要だったりするじゃない?

 なんて言うか、男はキスから先が好きで、女はキスに至るまでが好きって言うのかな? 多分、それは脳に刻まれた本能なんだよ」


「うわぁ、濃い意見。男性経験があるって、そういうことかぁ」


「男性経験じゃなくて、男性として生きた経験です。」


「じゃぁ、女性経験は?」


「今、女性として生きてるじゃない」


「女性と、そういう交渉をした経験は?」


「ノーコメント。その質問には有るとも無いとも答えないよう、沙耶香さんから指示を受けています」


 本当は、そんな指示は無いけど。


「私は、教育実習の経験もあるけど、そのときにも恋人の有無や性的なことを訊かれても、答えないよう指導されましたけど、それと似ていますね」


 一応、根拠があるっぽく補足する。




「昌ちゃん。

 私ね、女の子が好きなの」


「はい?」


「だから、貴女のことが好きなの」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい」


 テーブルを挟んでいたはずの留美子さんが、いつの間にか左隣にいて、私の手を取っている。ちょっと待って、沙耶香さんも光紀さんも聡子さんも口だけだったのに、留美子さんは……。

 後ずさりしながら、必死に対応を考える。最悪、『格』の威圧で怯ませて、一気に絞め技で。でも、一歩間違うとおちたときに失禁させてしまうかも知れないし。


「私もね、本当は女性じゃなく、男性と恋をできるようになりたいの。その狭間にいる貴女と経験すれば、男性とも、って思えるの。私のためだと思って、お願い」


「いやいやいや、身体は女の子だし、一ヶ月前だったら、私の以前を知る前だったら、そんなこと考えなかったでしょ? だから、そんなの思い込みだって。そういうのはちょっと、ね? よく考えて、酔いが覚めてから、もう一回考えよ?」


 留美子さんは、私が後ずさりした分だけ前進してくる。ヤバい、後ろはベッドで行き止まり。ここは、本当に『格』で威圧して、沙耶香さんの部屋に避難か? いや、沙耶香さんがまだ戻ってなかったらどうしよう。




「はい、おっけぇ」


「?」


「昌ちゃんは、身体だけじゃなくて、心も女の子ね」


 なにこれ?


「えーっと、もしかして、私はからかわれたのか、な?」


「別にからかったわけじゃないけど、昌ちゃんがどこまで女の子かなって。うん。今の反応は、ほぼほぼ、女の子ね」


「からかってたんですね」


「からかってなんかないって。でも、狼狽えてる昌ちゃんを見てると、ちょっと変な気持ちになったけど」


「こっちはどうするか、私なりに真剣に考えたんですよ」


 留美子さんがビクッとなる。『格』がちょっと漏れていたみたいだ。


「私も疲れてるし、留美子さんも疲れてるでしょ? 私はもう寝るので、留美子さんも部屋に戻って、寝て下さい。一緒にとかそういう冗談も必要ありません!」




 留美子さんも今回ばかりは素直に引き下がった。

 でも、『ほぼ、女の子』か。事情を知っていても、客観的にはそう見えるってことか……。

 いずれ私も、恋をできるのかな。

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