序章
「これを着るのかぁ……」
ベッドの上に広げられた制服を見て、思わず口に出してしまう。
紺を基調とし、少し絞られた袖口に裾。幅広の襟もとには臙脂色のタイ。下は幅の細いプリーツの入った筒状の――要するにセーラー服だ。
来月からこれを着て学校に通うのだが、かなり抵抗感がある。
サイズが合うか、今週中に確認するよう言われていた。理由をつけては後回しにしてきたけど、金曜日も昼上がり。母さんにせっつかれて制服と睨めっこしているが、それもタイムリミット。
「しかたがない。着るか」
意を決して下着姿になった。そろりとスカートに脚を通し、サイドのホックを留める。普段着けているパンツとは異なり、左右の膝やふくらはぎが直接触れる頼りない感覚。ホックを一段緩め少し下げるが、膝小僧がようやく隠れる程度か。
上着をかぶって袖を通す。これも普段着ている服とは違い、裾が緩い。もう少し伸縮性のある生地にすれば、脱ぎ着がし易いのに、と思いながら裾を整える。サイドのファスナーがもう少し広げられれば……。
姿見に映る全身を見る。全体に貧相だがシルエット自体は悪くない。八頭身とはいかないが、七頭身半には届くだろうか。手足が長く、股下が身長のほぼ半分というバランスは日本人離れしている。
顔だって、美人だろう。今はカワイイ寄りだけど、客観的に見てもそこらのアイドルや整形美人なんかより魅力的だ。少しおでこが広いものの、くっきりとした二重の大きな黒目がちの目。鼻や口は小ぶりだが形も配置も整っているし、何より白くなめらかで血色の良い肌は、世の女性がメークで演出しようとするそれだ。
これが今の私。ずっと前に通った中学校にもう一度通い直す。そのときは詰め襟だったんだけどなぁ。
姿見に映る自分の姿にはようやく慣れてきたけど……、制服が全く似合っていない。
多分、制服の形が良くない。上から下まで全体にストンとしているから、貧相で肉付きの薄い躯が強調されてしまうのだ。
そして何よりこの目と髪の色が良くない。明るい群青の瞳に真っ白な直毛。髪にもう少し長さかボリュームがあれば違うかもしれないが、この長さでは……。
いや、本当は伸ばせたよ。伸ばせたんだけど、耳や襟足にかかる感覚に慣れなくて、さすがに耳は妥協したけど襟足は短いままだ。
マンガやアニメなら、青い目にパステルカラーの髪でも違和感がないのに、現実では白髪でも似合わない。せめてブレザーだったら似合っていたのだろうか。
私は再びため息をつき、この半年のことを思い出した。
私がこの姿になったのは、半年あまり前に遡る。