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カルテNO.3 青木(盗賊)9/10

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「先生、本当にお世話になりました」


 青木が最後にクリニックを訪れてから、さらに3か月が過ぎ、今日は夫婦そろって診察室にやってきた。


「先生から、勇気を出せと言われて、俺、仲間にもうダンジョンには潜らないって言ったんです。はじめは納得してもらえなかったけど、依存症のことをちゃんと説明したら、わかってもらえました」


 青木が晴れやかな表情で言う。隣に座っている妻は、お腹のふくらみが目立ってきていた。


「ダンジョンハーブ依存症の患者が集まるミーティングにも参加して、同じ苦しみを抱えている者同士で、励まし合いながらハーブ断ちしてるんです」


 医師は、「それは何よりです」と言って、青木の労をねぎらった。


「あと、ここで道具屋をやっていると、ダンジョンハーブの誘惑も多いので、実家に帰って家業を継ぐことにしました」


 医師はうなずいて「それもいいかもしれませんね」と言い、ちょっと気になったことを聞いてみた。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、青木さんのご実家って……」


 問診票に、職業「盗賊」と書いてあったのを思い出し、まさかと思って聞いたのだが、青木は笑いながら「実家は農場を経営してます」と言った。


「何もない田舎なんですが、子供には自然の中でのびのび育ってほしいと、二人で相談して決めたんです」


 青木はそう言って、隣の妻と顔を見合わせて微笑んだ。


   ※※※


 青木たちが帰った後、待合室のほうから「ちょっと待ってください、困ります!」という、ミカの声が診察室まで聞こえてきた。


 何事かと医師が様子を見に行こうとすると、診察室のドアが開いて二人組の男が入ってきた。


「ちょっと失礼しますよ、先生」


 ずんぐりした体形の男が言った。


「こちらに青木という男が来ていたでしょう」


 相手の意図するところがわからず、医師は腕組みして続きを待った。


「青木とは、ビジネスパートナーとして、いい関係が続いていたのに、彼が急に取引をやめると言い出しましてね。先生なら、何かご存知じゃないかと思ってやってきた次第ですよ」


 ずんぐり男が喋っている間、もう一人のひょろっとした背の高い男は、ジロジロと診察室の中を見回していた。


「ああ、そのセンスのない服装、まさかと思ったけど、あなたたち、シンジケートの人間?」


 医師は合点がいったという風に言い、「まあ、立ち話も何だからお掛けなさいな」と、二人組に椅子を勧めて自分は診察用の椅子に腰かけた。


「それにしても、いまだにそんな服着て歩いてるの? 目立って恥ずかしくない?」


 医師から言われて、二人組は自分の服をあらためて見直した。上から下まで青一色で統一されたコーディネートだった。


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