カルテNO.3 青木(盗賊)4/10
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「不愉快だ。帰ります」
青木は、椅子から立ち上がった。
「お帰りになるのは勝手ですが」
医師が、コップに試験紙を戻しながら言った。
「奥さんが不幸なことになりますよ」
医師の言葉に、診察室を出ようとしていた青木が振り返る。
「妻が……?」
医師はパソコンのモニターを見ながら「ええ」と答える。
「もったいぶるのは、やめにしましょうや、先生」
青木は、イライラして言った。
「妻が不幸になるっていうのは、どういうことですか」
立ったまま詰め寄る青木に、医師は手ぶりで椅子に座るよう促した。
「あなたが、このまま脱法ハーブの摂取を続ければ、奥さんは一人で子供を育てることになります」
「子供……?」
青木は、虚を突かれてストンと椅子に座った。
「やはり、知らされていませんでしたか」
医師が青木に向き直りながら言う。
「あなたの奥さんは、妊娠しています」
青木が「妊娠……」とつぶやく。
「妊娠に気付いた奥さんは、焦りました。本来一緒に子育てをするはずのパートナーが、ダンジョン通いに明け暮れている。このままでは、生活が成り立たなくなってしまうと」
医師の話を聞いていた青木は、「子供が生まれるとなれば話は別だ、もちろん妻と協力して子供を育てるさ!」と、反論した。
医師は、悲しそうな目で青木を見て、静かに首を横に振った。
「依存症の患者が、子供の誕生をきっかけに治癒することはありません」