カルテNO.3 青木(盗賊)3/10
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「早いとこ済ませちゃってくださいよ、先生。こう見えて私も忙しいもんでね」
青木の妻がシンオウメンタルクリニックを訪れてから3日後、医師の助言に従い、「健康診断を受けたほうがいいから」と妻から説得し、渋々青木本人がクリニックを訪れた。
「ええ、パパっと済ませましょう。それでは、検尿から」
医師は、とりあえず青木に調子を合わせながら、検尿コップを差し出した。
「こちらのコップの、内側の線まで尿を摂ってきてくださいね」
医師のあっさりした対応に、青木は肩透かしを食らいつつも「あ、はい」とコップを受けとった。
「トイレは診察室を出て右手です」
医師は、青木が記入した問診票を見ながら言った。
※※※
「採ってきました」
医師は、青木からコップを受けとると、試験紙をコップの中の尿に浸けた。
「結果が出るまで数十秒かかりますので、その間にちょっと質問していいですか」
すっかり毒気を抜かれた青木は、素直に「どうぞ」と言った。
「この、職業欄の『盗賊』というのは何ですか?」
青木は「ああ」と言って笑い、「今、パーティーを組んでダンジョンに潜ってるんで、ついその時の職業を書いちゃいました」と答えた。
医師は「なるほど」と言ったものの、「ダンジョンで盗賊って、何をするんだろう」と思った。
そうこうしているうちに、検査結果が出た。
医師はコップの中の試験紙をチラリと見て、「あともう一つ」と言った。
「青木さんが常用しているダンジョンハーブは、レッドフィル、ホワイトチアと…… あと何ですか?」
医師が何気ない風を装って聞くと、青木の顔から表情がなくなった。
「どういう…… 意味ですか?」
青木が、探るような目つきで聞き返す。
「どういうも何も、そのままの意味ですよ」
医師は、答えながらコップの中から試験紙を引き上げた。
元は白い紙だった試験紙が、尿に浸っていた部分だけ黄土色に染まり、さらにピンク色の水玉模様が浮かび上がていた。
「青木さん、あなたの病名は、ダンジョンハーブ依存症です」