カルテNO.3 青木(盗賊)2/10
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樹界深奥の内部は、外の世界と生態系が異なり、様々なモンスターが生息している。当然ながら、植物も地上のそれとは大きく異なる特徴を持っている。
樹界深奥がS県に現れた際、真っ先に研究が行われたのは入り口付近に繁殖している植物で、科学分析の結果、その成分が人体に様々な影響を与えることがわかった。
たとえば、摂取するとひどい下痢になる植物や、三半規管に影響を及ぼしてまともに歩けなくなる植物、頭髪が緑色になる植物などというものもあった。
大抵は、そのようなあまり有効な活用法のないものだったが、まれに体力が回復したり、MPが回復するなど、冒険に役立つものが発見された。
現在では、経験的に、人間に有益な影響を及ぼす植物がいくつか特定されており、それらを総称して「ダンジョンハーブ」と呼んでいる。
「ほう、ダンジョンハーブですか」
医師は形の良い眉毛をピクリと動かした。
「はい……」
女性はうつむいて小声で答える。
「ご主人がダンジョンで採集していたのは、脱法ハーブの原料ですね?」
女性は観念したように、黙ってうなずいた。
ダンジョンハーブは、人体に有益な影響を及ぼすものであるが、ダンジョンの深層で採れるものの中には、その効果が強烈なために、中毒性の高いものも含まれる。
このような、摂取した人間の健康や社会生活に悪影響を及ぼす恐れのあるダンジョンハーブは、所持や売買が法律で規制されている。
一方で、単体では規制されていないダンジョンハーブを混ぜ合わせるなどして、効果を高めたものが脱法ハーブである。
ダンジョンハーブの効能については、未解明の部分が多く、健康被害も報告されているため、脱法ハーブも法規制の対象にするべきとの動きがある。