外れ勇者
「皆様は異世界ルールの王国へと転移してもらいます。もちろん、拒否権はございません」
白い天女のような女性がそう語っていた。だがそこにいた人達は何かを考えるということは無い。それが出来ているのは真道ただ一人だ。
「それはおかしくはないですか? みんな起きろ」
彼の喝によってほかの人達も少しずつ疑問を持ち始める。女性はチッと舌打ちすると真道を睨みつけた。するとニコリと笑い一言彼に言った。
「あら外れじゃないの、まあそんな一点集中型ならすぐにあの世界で死んでしまうでしょうね」
真道はその言葉を気にせず続ける。
「それは後でもいいのではないのでしょうか。それじゃなぜ拒否権がないのか簡単に説明しろ」
真道の真っ直ぐな瞳は女性に刺さる。だが気にした感じはなくただフッと嘲笑った。
「貴方達如きに言う理由はありませんね。そうですね、私が神だからでしょうか」
逆に真道はハッと嘲笑う。それにイラついた自称神は炎の塊を真道に放つが当たらない。
「……チッ、嫌な能力ですね」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
真道の拳は地面に当たり自称神の力を見てひれ伏していたほかの人たちの頭を上げさせる。
「もういいわ、飽きた。貴方達のことはキチンと王国の方々へ言っておきます。特に真道君には厳しいでしょうね」
そう言うと彼らはその場から姿を消した。パチンと指で音を鳴らし小さな光の塊を見つめる。
「ああ、あのような人まで出来てしまうなんて。人間はなんと愚かでしょう」
自称神の言葉が永遠とそこに響き渡った。
「ようこそ、外れ勇者様」
神官らしき男性が真道の前にいた。真道は気付いていた。後に拷問器具を持つ兵士らしき人たちがいることを。周りに彼と共に来た人たちはいない。いや、元は同じクラスの人か。彼には関係がないようだが。
「貴方様には女神様へ逆らった罪を受けていただきます」
これ以上ない笑顔を浮かべた神官は外に出る。それに次いで外の兵士が中に入ってきた。真道は身震いした。恐怖からではない。本当にこんな人たちが兵士だとは思えないからだ。
「お前ら誰だ」
「もちろん、兵士さ。拷問専門のね」
そうして彼らは真道の爪を剥がし指をねじ切り始めた。ある決まった時間になると食事が送られ拷問を受けの繰り返し少しずつ彼の精神を壊していった。
ある日のことだろうか。兵士の気まぐれで彼に不幸な話を聞かされる。彼を思う少女が死んだと。同じ同郷の彼女は貴族にいいように扱われ最終的には奴隷として、オークに犯される見世物とされ死んだと。
兵士は笑った。これ以上面白いことがないというかのように。真道は唇を噛み締めた。噛みちぎられた唇から血が流れ自分の無いはずの手の感触が戻り始める。
ーーああ、そうか。俺が思っていたことはーー
彼は体を捻り拘束器具から抜け出した。気付かずに笑う兵士の首に手を付けて握り殺した。人殺しも悪くは無い。それが彼の思ったことだ。彼の現れていなかった能力が、ステータス欄に乗っていなかったスキルが現れる。
「自尊破壊」
彼は笑いながら城を駆け出した。
「概念変革」
彼が逃げ出したことに気付く者はいない。彼の場所にいるのは死んだ兵士であることを知らない。
ただただ憎む、彼はこの世界を。女神を、王国を全てを憎む。
彼が門から逃げ出しても気付かない。彼の本当の姿を知る者はいない。例え、脱走が判明したとしても。
彼は街を走るがそれを咎めるものもいない。そのまま気の向く方へ走る。門を抜け付いた場所は森の中だった。鬱蒼と生い茂る木に傷を付け彼は笑い走る。
興奮と言うデバフ効果が現れようと彼を殺せる者はいなかった。例え全てのステータスが五百を越えようと彼を殺すに至らなかった。
そんな時彼が現れた。薄らと残る意識の中ではゴブリンソルジャーなんて雑魚を殺していた奴だ。
真道にとっては人を狩ることに対して罪悪感などとうになかった。いうなれば彼は虎だ、猛虎だ。猛虎に何をしようと止めることなどできるわけがないだろう。
真道を襲う銃弾はスキルによって外れる。彼は焦った。真道は手で殺そうと近づけるがイヤフォンがそれを許さない。
真道はイラつき始めた。少ない理性は彼を殺すことに対して反発しているが、自分を止められるほどの理性ではない。
ブツブツと呟く彼に余計に苛立つ真道。だが攻撃は当たらない。
最後の攻撃はイヤフォンで止められる。真道の頭に手を置いた彼はただ一言呟いた。
「正気戻せや」
数秒の間、真道は彼らは苦しんだ。だがすぐにその苦しみから開放される。
ああ、彼には何をすれば恩を返せるだろうか。
真道はいつまでもそれを思っていた。理性は消えかけている。もう真道自身が死にかけていた。
そんな時にかけられた液体。それによって戻り始めた理性によって真道は少しずつ今の現状を確認する。
真道はこの時からヨーヘイに付いていくことを決めた。例え捨て駒にされようとも彼を助けたいと願った。それがこの後良い意味で叶うとは思っていなかったことだろう。
少し山月記をイメージして書き上げました。