ピックアップガチャ5と学園の切符1
「そのスライムはどうしたんだい? 怒らないから父さんに言ってみなさい」
「息子に威圧的すぎる」
彼が宿に戻って一番最初に行ったことは従魔が増えたことの報告。その結果がリースの腹にエレッタの拳が決まるということだった。
「……だから……ロスに負けているのか」
どこか変に納得したリースの肩に手を置きそうよ、と適当なことを言うエレッタ。
リースには見られていなかったがエレッタは不敵な笑みを浮かべ笑い声は抑えていた。
「だからこっちに来ましょう。少し話したいことがあるの。そう……この街に来て夜に行った場所のこととか」
彼はしーらね、と手を横にして背を向けた。彼は見なかったがその時のリースの顔は冷や汗で目も開けていられなかったくらいだ。
「でも、関連性ないのにいきなりそう言う話題出せるのは母さん凄いよな」
長い廊下で彼の声が響いた。
「……それじゃあやるぞ」
自室に戻る、というか今日もリーナの部屋に来た彼はすぐにベッドに腰掛ける。今日は彼がリーナの部屋に行く話はしていないためどうなるのかは、また別の話。
彼のその声とともに彼らは携帯に釘付けになった。それはもちろん、ガチャを回すため。
「一回目……外れ」
一回目は全てノーマル。あたりの確率から考えてそれが起こることは当然のことだった。
「二回目……Rが一個」
そうして順々にガチャを回していく。
「八回目……えっ?」
彼らの目に映し出されたのはガチャから排出された雷の剣と魔性の杖。計百八十回目にして彼らはピックアップガチャを大爆死なしてクリアした。
それの喜びは心に抑えられるものではなかったらしく、
「……やっ……いやったぁぁぁぁぁ」
元々ゲームに張り付いていた時、彼がガチャを回すとほとんどと言っていいほど失敗したことしかなかった。排出量八倍、八パーセントの確率で最高レアが当たるガチャを十回回しても当たることがなかった。
そのせいか彼はピックアップガチャを回すことには否定的であった。だが成功し、また仲間のレベルも上がっていたためその表情は満ち足りたものとなる。
きちんと倉庫の中を確認した彼の目には胡蝶の防具が全て書かれていた。
その喜びの中、彼はベッドで横になる。いつもなら避ける誰かとともに寝ることを許してその日は寝た。いつもはいつの間にか彼の部屋のベッドに女性がいるだけで彼はそれを許しているわけではない。
「今日からこの宿を閉めることにします」
朝起きた時に彼が見た食堂の看板である。前日のうちに街を出ることを聞いていたリーナは、いつもより早く起きて借用書を土地屋に渡していた。
寂しくなるな、と言う土地屋の男に対してリーナはそうですか、と返した。
笑顔で見送られる中、リーナの心の中には彼らとともに楽しい生活が待っているイメージしかない。
食事をいつも通り済ませる彼ら。昨日の一件から手を出す者はいない。
二台の馬車は比較的広かったため二人増えても大丈夫であった。ハクは空が良いらしく馬車の上に座る。
彼が元男子の馬車であった方の馬を走らせ、中にいるリーナとサーシャ、リコの確認をする。
「なんだかんだ言って父さんたちもいちゃつきたかっただろうし、いい機会だろ」
彼がそう言ってしまったためこのような処置がなされた。彼が後ろを振り向けば馬を走らせながらいちゃつくロスとビーズが見える。
これで良かったのだろう、と片手に引っ付くハクを撫でながら彼は魔法国まで馬を走らせた。
次回から国越えです。何事もなければいいのですがね(フラグ)
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