冒険者とは
「ところで、なぜこちらで冒険者登録をさせるのですか。すぐ近くに街がありましたよね」
受付の言葉にロスはすぐに答える。
「こいつのおかげで俺らが生きていられたことも含めて労うためだ。そのためにこの街に遊びに来たんだがこいつがいきなり冒険者になるって言い始めてな。それにあそこの名前は出すな。俺らの村が襲われた時に救援を断ったんだからな」
ロスの吐き捨てる言葉に何も言えない周りの人たち。
「まあそれでもヨーヘイのお陰で生きていられたからいいじゃないか。それにあの時は俺も動かないといけないくらいだったしね。本当に非戦闘員をこき使い過ぎだよ」
「……私たちのギルドではその話を重く受け止めさせていただきます。隣町への救援を一切断ることを決めて、周りにそれを認めさせます」
「二人ともやりすぎだよ。生きてたからいいじゃん。それに文面ではいいこと言っても父さん、威圧的過ぎだよ」
彼の一言によって周りにはられた重い空気は消え去り受付の人はホッと一息ついた。
「さっきの話をギルドマスターに言ってもらってもよろしいですか」
「ああ大丈夫だ。元々、俺とリースでその話をしたいって言うのもあったからな。ヨーヘイも来るか?」
うん、と首を縦に振る彼の頭をリースは撫でる。そのまま抱っこの体制で通された部屋まで連れていった。
すぐに髭面のおっさん、前にあったギルドマスターが現れるがとても腰が低い。
「すみません、来てもらって感謝しています。まさか龍を撤退させていただいた村の救援を断る町があるなんて。……きちんと罪は償ってもらいます」
「大丈夫ですよ、それはここにいるヨーヘイに助けてもらいましたから。それよりも言わなければいけないことがあるんです。女神信者十二使徒が活動を始めました」
リースの言葉に息を呑むギルドマスター。女神信者十二使徒はいつも歴史の中で混沌の災禍をばら撒き続けていた。その者たちによって滅んだ国も少なくない。
「……それでなんて人が現れたんですか」
ヨーヘイ、と合図をするロスに彼はわかった、と合図を返す。
「女神信者十二使徒の一人、ルーザーと名乗っていました」
「ルーザー……ビス帝国を滅ぼしたルーザーか。いくら攻撃をしても死なないという。彼女の能力の情報は持たないか。もしくはどうやって撤退させたかなど」
ギルドマスターは一生懸命なのだろう。机から前のめりになり彼に聞いてきた。彼は一言、
「思い込めばそれが力になる。そんな力だと思います。俺には同調という心を惑わせる能力があったので殺せるところまでは来たのですが。それでもルーザーよりも強い敵が現れてどこかへ消えてしまいました」
「それだけわかれば十分だ。感謝する。それにしてもリースの小さい時にそっくりだな」
「ああ、俺の子どもだからね」
ほぉー、と声を上げるギルドマスターに一つ聞いてみた。
「ロスや父さんたちがやった龍を撤退させた話を教えてください」
恥ずかしそうにしている二人を置いておき彼は耳を傾けた。
「彼らのパーティのステータスはあまり高くないんだ。だからこそCランク止まりだったんだが彼らの名前は酷く知れ渡っているんだ。というのも連携だけで軍の援軍が来るまで龍と戦い続け最終的には、少しずつの傷で龍をめんどくさがらせ撤退させてしまった。しかも軍が来る前にだ。それこそきちんとレベル上げしていればSSSランクも夢でないというのにやる気がないみたいでな」
「やめてくれ、それは運が良かったんだ。盾が保ってくれたことやロスの気のそらせ方、エレッタの魔法、ビーズの結界。それが上手く作用したからさ」
「それは俺も同感だ。そして俺らの全てをこいつは受け継いでいると言っていい」
唐突にロスに褒められたため彼は赤面する。ギルドマスターは値踏みするように見るがすぐにやめた。
「この子は強いな。二人のパーティのような連携だけでなく個々でも強いと言ったところか」
「まっルーザーと真っ向面から戦ったのはヨーヘイだしな。それに死にかけの俺をこいつの力があったから生き返れたし」
ロスは悪ガキのように笑う。それを見てギルドマスターも笑い返した。
「この子のギルドランクはCでいいか? 二人と同じくらいからであればなんとかなるぞ」
「頼む、こいつにゴブリンとかストレスにしかならねえよ」
ギルドマスターは少し待っていろ、と言うと奥に下がっていった。三分ほどでギルドマスターが戻ってくるとCランクと書かれたギルドカードを彼に渡す。
「もちろん、貴族からの指名依頼は断る形でいいんだな」
「それでいいです。二歳で知らない人と関わるのはあまり好きじゃないので」
彼の言葉を聞いてまたギルドマスターは驚いた。
「少なくとも五歳ほどだと思っていたぞ。二歳児がここまで大人びているものなのか」
「うちのサーシャとこいつだけだ。サーシャは大人びているというより恋に溺れてると言った方が正しいしな」
ロスの言葉に彼とギルドマスターは苦笑するしかなかった。
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