初めてのダンジョン1
彼らが帰る頃にはダンジョンに向かっていた冒険者たちも帰っていた。冒険者たちが言うにはダンジョンが少し変化していたらしい。
ダンジョンというものは出来てから大きくなることはあっても中が変わるということは無い。それはダンジョンの性質にある。
人が入って死んでいくことによって宝とお金を増やしていく。人の死体がエネルギーとなり大きくなっていくのだが、例えば大人がいきなり身長を三十センチも小さくなるだろうか。まさにそれと同じく中が変わるということはなにかが関わっているということになる。
そして姿を消したララは低層にいなかった。となれば最下層近くにいる可能性が高いということになりギルドは急いで依頼を変更した。
『Cランク以上の探索者の仲間がいる冒険者パーティにギルド職員、ララの救出をお願いする』
これにより報酬がとても高くなり、また彼らもその依頼を目に通す。
「……ララがいなくなった……か」
彼は少し悲しんだ。それを見たサーシャとハクはララと揉め事を起こしたとはいえ助けたいという気持ちを強くする。シンドウは彼が助けるというなら力を貸す所存であり、リーナやリコも同じ意見だった。
いやリコに関しては、
「お兄さん、助けに行きたくないの」
と言ってしまう。心を隠そうとはせず言葉に表し彼を見つめる。
彼は少しぶつくさと言うとすぐに素材提出場の職員に聞いた。
「この依頼を受けて完了したのですが。一つ聞かせてください、こいつを倒せるような人であればDランクの俺でもあの依頼を受けることは出来ますか?」
彼が出したのはスケルトンの骨。この世界ではスケルトンのような死者の魔物は倒すのにとても苦労する。そして依頼で見た限りではスケルトンはBランクだ。死者の魔物で一番弱いスケルトンでさえBランクだ。そして彼はハーピィクィーンを従魔にしていた。だからこそ職員は、
「……少しお待ちください。ギルドマスターを連れてきます」
少しして髭面のおっさんが現れる。筋肉がすごくシンドウの数倍はあるだろう。
「お主がヨーヘイか。……いい目をしているが本当にそこまで力はあるのか」
ギルドマスターの一言で彼らに強い威圧がかけられる。シンドウたちは動けなくなるが彼の装備しているイヤフォンに全状態異常無効の効果がある。威圧など聞くはずがなかった。
「……ふんっ、ただの小童かと思えばこれくらいなら耐えるか。良い、こいつのギルドランクをBまで上げろ。他は微妙だがな」
そんな上から目線のギルドマスターは威圧を止める。その瞬間にリコは泣き出しリーナは宥めていた。
「……おい、クソジジイ」
彼はベレッタの銃弾をギルドマスターの横に撃つ。それに怒るわけでもなくただギルドマスターは彼を見た。彼の顔は赤くなりイヤフォンは体に巻き付くのをやめ彼の目の前で円を描いている。
「子どもを泣かすのは少し違うんじゃねえか。それにリコは俺の大切な……仲間なんだよ」
「……殺す気で来たか。悪くない。だが、確かにその通りだな。悪かった。嬢ちゃんには謝っておいてくれ」
彼の睨みつける目に少し戦きながらも淡々とギルドマスターは続ける。ギルドマスターは明らかに彼に恐怖を抱いたのだ。元とはいえギルドマスターになるためにはSSランク以上でなければいけなかった。SSSランクの魔物と戦ったこともあった。それでも恐怖を抱くことは格上でなければありえない。ギルドマスターは彼を格上だと認めなければいけなかった。
見慣れない武器と防具のような白い紐。これが彼の本気かと思うとギルドマスターは戦いたいという願望に襲われる。だがギルド職員の方が大切と考えその気持ちを抑えた。その代わり、
「……頼む、ララを絶対に助けてやってくれ」
ギルドマスターの本音が彼に聞こえたのかどうかはわからないが、それでも彼の歩く力は明らかに強くなる。
彼はすぐにギルドカードを渡しBランクにしてもらい緊急依頼、ララの救出を受けた。
ダンジョンは街のすぐ近くにある。ギルド職員の話では職員が一ヶ月に一回ダンジョンを見るらしく、今月の担当がララであった。ララはああ見えてCランクであったらしく、いつもなら二日で帰ってくるはずが五日間も帰ってこないのはおかしいと緊急依頼を出したらしい。
洞窟のような入口に立つ兵士のような人に緊急依頼の紙を見せる。敬礼を一つして兵士は中へ入る許可を出してくれ彼らは初めてのダンジョンに踏み入った。
ギルドマスターが探索者の話もせずに彼らに依頼を許可したのは、過去剣聖と呼ばれる人が冒険者に入りたての頃単独でダンジョンをクリアしたことがあります。そんな前例があったのでヨーヘイと剣聖に似たものを感じてギルドマスターは許可を出しました。
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