綺麗なエルフ2
上手い具合にリコの耳を覆ってくれていたリーナ。彼はそれに感謝しながら話を聞かせる。
「今の領主は公爵位の者が担当している。公爵つまりはギルドで絡んできたあいつや親に関連してくるんだろう。そしてそれでお金を貰って行動しているのが宿屋の同業者って所かな。本当にリーナさんがこの宿をくれるって言ってくれて助かったよ」
彼は不敵な笑みを浮かべ三人を見つめた。シンドウのグローブは破壊、つまりは全てのものを一度のみ破壊することが出来る。そしてサーシャの事象の杖は魔法攻撃を一度吸収することが出来る。そして速度の速いハク。彼の中で全てが定まった。
「あいつらの鼻を明かしてやるか。シンドウ頼む」
シンドウはコクリと頷き能力を発動する。彼らの認識を少し曲げ彼らを彼らと認識出来なくなった。それはリーナやリコも例外ではなく二人は戸惑う。
「安心してください、これからあなたたちにおかしなことが起きることはありませんから」
彼の笑顔にほだされたリーナは昔、夫と出会った頃を思い出した。死んだ時に悲しみを分かってくれたのは公爵家の息子、それが下心から来ていたことは知っていたがここまでやるとは思ってもいなかった。
リーナの心からの笑顔を見たリコは戸惑っていた。母親のそんな顔を見たことがなくまた彼の笑顔に心が少し締め付けられる。それをまだ恋と知ることはなかったがそれでも親のその笑顔にリコは嫉妬した。
「それでは行ってきます」
彼の笑顔はとても儚げに見えたリーナは彼の手を取り近づけ抱きしめた。ただ一言死なないで、とだけ呟いて。
彼はその一言に勇気を貰ったのかベレッタを取り出した。現在弾丸は三百五十発、そして武器強化石を使って+4まで上がった。四まで上がったことで弾丸の一発に対して二発撃ったことになる。つまりは一発消費で二発撃ち込めるということだ。
そして誰も彼らに気付けずに領主の家に到着した。おっさんは今は近くにいるようだ。今日は公爵と戦う予定はない。シンドウは領主家に一発撃ち込み壁を破壊して陰に隠れる。すぐに衛兵たちが現れるが誰も彼らに気付けない。
やはりと言うべきかあの息子も出てきたが執事はいない。彼はそれに気付き即座にマップで調べる。執事がいる場所は夏の鳥。なるほど、と彼は納得した。というのもおっさんが来るように言ったのは夏の鳥。そこで執事が彼らを襲ってハクを奪う気だったのだろう。
そしてすぐに何が関わっているのかを知る。
「そのようなことは盗賊の義に任せれば良いであろう。今はあの魔物と女を手に入れることが一番である」
彼はすぐに盗賊の義の場所を調べる。領主家のすぐ近くであったため彼はすぐにそちらへ向かう。
領主家の目と鼻の先、その場で盗賊の義が滅ぶのを見たらどうなるだろうか。彼はそれを考え笑顔になり皆それに賛同する。
認識変化させたハクを先に行かせ大きな魔法を撃ち込んでもらう。ハーピィは風魔法を操りクィーンともなるとその威力は数キロを一発で消し去るほど。
それがいきなり、しかも認識の外から撃たれたらどうなるか。結果はまずその家が崩れる。称号というものは罪なき者に行えば罪とされるが罪ある者であればそれは罪にはならない。つまりは中にいた人はほとんど生存反応を消し残った者もその状況を理解することは出来なかった。
そして現れた彼らに攻撃を仕掛けるが全ての魔法が吸収される。敵の行った攻撃は全員で魔法を合わせて威力を上げるというもの。それを吸収された敵が繊維を喪失するのは当たり前だった。彼は剣で首を落とす。レベルの上昇は無かったがそれでも彼は人を殺しても罪悪感を感じないことはわかった。それだけで十分だったようでそのまま宿に戻る。
その頃には執事は彼らがリーナの宿に泊まったことを知り向かっていた。そして彼女の前に執事は現れる。
「もし死にたくないのであれば付いてきてもらいましょう。……それとも娘さんを殺されたいですか」
無慈悲で選択肢のないその言葉。だがリーナは少しも怖くなかった。リコも震えることすらしない。それもそのはずだ。この状況こそ
彼の予想通りだったから。
まず執事は焦っていた。それが判断を誤らせたのは間違いないだろう。一瞬で崩れ落ちた場所が盗賊の義という裏ギルドだということはすぐには気付かなかった。というのもそこは悪名高き場所で敵に回すものなどいない。それが市場での意見であった。それが落ちたということは公爵の息子も何かあったかもしれない。そう忖度しているうちに時間を無駄に使った。彼は一度も依頼を失敗したことがない。そして彼は元とはいえAランク冒険者であった。おじさんになった彼を必要としたのは評判は悪いがそれでも仲間には優しい公爵家のもの。そのうち心を開き例え悪事であろうと執事は手を貸すようになった。そんな彼が判断に時間をかけたのは当たり前だろう。
そしてそれだけの時間があれば執事が着く頃にはもう、
「遅かったですね、盗賊の義は潰させてもらいました」
彼はリーナのすぐそばにおり執事を見下す。その視線に苛立ちを覚えた執事は剣を取り出し攻撃を仕掛けた。だが執事の剣術レベルは三であり剣術レベルが六になった彼の足元にも及ばない。ステータス差は二百前後、スキルの力がなければすぐにやられていただろう。
しかし武器のランクも違うため徐々に彼の鉄の剣から嫌な音が聞こえ始める。その音が聞こえ始めてから数秒後に鉄の剣は折れ執事は価値を確信した。
それを見て彼はフッと笑いベレッタを撃ち込む。二発の銃弾のうちの一発はギリギリ回避した執事の頬を掠め、もう一発は執事の手に直撃する。油断をした執事は両手で剣を振るうことが出来ず余計に力が入らない剣で攻撃を受け止める。二本目の鉄の剣はまだまだ折れる心配はなくまた攻撃の練度もさっきより高くなっていた。
それに気付いた執事は後にバックステップを決め下がることに成功する。が、それを見越して彼が行ったことはベレッタを撃つことだった。両肩に当たった弾丸を無視して攻撃をしようとするがここで執事は気付いた。
二人いる少年のうちの一人がなにか首を持っていることに。それが確実に公爵の息子とは限らないが、ただでさえ焦っている執事の心をかき乱すにはちょうど良く彼を見失ってしまった。
そして一瞬で彼は執事の首を落とした。ごろん、と落ちた首は何も言わない。彼はそれを見て嘲笑いただ一言、さようならと告げた。
今回の公爵の話はもうそろそろで終わりますがまだまだ序章に過ぎないため、これから一つの物語も長くなってきます。
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