エピローグ☆
「うわぁぁぁ、折角全財産全部注ぎ込んだのにボスにやられたぁぁぁ」
パソコンの画面の敵の体力を表すバーはあと残り少しとなっており攻撃をもう一回当てれば倒せていた。だからこそあの時の行動を彼は後悔する。
「ちくしょう、あともうちょっとだからってポーションケチったのがミスだったか。……はぁセイナになんて言おう」
そんな時都合悪くと言えばいいか分からないが、充電したままにしていた携帯が鳴り響く。画面を確認すると朝倉静那と書かれていた。彼はため息を吐きながらその電話に出る。
「よーへい、ねえねえ勝てた勝てた?」
電話越しでも呼吸が分かるほどに息を荒らげ話しかけられたことに少し彼はイラついた。だがそれ以上に申し訳なさが勝ってしまったため彼は即座に謝罪の言葉を述べた。
「すまん、あともうちょっとってところでやられた」
「あちゃーだから回復は絶対って言ったのに」
彼はすまんとしか言えずその内セイナは飽きたのか、
「じゃあ気晴らしに明日でも遊びに行こうよ。昨日あんなことあったばかりだったし」
と言い始めた。そもそも彼とセイナは昔からゲームでお金を落とす超課金ゲーマー。今回彼が小遣い全部をつぎ込んだのには理由があった。
そんな大したことない思考に老けている彼にテレビのアナウンサーが大きな声が耳に突き刺さった。
『昨日、○○高校で集団失踪が起きました。生徒の話によるといなくなったのは一クラス分の三十八人。警察は身元を捜索しています』
「あーやっぱりその話ばっかりだね。その日に限って遅刻して良かったのか悪かったのか」
「俺は良かったと思うぞ。……お前がいなくなってたら俺耐えられたかわからないからな」
「なに? 告白?」
「なわけ、腐れ縁が長すぎたからな。流石にいつも一緒にいる人がいないとキツいだろ」
セイナは電話越しにそういうことにしておくよと言ってはいるが小声で、
「ということは私の名前は金倉葉平の奥さんだから金倉静那。……うん悪くない」
と言ってたのは彼の耳には届いていない。
「それで明日遊ばない。あんなことあってゲームでも負けちゃったしさ。今なら奢るよ」
そういうことならと言って彼は時計を見た。するともう午後十一時を過ぎておりいつもなら寝ている時間であることに気付いた。そのまま親に明日の予定を言ってから布団に入る。
やはり布団の温かみには勝てないないのだろう。彼は数秒経ってすぐに寝てしまった。
「あなた達には魔王を倒す勇者となってほしいのです」
夢とわかるような空間にいなくなったクラスメイトが見える。おどおどしている彼の担任の先生の美夜ちゃん先生。その周りにはただ愚痴をいうだけの人たちも多い。
「僕らがやるしかないんだ」
「先生はあまりそういうことをして欲しくないな」
「暁さんと春馬くんが勇者だったんだね。確かにぴったりだよ。……えっ暁さんどこ行くつもり」
どうやら二つの派閥に別れたらしい。魔王を倒す勇者組と自由に生きると宣言した先生の組。自由を選んだのは十人ほどらしい。その中には暁と呼ばれた勇者もいた。城から出るものは金貨のようなものを一人一枚渡され城から出ていた。
「君は勇者になるかい」
そんな声とともに彼は夢から目が覚めた。
うるさく鳴り響く目覚まし時計に片手を乗っけながら目を覚ます。彼は何度か起きて寝てを繰り返していた。それに気付いた彼はやばいと考え携帯を開く。
するとセイナから楽しみという文章のメッセージが十件くらい来ていることに彼は気づいた。
もしかしたら構って欲しかったのかもしれない、と考えごめん寝てた、と彼は返す。
彼は低血圧なのか朝起きたては具合がいつも悪い。悪い時は朝食をとると吐いてしまう時もある。だから今回は朝食を取っていなかった。
自転車に乗りながら走るとそれから一つ二つと赤い空の破片が目元を通る。彼の自転車に絡まることはないがそれでも視界を妨害していることには変わりなかった。
待ち合わせの場所に時間より十五分前に着く。まだいないだろうなと思って待っていると彼は知らない女性から話しかけられた。
「なんで無視するの」
少しサイズの大きめなワンピースを着てツインテールにしている女性。彼の身長が百七十五だが二十センチくらい違う。
「あっセイナか」
せいかーいと言いながら微笑む姿はいつものセイナとは違った。そのせいか少し彼ははにかんだ。
下に引かれたレッドカーペットを踏み付けながら二人は待ち合わせ場所を後にする。
「まあ外で遊ぶの久しぶりだもんね。中学校の頃はよく遊んだのにな」
「高校入ると忙しいからな。仕方ないだろ」
そうだよねと言うと急に興味をなくしたのか手を取って前を走り出す。今の季節と同じで変わりやすい心なんだな、と彼は苦笑する。
「で、最初どこいくつもりだったんだ」
「えーとね、そうそうゲーセン。やっぱデートと言えばゲーセンでしょ」
彼の住む場所にはいくつものゲームセンターがある。それでも彼は彼女がどこのゲームセンターに行きたいのかは余裕で理解出来た。
「駅前の近くのだろ。本当はゲーセンの近くのゲームコーナーで新作ゲームを確認したいだけの癖に」
バレたかとセイナは言いすぐに目を合わせてくる。
「でも二人でゲーセン行きたかったんだ。中学の時はゲーセン禁止だったし」
「そりゃ俺たちの先輩達がゲーセンで馬鹿やらかしたらそうなるだろ。公立の学校なんて生徒がそんなことしたら叩かれるってわかってるんだから」
「でも、それでも」
セイナは黙った。数秒黙ったかと思うと意を決したかのように声を出した。
「私はヨーヘイの事が好きです。だからこれからもその先もずっと」
その声の続きを紡がせないように周りの大人達の声が響く。
「そこの二人早く逃げろ。鉄骨が落ちてくるぞ」
彼らの真上から降り注ぐ光を遮ったその鉄骨たち。それから目をそらすためかそれとも恐怖からか彼らは瞳を閉じた。その後鉄骨が地面にぶつかる音も感覚がなくなったということもない事に彼は気づく。疑問に思い目を開けると眼前に広がったのは鬱蒼と広がる森林だった。
【さあ、ゲームの始まりだよ】
【チュートリアルの開始】
ポケットに入った携帯が鳴り響き手元にさびてボロついた片手剣が現れた。
すいません、幸先悪く失敗から始まってしまいましたがどうぞイヤフォンをよろしくお願いします