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カゲロウの丘  作者: 个島
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オペラント

 その翌日,怜は再び河原に足を運んでいた。

 ただ,ゴミを集めるは良いにしても,その運搬と処理が問題だった。

 目の前から軽トラが走ってくる。軽トラが使えたらなと,内心でそう思った。

「軽トラが使えればなあ」と,声がした。

「そう思ったでしょ」

 振り返ると颯太が立っていた。

「俺もお宝探そうと思って」そう言ってニヤリと笑った。

 怜はいよいよ颯太が不気味になった。似たような光景を映画で見たことがある気がする。そうだとしたらこの人物は僕が作り上げた空想上の人物で,現実には存在しないという展開になるのが一般的だ。

 その人物は薄ら笑いを浮かべ,両手に火ばさみを持ってカチカチ鳴らしている。

「なんで?」怜は混乱した様子だった。

「ご都合主義な展開すぎて混乱しているんだな。苦労人だな」

 颯太が火ばさみを片方渡してきた。

「これ貸すから,そのかわりお宝見つけたら報告して」

「だから,お宝って何?」

「見つけたらわかるって!」颯太はニタリと笑うと河岸へ降りて行った。

 怜も後に続く。

 颯太の意図はいまいち理解が出来なかったが,同じ作業をする仲間が居るということが嬉しくて仕方がなかった。

 火ばさみの性能は圧倒的だった。昨日よりも収集の能率が圧倒的に向上しているのが実感できる。

 昨日よりも早い段階でゴミ袋がいっぱいになった。

「こっちはもう一杯だけど,そっちは?」怜が颯太に声をかけた。

「半分くらいかな」颯太が答えて近づいてくる。

「これさー,分別とかしてる?」颯太が訊ねた。

「・・・してない」怜が渋りながら答える。

「やっぱした方が良いよね」

「そっちの方がベターだろうね」

 話し合った結果,可燃・不燃で分けることに決まった。怜が可燃ゴミ,颯太が不燃ゴミの担当となった。

「面倒だけどこれ,分けるよ」怜が自分の持つ袋を指して言った。

「じゃあこっちのもやるか」颯太もそれに続く。


 二人は公園に移動し,分別をすることにした。

 不燃ゴミだけを袋の外に取り出していく。改めて見返すと,本当に多種多様なゴミが存在することが分かった。

 中には判断が難しいものもあった。

「これってどうなんだ?」怜が火ばさみで黒いプラスチックケースを挟んでぶら下げる。

「可燃でもいい気もするけど・・・」

 それを見た颯太が声を上げた!

「これはもしかして!」

 颯太がケースを手にするとそれを開いて言う。

「お宝じゃないか!」

 中身はDVDだった。その盤面には,男子中学生の想像をおおいに湧き立たせるようなタイトルが印字されている。

「え?これ見るの?」少し間を置いて怜が訊ねた。

「君には夢がないなあー」颯太が呆れる。

「こういうフツーは手に入れちゃいけないものが拾えるのが面白いんだろ?」

 怜は腑に落ちない様子だった。見ないのに楽しめるのだろうか。

「持ち帰る?たぶんまだ再生できるぞ」颯太が提案する。

「いや,いいよ!」怜は慌ててゴミ袋に放り込んだ。

 分別を続けていくと,軽トラがやってきて,公園入口の路肩に止まった。

 運転席から麦わら帽子をかぶった60~70代くらいの歳の男性が下りてきて,荷台にある草刈り機を取り出している。

 一応この公園も定期的に手入れがされているようだ。町がボランティアを募っているんだろうか。

 その男性は草刈り機を構えて公園に入ってきた。

 怜が見つめる先に颯太も顔を向ける。

「たっちゃん!」颯太が手を挙げて声をかけた。

 その男性は暫く顔をしかめてこちらを見ていたが,すぐに颯太に気が付いた。

「あれ!そうちゃんかい!何してんだこんなとこでー!」顔をしわくちゃにして笑いながら,こちらに歩いてくる。

「いま川のゴミ拾いしてるんだよー」颯太が返す。

「そりゃあえれえなぁ。爺さん元気か?」

「ああ,元気だよ」

「そりゃよかった。たまには顔出さんとなあ」

「きっと喜ぶよ」

 二人は顔馴染のようである。会話の内容からするに,颯太の御祖父さんとの知り合いのようだった。

「お友達かい?」たっちゃんとよばれた男性が怜の方を見て話しかける。

「そーそー。一緒に拾ってて」颯太が返した。

「は,はじめまして」怜はとっさに立ち上がると緊張しながら挨拶する。

「はぇ。今の子はスリムだぃなあ!」そう言って声を上げて笑った。

「そうちゃんと仲良くしてやってくれな!」男性が続ける。

「はい」怜が短く答える。

 本当はもっとスムーズに会話がしたいのだが,初対面の人と話すときはいつもあがってしまう。

「ショウマさんにはみんな随分世話になったんで頭が上がらねえや」

 そう続ける男性の言葉を誤魔化すようにして颯太が言葉を挟んだ。

「そんなことよりさ,集めたゴミどうするか迷ってんだー」

「ああ,そんなもんその辺おいときゃええや」男性が返す。

「草刈り終わったら一緒に持っててやらあ」

「実はこれよりもっとあるんだよ」颯太が続ける。

「いいよいいよ。一日じゃ草刈り終わんねえんだから」

 その男性の言葉に二人は礼を言うと作業を続けた。


 その翌日も同様にゴミ拾いは行われた。

「もう少し上流にいこう」怜が提案する。

「これ,どのくらい続けるとか決まってるの?」颯太が返した。

 怜はその言葉に少しムッとした。すぐに「頼んでもないんだから嫌ならやらなくていい」という台詞を言いたくなったが思いとどまった。

 颯太の恩恵に与っていた部分がかなりある。頼んでいないことだったとしても,それを口に出すことで恩を仇で返す形になってしまう。

「特に決まってない」と,正直に答える。

「ふーん」颯太は気にする様子もなく後についてきた。

「付き合わせちゃってごめん」怜がぎこちなく謝罪を言葉にする。

「実は聞いたんだ」颯太がぼそりと言った。

「え?」怜が訊き返す。

「この間,校舎から飛び出すのを見たんだよ。それで,平林に何があったのか訊いたんだ」

 平林。怜と同じ部活動に所属する同級生だ。勿論,あの発表の場にいた。

「そういうことだったのか」怜が呟いた。

 颯太は全部知っていた。その上で,いまここでこうしているのだった。

 怜は戸惑った。颯太は何を考えているんだろうか。

 作業に夢中な間はあまり気にならなかったが,立ち止まってみると小川から漂う生臭い匂いが鼻にまとわりついてきた。汚濁されている証左なのかもしれない。

 こんな気休め程度の仕事で,この川の水質が改善なんてされるはずはない。そんなことは,颯太にだってわかりきっているはずだった。

 ほんとうに彼は善意から行動しているのだろうか。からかいがてら,思わせぶりな行動をしているだけなんじゃないだろうか。しかし,今までの言動や取り組む態度からしてそうとも思えなかった。

「カゲロウの丘のこと,誰から聞いたの?」颯太が訊ねた。

 怜の表情は強張った。

 睦のことを話したところで,結局のところこの行為への動機が自分のエゴであることを知ったら,颯太は何を思うだろうか。

 正直に話さない方が良いのかもしれない。

「どうして?」怜は訊き返した。

 上手く言い訳できる筋書きを考える時間が欲しかった。

「そのことを知っている人なんて,殆ど居ないんじゃないかなー」

 殆ど居ないというのはどういうことなのだろうか。知っている人間の検討なら大体はついているということなのだろうか。

「俺もじーちゃんに聞いたくらいだけど,じーちゃんも昔の話のように語ってたし・・・」

「そうなんだ。そんなに昔のことなんだ・・・」怜が返す。

「うん。だからそれを復活させるだなんて聞いた時はビックリしたよ」颯太が笑った。

「無理だよ」怜が吐き捨てるように言った。

 冷静になれない自分がいた。無駄だと知っていてあえてやっている,つまり余計な行動に他者を巻き込んでいるという罪悪感がある。そして,その動機が自己満足だという後ろめたさもある。

 なにより,善意で手伝ってくれているのかもしれない相手を嘘をついてだまそうとしていることへの良心の呵責があった。

「そうだろうねー」颯太が飄々として答える。

 その言い方はいかにも無責任で無関心な様に聞こえ,怜は気が付く前に颯太を睨んでいた。

 だが目が合った以上はもう遅かった。迂闊だったことを悔やみながら咄嗟に目を逸らす。

「ごめん,怒らせるつもりはなかったんだけど・・・」颯太が苦笑いして答えた。

「俺もできることなら見てみたいんだよ。カゲロウの丘」颯太が視線を合わせないよう泳がせながら弱弱しく言う。

「だから協力させてほしい」颯太と目が合った。

「ありがとう」怜が答えた。

 それから暫く二人は無言で作業に徹していた。

「動機はきかなくていいの?」怜が沈黙を破った。

「動機?」颯太が訊き返す。

 怜は内心で頭を抱えた。自分で地雷を踏んでしまった!

 黙っていれば,怜が誰かからカゲロウの丘について教えてもらい,それが見たいから行動に起こしたと勝手に解釈されるのが自然だったはずだ。

 動機が,「睦を喜ばせたい」という身勝手なものであることを隠しておいていいのだろうかという葛藤から,つい口が滑ったのかもしれない。

「なんでもない」と慌ててお茶を濁す。

 颯太は勿論その言葉で何かを悟った。

「ああ,別に気にならないかな」

「だって結局は復活してほしいから,無駄だと思ってもこうしてるわけでしょ」

 颯太らしい返答だった。

 怜もただ簡潔にそうとだけ答えた。

「いったん区切りがついたら,川の生き物調べない?」颯太が提案する。

「道具なら俺が持ってるから」怜の懸念を見透かしたかのように颯太が笑った。

 たしかに,ゴミだけ拾っていったところで状況は改善しない。生物相が分かったところで太刀打ちできる気もしないが,何よりもゴミ拾いよりはやってて楽しい気もする。

 颯太の提案に乗らない理由などなかった。

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