幕間
「ほう、あの少年が?」
隆禅高校のグラウンドのど真ん中で男が呟いた。
男の出立ちはおよそこの場に――いや現代のどの場にもそぐわぬものだった。
服装自体は何処にでも売っている普通のシャツにジーパンだ。しかし、男を異界の住人せしめているのはその手に握った一振りの剣だ。
豪奢な装飾を施されたそれは、その昔の兵隊では無く貴族の観賞用に作られたかのようだ。さらに男の腰には二丁の拳銃が黒く光っている。 そんな男が一人で高校のグラウンドに立って、熱心に何処かの階を見上げていた。その瞳には喜悦と狂気が見て取れる。
「はい」
いつの間にか影から現われたように男の後ろに人影が現れて、先程の男の質問を聞いていたかのように言った。
その人影は男よりもさらに奇妙だった。
何故ならそれは爪先から頭まで、全身を隙間なく鎧で包んでいたからだ。
それは何処の国の鎧にも似ていない、強いて言うならアルカディアに似た鎧だった。
そんな異形がグラウンドのど真ん中にあるというのに、誰一人として気付くどころか見向きもしない。
「配置完了いたしました」
「そうか、じゃあ始めるぞ」
鎧の言葉に男は口を喜悦に歪ませた。
「科学と魔術の混合などという馬鹿げたことの要たるあの少年を捕え、我らが悲願を達成させるのだ!」
高らかに謳い男はターゲットを見上げる。そこにはグラウンドを見下ろしながらもこちらに気付かない草薙雅哉の姿があった。