第5話
入学式が終わった放課後、僕は光一と帰っていた
「いやぁ、俺のクラスでも青山空の話題で持ちきりだったよ」
「僕のクラスでもそうだったよ」
ここで光一が小声で話しかけてくる
「ここまでくると渚も大変だな。まさかここまで売れるとは」
「うん、これは予想外。でも、もう新作は出さないけどね」
「え、なんでだ?ここまで売れてるんだから出すべきだろ」
「父さんと、母さんのことを考えるとそんな気分になれない」
そう、いくら回りが事故だといってもあの旅行さえ行かなければ
二人ともまだ生きていたはずなのだ
「だから、もう書かない。書きたくないんだ」
「そっか…じゃあ仕方ないな」
「反対しないんだね」
「反対したって書くのはお前だ。本人が書きたくないってんなら
しょうがないだろ?」
「そう言ってくれるのは光一だけだよ。ありがとう
1年もたてば青山空なんて皆忘れるよ、きっと」
「それはどうだろうな、なんたってこの1年間出し続けてるんだから
皆、そうそう忘れないと思うぞ?」
「まぁどうなるかはわかんないけどね。これからは
静かに暮らしていくよ」
「個人的には惜しい気もするけど、お前が決めたんだ
その通りにすりゃいいさ」
そんな言葉を交わしつつ家に着き、僕は光一と別れた
次の日から僕は目立たないように生活していた
何度か遊びにも誘われたがすべて断っていた
とても遊びに行ける状態ではなかったからだ
小説家、青山空の話は聞かない日がなかった
一か月、半年と時は進んでいきもうすぐ1年がたとうとしていた
今日は終業式だった、高校での1年が終わろうとしていた
「明日から春休みかぁ。渚は何か予定とかあんの?」
「僕は特に何もないかな。光一はどうなの?」
「俺も特に何もないかなぁ。暇があれば渚の家にも行くよ」
「わかった、来年は同じクラスになれるといいね」
「そうだな、じゃあ俺は用事あるから先に帰るわ
またな、渚」
「うん、またね」
家に着き、仏壇の前まで行き手を合わせる
これが今の日課になっていた
「父さん、母さん僕は今それなりに楽しく生きてるよ
でもやっぱり二人にはそばにいてほしかった」
最近は涙も出なかったけど、節目だからなのだろうか
久々に涙が流れてきた
「次からは高校の2年生、僕頑張って生きていくからね」
そして時は過ぎていき春休みが終わった
光一は結構な頻度で様子を見に来てくれた
そして始業式、光一とは同じクラスになれた
担任も去年と同じく雨宮先生だった
しかし、今日僕の運命を変える存在と逢うとはこの時の僕は知らなかった
次回、ようやくヒロインが登場します。