序章 7
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日ノ本-ひのもと-
今や世界の中核を担う一国へと躍進し、他国が羨む程に経済成長の著しい国となった。
その要因となった大元は『新人類』の発見。
当時、諸々の学者・研究者は世界大戦の火種と成り得る『新人類』の扱い方に苦悩していた。当然だ。新人類の発見はこれまでの歴史すら覆しかねない大発見である。
故に自国の利益をと算段する国々が多種多様に声を張り上げた。
その中である国は賄賂で、ある国は政治的圧力で、ある国はその手の者を用いた脅迫にて学者・研究者を自国へ引き込み、研究における主導権を自国のものにしようとした。
しかし、他の国々よりも先んじて新人類の人権の尊重や保護の重要性に声を上げていた日ノ本を学者・研究者は支持した。我先にと利権を争い出す国々よりも平和的に問題の解決を目指す方針を取る国の方が自分たちにとっても都合が良かったからだ。
その甲斐もあって日ノ本は国連認定の下、新人類の保護活動を主導する立場へと相成った。と、同時に新人類の成り立ちやその解明の研究もまた日ノ本が主導権を握った。
それにより、研究施設・研究環境の整った日ノ本へと新人類の研究に携わる者たちは挙って集まる結果になる。
表面上は友好的に外交関係を築くも腹心では恨み嫉みの業火を滾らせる国々も多かったが、短絡的に反発して反感を買えば他国から出し抜かれる状況にどこの国も流石に自重した。
が、そんな中でも威圧的に高圧的に日ノ本へと食って掛かる国々もあった。カメリタ集合国、中央王国、シュアロ共和国がその最たる国々だった。
自国領土が広大な分、国民数も多いこの3国は新人類の輩出も、“罅”の発見箇所も他国より数段に多かった。故に日ノ本が妬ましいのだ。
3国共に世界最大国家としての自負を持っていた。これまでの歴史を顧みても自国が世界を主導する立場であるべきだと心の底から思える程、自他共に認める大国だったのだ。
ここで如何にして日ノ本を陥れようかと画策し、暗躍していれば未来は違っていたのかもしれない。はたまた、一足も二足も遅くとも日ノ本に賛同する声を上げておけば良かったのかもしれない。
だが、この3国は何故か互いに醜い足の引っ張り合いに終始してしまったが為に早い段階で日ノ本に次ぐ利権争いから脱落してしまった。
敵の敵は味方、などというトンデモ理論を発揮してしまえれば良かったのかもしれないが、如何せん3国はプライドが高過ぎたようだ。
自国がトップでなければ気が済まないのか、他国の手は不要と言い張り3国間の首脳会談すら拒否。互いに首脳陣や議員たちの汚職や不貞などといったスキャンダルを暴露し合った。
その結果、国としての政務が正常に回る筈も無く、新人類どころの話ではなくなってしまった。その後、何とか国は立て直したものの強国としての威信は地に落ち、新人類の件には何一つとして関われていない始末。
「……という経緯があって3国は少しばかり意固地になってるんだ。そして、その結果がアレだね」
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僕たちは会議室をあとにして社内の案内をし始めたのだが、本社は意外と狭い。先の会議室や休憩室の他はパーティションで区切られた施策課と対策課のオフィス、奥の社長室。メインとなるオフィスに幾つかの装置があるのでその説明が最後になる程度。
そして、その説明をと思っているところで装置が起動した。それは科学と魔法を組み合わせて作られた夢の機械『転移装置』。
その名の通り物や人などを指定された場所へ転移する為の装置だ。端から見ると1坪程のガラス張りになった部屋であるが、別の場所にも同じモノがあって互いに往来出来る。
こちら側からはまだ操作していない。つまり、他所から此所へ転移してくるという事になる。なので、新人3人を数歩下がらせて転移の様子を見守る。
特段、眩い光が煌めく訳でも激しいスパークを発するでもなく、音もなく瞬時に2人の人間が転移してきた。例えるなら『シュッ』や『パッ』といった効果音が付きそうな瞬間転移。
しかし、実際はそんな音なんて無い。SF要素の皆無な転移装置に新人3人は少しだけ肩を落とした。見慣れた僕にとってはいつもの光景なだけに3人の反応には自然と頬がゆるんだ。
そして、何やら言い争いをしながら装置から出てくる2人。
それは、肌は色黒で長身且つ筋骨隆々なカメリタ人と肌が白く長身で手足の長いスラリとしたシュアロ人だった。
「ったく、ヒョロッちぃ奴と同じ空気吸ってたら俺までヒョロくなっちまう!何でシュア公なんかと同行しなきゃいけねぇんだよ?!テメェらは机仕事だけやって部署から出てくんな!チョロチョロうざってぇ!!」
「まったく、愚鈍なクセに口だけは良く動く。カメ助と一緒に行動していたら我々のスマートさが損なわれ兼ねないね。上司命令でなければ一蹴するところだ。ほら、さっさと走れよカメ助。お前のせいで約束の時間ギリギリじゃないか。まさかそれで走ってるつもりか?流石はカメだな」
等と罵り合いながら足早に社長室の方へと歩いて行く。社長室の扉にノックをするにもどちらが叩くかで揉め、どちらが先に社長室へ入るかで揉めたりと時間がかかっている。
おそらく、転移装置に入る順番や操作の際にも同じように揉めていたんだろうと想像は容易い。
「話には、聞いてましたけど……実際に見ると……強烈、ですね」
ライトイさんはあの2人の遣り取りに腰が引けているようだ。3国民は互いに仲が悪いことは有名なので魔人種でも話に聞くくらいはあるようだ。
しかし、仲が悪い者同士は基本的に一緒に行動なんてしないから一緒に行動している人たちを見るのは初めてだったようだ。
まぁ、ここは日ノ本だし学校に外国人は多くないから当然だろう。若い子には刺激が強かったかもしれない。
カメリタ人の多くは男女共に色黒で身体が大きい。まるで熊の様な出で立ちの男性なんてゴロゴロ存在する。男性かと思えば女性だったなんて事も多々ある。それにシュアロと中央、日ノ本へは敵意を出してくる人も多い。仕事をしていく内に慣れるとは思うが、最初は結構威嚇されるからなぁ…
シュアロ人の多くは色白でスラッとしていて顔立ちも良いから見た目は男女共に美しいがかなり高圧的だ。表面上は友好的に接してくれるが言葉の端々にこちらを見下した蔑みが表れた発言が多い。これもその内慣れるが最初は精神的な苦痛を受ける。
新人3人が早く慣れてくれることと心が折れないことを祈りつつ、何かあれば先輩である僕が守らなければと決意を固める。
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「…まぁ、別部署だけど彼らとはたまに顔を合わせる事もあるから覚悟しといてね。僕も最初の頃は凄い口撃を受けたもんだよ」
入社当時は親の敵討ちでもするのか、というくらいの剣幕で僕に絡んできていた2人だったが、1度魔人世界での暴徒制圧へ一緒に赴いた以降はそれが途絶えた。
社長から聞いた話だが、日ノ本人で高卒の僕は彼らにとって格下の獲物だったらしい。ただ、僕の暴徒制圧業務を目の当たりにして実力を認めてくれたのではないか、という事だった。
カメリタ人もシュアロ人も中央人も人種による選民意識は高いことは明らかで、更に個々人の学歴や能力を重視する傾向にある。なので日ノ本人で高卒な僕は底辺の人間だと彼らに認識されていたんだろう。
「カメリタ人の方はローム・シュナウド。シュアロ人の方はハイン・コーダーだよ。2人共34歳で僕より2年先輩。どちらも対外施策部の対策課課長補佐の役職なんだ。能力も高いし業務的に見たら名コンビなんだけど、お互い素直に認め合わないからいつもあんな感じだね。
ロームさんはカメリタンフットボールで世界一になった大学チームのキャプテンだった人で、言動は荒いけど同郷の後輩には面倒見が良いって好評だし度胸も腕っ節も飛び抜けて良いよ。
ハインさんはあのマーサツーセットユー大学を主席で卒業した人でIQ200以上なんだって。シュアロ人特有の高圧的な接し方に慣れさえすれば的確な助言や戦術指南はピカイチって話だよ。
クレフくんとライトイさんなら邪険にされず話せるんじゃないかな?」
と、社長室へと入って行った2人の簡単な説明を済ませて転移装置やその他の装置の解説に移った。
何時になったらまとまった時間が取れるんだろう……orz