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愛すべき“いつも通り”の日常  作者: ラフトL
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ハジマリ

初投稿です。

投稿間隔は気の向くままに不定期ですが、よろしくお願いします。



この世界には至る所に“罅”がある。


それは山奥に、海底に、中空に、街中に、どこかの屋内にも。ただ、通常は視えないし触れる事も出来ない。それが幸いして大きな騒ぎには成っていない。


世界中の国々はその“罅”を秘密裏に研究し始めてはいるものの、何せ視えないのだから成果は乏しい。


視えないのに研究。


矛盾していると思うだろう。そこは順を追って説明しよう。


世界には極稀にその“罅”を視ることの出来る者が存在する。その者達は幼少時よりその“罅”を視覚しているのだが、両親や兄弟など身近な人たちに「あの“罅”は何?」と聞いても「そんなモノは無い」と返されるだけだった。当たり前だ。他の人には視えないのだから。


それでも“罅”が視えるという我が子の眼を

、脳や精神を心配して病院へ赴く者が1人、また1人と時代を追う毎に増えていく。


医学学会で『何も無い場所に“罅”が視える眼や脳の異常、若しくは精神的な症例』が最初に取り上げられたのは西暦1980年。医療機関の正式な診察記録に残る症例が20を超えた辺りからだった。


発端となるそれは、とある歴史学者が医学学会へと持ち込んだ論文から始まった。


とある大国を築いた王や大陸を統治した将、新大陸を発見した航海士や歴史的発展の礎となる発明家など偉業を成した者の多くに『世界の至る所に“罅”が視えた』という逸話が残っているというものだった。


「空が割れていた」「地獄の裂け目があった」「異界への扉を見つけた」など、言い回しが若干異なるがそう言う風にも取れるだろう。


それを加味して医学者や歴史学者、考古学者も交えて調べたものの、最初の症例が何時だったのか定かではない。


何故なら、1番古い確かな診察記録で西暦1852年。更に逸話や伝書を含めれば紀元前600年前まで遡ることになったのだから。


最古の診察記録が残る西暦1852年から学会で話題に上がる1980年までの約130年間におよそ20の症例が在ったと考えればその数は少ない様に思えるが、医者の居ない僻地や貧困などの問題で医者に掛かれない者などを考えるとその数はもっと増える事になるだろう。


その“罅”と“罅”を視ることの出来る者の関係性は学者にとって調べ甲斐のあるテーマとなった。


もしも、現代を生きる“罅”を視れる者が過去の偉人たちのように突出した肉体、技術、思想、精神などを能力として開花出来るのならば生物学的にも進化学的にも大きな発見であるからだ。


そうして世界中の各地で探し出された十数名の“罅”が視れる者の研究と同時進行で“罅”そのものの研究が始まったのだ。


そして話は最初に戻る。

視える者の協力の下、“罅”の研究は進められたが著しい成果は上がらない。

しかし、“罅”の視える者の研究は日々進み、視える者と視えぬ者の違いが解明され始めた。


一部、過激な研究者等が人体実験などの非人道的な研究をして更迭された事件もあったが概ね順調に研究成果は上がっていた。


上がってはいたのだが、その研究成果を認めることは難しかった。何故なら、認めてしまえば視える者の分類が『人間』というカテゴリーから外れてしまう可能性があったからだ。


DNA、ヒトゲノムとも呼称される染色体の数は46本と認識されている。尚、染色体異常に依る○○症候群などの話は長くなるので省略する。


視える者たちの染色体を調べたところ、常染色体22対、性染色体1対で46本には変わりないのだが、人間の染色体と構造が明らかに違う箇所があるのだ。


つまり、見た目は同じ人間ではあるが遺伝子上では別の生物となる可能性が浮上し、一部の学者たちは進化した人間=『新人類』の発見に沸くことになる。


しかし、大々的な進化の研究に意欲を湧かす学者たちに『待て』を掛けたのは各国の首脳陣たちだった。大多数に上る、視える者の発見・輩出を出来なかった国々は特に声を上げた。


自国の威厳を保つ為、政治的有利を効かせる為に『視える者』を躍起に成り捜す国々。それを尻目に既に視える者を保有する国々は秘かに利権の会合を設けたりもする一幕があった。


このままでは『新人類』が世界大戦の火種と成るのではないか…という懸念が蔓延し険呑な雰囲気に包まれる。これには流石の学者・研究者も肝を冷やした。


自己の知的好奇心や研究欲が戦争に発展する切欠になっては堪ったものではない。


そこで、『待て』を掛けた国々の中でも“人権”や“保護”を観点に置いた少数の国々を吟味し、とある国へと相談を持ち掛ける。


あくまで『新人類の発見』を公開することは見送ると先述し、公開時に伴う混乱を治める為の施政をどう為べきかその国と学者・研究者たちは時間をかけて取り決めていった。


先駆けて『新人類』の保護を大々的に掲げ、学者・研究者たちから支持されたその国は他の国々を抑え、全世界共通国家プロジェクトの中心国として手腕を振るう。


結果、『新人類』の判別方法を筆頭に各々の研究の発展に大いに貢献し、他の国々の利権争いを終息させる事となる。


そして西暦1999年。

何も知らない人々は平穏に暮らしつつも刺激を求め『世の終末の予言』に沸き立つ年。


とある国が世界の中心となった国家プロジェクトは1つの区切りを付け、その反面で少なくない国々が辛酸を舐める出来事が起こっている中……


ついに“罅”の欠片が剥がれ落ちた。






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