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最終話「二人」

ゴルドレオンとの合体が解けたブレードバルツァーが地に倒れ伏していた。

 もはや戦うことはできないだろう。

『ぐ……』

 ナイツァーは掌に乗せていたいおんを下ろし、ゆっくりとバルツァーに歩みよった。

『な……ぜ、だ……』

 バルツァーが声を絞り出した。

『なぜ……最強の鎧を纏った我が……負けるのだ……?』

『心から力を合わせる事……それが勝敗を分けたのです』

『心から……』

『――といっても受け売りですが』

 ナイツァーはいおんの方を見やった。

 いおんは親指を立て、ウインクをした。

『……あんな……小さき者が……』

『しかし、私が勝てたのは』

『その……小さき者の力で……我に勝った、というわけか……』

 バルツァーは呟いた。

『……!』

 そして、あることに気が付いた。

『……小さき者の「力」……? ははっ……ははははははっ』

 バルツァーは笑い出した。

『そうか……そんな「力」もあるのだな……。我は……どんな敵をも捻じ伏せる絶対の「力」こそが唯一だと思っていた……』

 バルツァーの表情は、ナイツァーが今まで見た事も無いほど穏やかだった。

『兄上……』

『――我の負けだ。我の信念も、力もお前たちに砕かれた……』

 バルツァーはゆっくりと体を起こす。

『我は……強さを見誤っていたようだ……。小さき者は確かに力は弱い。……だが我を倒したのはその小さき者の「強さ」……』

「小さい小さいって、あんたねぇ……」

 いおんがぼやく。

『単なる力ではない「強さ」……。我は今まで自分より弱き者としか戦って来なかったのかもしれぬ……。しかし、その少女は我に、騎士団に立ち向かってきた。その勇気こそが――本当の「強さ」だったのだな……』

『違う』

 突如、天から声が響いた。

『真の強さとは、余の無限の力なり』

 同時に光の矢がバルツァーの胸を貫いた。

『がはッ!?』

『兄上!?』

 天には巨大な影が浮かんでいた。

『あ、あれは……』

 バルツァーが、それを見、言った。

『皇帝……カオスヘルト……ッ』

『兄上! しっかりしてください!』

 ナイツァーはバルツァーを抱き起こす。

『が……ぐ……』

 胸の傷からは次々と黒い光が漏れ出していく。

『無駄だ。そやつはもう助からぬ』 

『黙れっ!!』

 ナイツァーが空に浮かぶ皇帝に向かって、吼えた。

『……ナイ……ツァー……』

『兄上……! 喋らないで下さい! 傷が……』

『皇帝の……言う通り……だ。……我はもう……助からぬ……』

『そんな!?』

『次の……当主は……お前だ……。お前の思うように……一族を……導け……』

 言って、弱々しくナイツァーの手を握る。

 その握った手からナイツァーに力が流れ込んでくる。

『ゴルドレオンは……お前にやろう……。……時として力も……必要だ……』

『兄上ぇ……』

 ナイツァーの声は泣き声に近かった。

『我は……道を誤った……。お前は……間違えるな……』

 バルツァーの体が、だんだん透けてくる。

 そして……

『お前の……本当の強さ……いつも……見ているぞ……』

 その体が粒子となり、虚空に散った。

『兄上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

 ナイツァーの絶叫が木霊する。

「皇帝とか言う奴っ! なんでナイツァーのお兄ちゃんを殺したのよっ!?」

 いおんが天に向かって叫ぶ。

『強者は弱者を自由にできる』

「あんた……!」

『それにそやつも言っておったろう? 余を倒すために鎧を鍛えた、と。知ってはおったが捨て置いていたのだよ。どうあがこうが余には勝てぬ。完成したものを捻り潰そうかと思うておったが……この程度だったのでな。もう興味も失せた。だから消した。それだけだ』

 さしたる感情無く、皇帝は言った。

 それは、おもちゃに飽きた子どもの態度に、どこか似ている。

「……許せない! 人を、もてあそんで……!」

 涙を浮かべて、いおんは天を睨む。

『そうだ。言ったであろう。強者は弱者を自由にできるとな。次は、この星だ』

 実体の掴めぬ霞のような皇帝の影が揺らめく炎のように変化する。

『どうする? 抵抗するか? 弱き者ども』

『皇帝……貴様は……間違っている……』

 ナイツァーがゆっくり体を起こした。

『最も強き余に誤りなど無い。余こそが正しいのだ』

『その貴様の歪んだ信念……打ち砕く!!』

『面白い。無駄な足掻き見せてみよ』

『来い! サラブリオン! ゴルドレオン!』

 ナイツァーは手を天に翳す!

『騎士道合体!』

 サラブリオンがナイツァーと合体、巨大な白き鎧騎士となる。

『ロイヤルグランドナイツァー!!』

 そこにゴルドレオンが駆けてくる。

『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 ゴルドレオンにロイヤルナイツァーが収納されていく。

『騎獅王合体!!!!!』

 巨大な真紅のマントがはためく。

 そのマントの下から現れたのは――

 金色の大騎士。

 輝光の聖騎士。

『キング・グランドナイツァー!!!!!』

 金色の光が四方に散る。

 胸にゴルドレオンのライオンヘッドを装着し、全身を金色の鎧で覆った、ロイヤルグランドナイツァーを一回りも二回りも上回る巨体。

『勝負だ皇帝!』

 大騎士は天に浮かぶ皇帝に指を突きつけた。

『よかろう。身の程を知るがいい』

 青い炎のような皇帝の体が一段と猛る。

 巨大な炎の壁となり、騎士の前に立ちふさがる。

『カイゼルサイコキネシス』

『むっ!?』

 ナイツァーの四肢を不可視の力が捻りあげた。

『な……!?』

『一つ言っておいてやろう』

 ナイツァーの巨体が宙に浮く。

 同時に全身に恐ろしい程の圧力が襲い掛かる。まるで深海のようだ。

 幼子が好き勝手遊ぶ人形のように、滅茶苦茶に間接ごとねじられる。

『肉体に囚われておる貴様らがいかに力を増そうとも無駄な事』

『ぐっ』

『余は肉体という枷を捨てておる。そして開放されたエネルギーは、理論上生命が持ちうる最高値なのだ』

 皇帝の眼が不気味な光を放つ。

 それに合わせ、ナイツァーを見えざる巨大な掌が握りつぶそうとしてきた。

『見よ。余の力を』

 大地が鳴動する。

 嵐が吹き荒れる。

 雷が町中に降り注ぐ。

 海が荒れ狂う。

 そしてそれは地球上いたる所で起きていた。

『余がその気になればこの星を砕く事すらたやすい』

 その言葉に偽りはない。

 ナイツァーはかつて、皇帝が歯向かった星を一夜に滅ぼしたという話を聞いた事があった。

 ――だが、これほどとは……っ

『我は最強。勇気? 笑わせる』

『がはっ!?』

 不可視の掌から電撃が放たれナイツァーの体を焼く。

『力を合わせるなど弱者の戯言。他を頼るなど心の弱さよ。余は一にして全。一人であるが故に最強なのだ!』

 皇帝は言い放つ。

「違うわっ!!」

 いおんが叫んだ。

 皇帝の声をかき消すほどの裂帛の気合。

 きっとそれは、少女の全存在をかけた叫びだった。

「他人を信頼できないなんて、そっちの方がよっぽど弱虫よ! ほんとに強いのは、力を合わせて戦う人よっ!!」

『ほう? ならば見せてみよ』

「きゃっ!?」

 いおんの体も宙に持ち上げられる。

『できるものならな』

「きゃああああああああああああああっ!?」

 いおんの体にも電流が放たれる。

『あ、あるじ……!』

『くはははははははははははは! どうだ? これでも力を合わせるなどとほざけるか? くははははははははははは!』

「当たり……」

 電流によりその身を焼かれるような痛みを受けつつも――

「前よぉっ!!」

 いおんは吼えた!

「こんな奴に……負けてたまるかぁっ! そうでしょっ! ナイツァーッ!!」

『……! その通りだっ!! 心を重ねれば! 無限の力が生まれる!! これは綺麗事などではない! 私がこの星で得た、真理!!』

「わあああああああああああああああああああっ!!!」

 いおんの絶叫。

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 ナイツァーの絶叫。

「『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!』」

 それが重なる。

 そして――

 不可視の戒めを吹き飛ばした。

 静電気が走るような音が辺り一面に響き渡り、騎士の巨体が再び重力に引かれはじめる。

『なんだと!!??』

「あああああああああああああああああああっ!!!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 地上に降り立ち、吼える少女と騎士。

「えああああああっ!!!」

 いおんが拳を突き出す。

『つああああああっ!!!』

 ナイツァーが拳を突き出す。

 それが、全く一致した。

『がはっ!?』

 皇帝の顔面にナイツァーの拳が命中する。

 その体が歪むほどの衝撃。

 エネルギーの塊である全身を、破壊力が津波のように伝播する。

『ばかなっ!? これほどの力……どこからっ!?』

「だああああああああああああっ!!!」

『おおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 更に、次々と攻撃が繰り出される。

 いおんとナイツァー、その動きは完全にシンクロしていた。

 顔面への正拳!

 返す刀で顎を打ち抜くアッパー!

 浮き上がった所を叩き落とす上段回し蹴り!

 沈んだ頭をそのまま地面に叩きつけ、おろし金のように大地に捩じり込む。

『が……』

 上げた顔に再び拳が叩き込まれた。

 無敵のはずの皇帝が、翻弄される。

 手も足も出ない。

 圧倒される。

『こんな……ことがっ!? こんな、塵芥の寄せ集めごときに……唯一絶対の存在たる余が……余が!』

「ひとりぼっちで、何の自慢になるの!」

『ひとりひとりは弱い。それは事実。だからこそ、力を合わせるのだ!』

『余は最強なのだ!! それ以上はありえないのだ!!!』

「ひとりじゃない! だから!」

『最強だろうが何だろうが!!』

「『超えられるんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!』」

 ナイツァーの手から巨大な剣が生まれる。

瞬間、その巨体が跳び上がった。

果たしていおんがどれほど跳んだのかはわからない。

だが、ナイツァーは信じられない速度で雲を突き抜け、あっという間に宇宙空間にまで飛び出した。

 ナイツァーはそこで剣を構え、遥か眼下の一点を見据える。

『超必殺! 大気圏突破一刀唐竹割り!!!!!!!!!!!!!!!』

 衛星軌道上から一気に地球に突入した。

 大気との摩擦で赤熱し、一直線になびく真紅のマントを加えて天に真っ赤な軌跡を残しながら、凄まじい勢いでナイツァーは皇帝の真上に落ちていく。

『さらばだ! 皇帝ーーーーーっ!!!!!!』

 恐竜を絶滅させた隕石にも匹敵するエネルギーを、皇帝の体に全て叩き込む!

 皇帝が念動力で生み出した障壁を吹き飛ばし、聖剣は正確に皇帝の中心を切り裂いた。

『がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!』

 断末魔が轟く。

 聖剣は、皇帝を見事に両断していた。

 皇帝としての形を保てなくなったエネルギーが弾け、大爆発が起こる。

 暴れ回るエネルギーは光の柱となって宇宙へ放逐されていく。

 それは、宇宙を支配し続けた、暗黒の支配者の最後であった。


 激戦を終えた騎士と少女は、夕焼けを眺めていた。

「ねぇナイツァー……」

『なんですあるじ?』

 いおんがゆっくりとナイツァーに向き直る。

「もう、私の事あるじって呼ばないで」

『……? なぜです?』

「あなたクビ」

『なっ!?』

 ナイツァーは驚きのあまり後ずさる。その巨体ゆえ、巻き起こる砂塵。

『なぜです!? 私に至らない所でも!?』

「違う違う」

 いおんは笑う。

「あなた自分でも言ってたでしょ。キングって。王様は誰にも仕えたりなんかしないわよ」

『それは、その言葉のあやといいますか……そんなつもりでは……』

「だから違うって。いい? 絶対的支配力を持ってた皇帝はもう居ない。今たぶんあなたの故郷の銀河なんかは混乱のさなかだと思う」

『あ……た、確かにそうかもしれません』

「だから、きっとあなたの力が必要だと思う」

『!!!』

 ナイツァーは打ち震えた。

 ――私は……皇帝を倒した後の事まで考えていなかった……だが……

『あるじ……いや、いおん。私はあなたの事を誇りに思います』

「褒めすぎよ。あたしだって一人じゃ何にも守れなかったと思うだから、あたしもナイツァーの事、誇りに思うよ」


『では、私は旅立ちます。あなたの言う通り、弱肉強食の掟で人々を縛っていた皇帝は倒れました。私は、その心を伴わない掟を、少しずつ変えて行きたいと思います』

 ナイツァーは空を見上げた。

「うん。そのうち招待してね。見てみたいから」

『ふふ、それは気合を入れて改革しないといけませんね。

 必ず、迎えに来ます』

「絶対だよ!」

『それでは……』

 サラブリオンにまたがろうとするナイツァー。

「ちょっと待って。ちょっと、しゃがんで」

『?』

 言われるがままに、しゃがむ。

「もっともっと」

『は、はぁ?』

 できる限りかがむ。

 いおんはその肩をよじ登り――

「ちゅっ」

 その頬にキスをした。

『!?』

「またね」

 いおんの眼には涙が浮かんでいた。

 しかし、最高の笑顔だった。


 騎士は馬に乗り、獅子を引き連れ天を駆けてゆく。

 少女はその姿が見えなくなるまで、ずっと見続けていた。

 ずっと。

 ずっと。




第一章 宇宙騎士 完





       予告


 星空に災いを斬り裂く六剣在り。

  其の名を七星六剣と云う也。

   然れども七星がうち

    最後の七番剣は

     天に在らじ。

      其は……

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