第四話「ナイツァー敗れたり!」
その日、再び校庭にバルツァーが現れた。
ロイヤルグランドナイツァーのそれに似た黒い鎧を纏い、以前より一回り大きな体となっている。
今度は無駄な破壊などせず、ただナイツァーを待っていた。
すぐにナイツァーも駆けつけ、サラブリオンと合体し、兄と対峙した。
もはや言葉は無い。
騎士団を裏切った弟。大切な者を脅かした兄。
弟は槍を、兄は剣を構えた。
二人は同時に駆け出し、校庭の中央で交差し、一瞬の内に二人の位置は逆転する。
わずかに遅れて金属同士がぶつかる音が辺りに木霊する。
『……やはり、やる……』
バルツァーが呟いた。
『黒馬ブレイダスでは僅かにサラブリオンには及ばんか……いや、我の力そのものを超えているのか……』
その声には静けさすら感じられた。
以前の張り詰めた声ではなかった。
『……はじめはまぐれだと思った。油断だと思った。……だが、お前は次々と団員を破っていった……』
『兄上……』
『そして、今の立会いで確信した。……認めねばなるまい。お前は我の――最強の敵だ』
バルツァーは剣を天にかざした。
『だが、お前は知らない。一族当主だけが知る至高の鎧を。……来いッ!』
剣から光線が放たれ空に亀裂が入った。
ガラスが割れるように亀裂が広がっていく。
その亀裂から金と銀に輝く何かが飛び出した。
『!?』
刃物のように鋭いたてがみ、巨大な爪、地を踏みしめる四脚。
そして、聞くものの心を砕く咆哮。
――それは、獅子だった。
それもバルツァーのゆうに二倍以上の巨体。
金色のたてがみを持つ、鋼の獅子。
『秘鎧、ゴルドレオン! 我が一族当主が代々、皇帝を倒す時を夢見て鍛えし究極の鎧よ』
『……そんなものがあったとは……』
『この世は力、お前にも理解させてやろう。――覇王合体!!』
バルツァーは宙に飛び上がった。同時にゴルドレオンも宙に飛び上がる。
『させんっ!』
ナイツァーも後を追う。空中で光に包まれてゆくバルツァーとゴルドレオンに手を伸ばす。
『愚か者めッ! 何度も同じ手が通じるものかッ!』
『なっ!? うおぉぉぉぉっ!?』
ナイツァーはバルツァーの一喝によって生み出された衝撃波に吹き飛ばされ、きりもみしながら落ち、地面に叩きつけられた。
地上でもがいているうちに合体は進んでいく。
『これは当主のみが纏える鎧! 貴様には纏えん! 見るがいいッ! これが、一族の頂点たる姿だ!』
まばゆい光の中、バルツァーは胸部を全開したゴルドレオンに収納されていく。
その胸部が閉じられるのと同時に獅子の腕が真っ直ぐ伸び、掌が飛び出す。
四足歩行に適した曲がった後ろ足も、人のそれと同じように真っ直ぐ伸びていく。
獅子の顔が胸部へスライドし、かわりに騎士の顔が現れる。
その騎士は、一気に地上に降下した。
そして、叫んだ。
『キング・バルツァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
『キング……バルツァー……?』
ナイツァーは驚愕のあまり硬直した。
その眼前にあるは、黒光りする大騎士。
『この姿は先程の私、ブレードバルツァーの軽く二十倍の力がある。諦めよ』
『……できぬ相談です。兄上』
『フ、それでこそ我が弟よ。ならば受けよ! 我が奥義をッ!』
バルツァーは掌を合わせた。掌を開くのに合わせ、その隙間にスパークが起こる。
『雷・塵・至・高・剣ッ!!』
一言ごとにスパークに力が篭るようであった。
スパークは形を成し、自らの身長ほどもある大剣と化す。
その剣を己の肩の上に天高く掲げ、八双の構えをとった。
『迅雷式剣術奥義……』
剣先からプラズマが生まれ、空気を焦がす。
『……!』
対してナイツァーは防御姿勢を取る。
――奥義に耐える事ができれば、そこに隙が生まれるはず……!
『笑止!』
猛スピードでバルツァーが間合いを一気に詰めた。
そして上段から斬り下ろす!
『爆雷崩流撃!!』
ナイツァーのクロスした両腕に斬撃が直撃する。
ただの斬撃ではない。
凄まじい熱力のプラズマを纏ったそれは、刃自体が腕の装甲を斬り裂ききるよりも先にナイツァーを焼く。
『ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!』
――だ、だがっ、これならば耐えられる……っ!
『……双雷連牙昇!!』
バルツァーは手首を返し、地面を斬り裂きながら今度は下から斬り上げた。
ナイツァーは上段ガードに気を取られ下からの斬りに対応が間に合わない。
『ぐっ……』
強烈な斬撃がナイツァーを襲う。
あまりの威力に斬り裂かれるどころか剣先が触れた瞬間空高く打ち上げられた。
『ぐああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!??』
ナイツァーの絶叫とともにその装甲が砕け散っていく。
ダイヤモンドダストのように、その破片が太陽光を受けて煌いた。
『終の一撃、墜撃稲妻斬り!!』
バルツァーは地を蹴り宙に飛び上がり、ナイツァー目がけ真上から大上段で剣を振りぬいた。
『がはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!!!!???』
ナイツァーは一撃をまともに受け、地面に巨大なクレーターが出来るほど叩きつけられた。
サラブリオンとの合体も解け、双方ピクリとも動けなかった。
完全な、敗北だった。
倒れたまま剣を突きつけられるナイツァー。
その傷口からは金色の光が吹き出し、激痛のあまり動く事すらできない。
彼は死を覚悟した。
しかし、その切っ先は返され、バルツァーは雷の剣を消した。
『とどめはささぬ』
『……!……?』
『お前には借りがあったからな。……これでわかっただろう。力こそが全て。弱者はその命を強者の掌の上に委ねられたとて文句は言えぬ』
『そ……れ、でも……っ』
ナイツァーは傷だらけの手を何とか伸ばす。
『愚かな。今、我がその気になればお前の命を奪う事もできるのだぞ? ……一日やろう。その間よく考えるがいい』
『あ、あにう……え……』
『次逆らうようならば……容赦せん!』
バルツァーは踵を返し、虚空に消えた。
しばらくして、雨が、降り出した。
冷たい雨滴がナイツァーを打つ。
傷口の金色の光は雨にかき消されていく。
だが、敗北が消えるわけではない。
――私は……無力だ……
自信も、栄光も、勇気も砕かれた。
もし兄が自分を倒した後、破壊活動を行っていれば今頃この町は火の海だっただろう。
そして、その災厄を招いたのは自分だ。
負けてはならないのだ。
今日町が、大切な人が無事だったのは単なる幸運。
――力が……欲しい……っ
それは初めての願い。
だが、信念を砕く願い。
気付かぬ内に、否定していたものへと自らを導く願い。
――全ての敵を蹴散らす、力が……っ!
ナイツァーの顔が禍々しく歪んでいく。鋼の頬も、鉄の眉間も歪み、金色の瞳は赤く変わってゆく。
心なしか力が湧き出してくるような気さえする。
と、そこに、足音がした。
水溜りを歩き、近づいてくる。
雨の中、クレーターの縁から中へゆっくりすべり降りてくる。
それは少女だった。
ナイツァーが戦闘に巻き込まれないようにと遠ざけていた、彼の主だった。




