第3話「ど根性ガール」
度重なる暗黒騎士団の襲撃で、町は恐怖に包まれ……
てはいなかった。
白騎士まんじゅう、白騎士せんべい、白騎士キャラメル。
便乗商法しまくりであった。
それもそのはず。この星色町、ど田舎にして過疎化が目にも留まらぬスピードで進む町。
町おこしになんでも使っちゃえという毅然とした態度であった。
町の入口に「宇宙戦争が見れる町、星色町!」などという看板まで作る始末。
「なんなのよ白騎士温泉って……」
いおんは頭を抱えていた。
手には朝ポストに入っていたちらしが握られている。
「白騎士がでるかも。でなくても最悪熊はでるよ(笑)……ってバカかっ! なにがカッコ笑いだ!」
「ねぇちゃん朝からうるさいよ。あ、おれ今日友達と白騎士温泉に行くから帰り遅くなるよ」
「ちょっ……」
姉の制止も聞かず弟は飛び出して行った。
今日の授業中もずっと温泉の事を考えて過ごすのだろう。
その顔は輝きに満ちていた。
姉の顔はなんか言葉に出来ないような感じになってたけど。
それから少し時がたち、その日の夕方。
星色町の外れ、山奥の白騎士温泉。
雷は友人数人とゆっくりお湯に浸かっていた。
だから彼は知らなかった。
今、この瞬間姉があんなことになっていようとは。
いつもの校庭に、今日は大きな影が四つあった。
『フン、ナイツァーよ。わかっているぞ。この女が貴様の主だとな』
両肩に巨大な三角のパーツをつけた巨人が言った。
『そうなんだぞ。わかってるんだぞ』
続けて頭が巨大な半球体の巨人が言った。
『カカカカ、ばっかだなぁおめぇ。こんなよわっちい生き物を主君って認めるなんてよ』
そして両肩に巨大な円柱を装備した巨人が言った。
『貴公らにはわからんよ』
ナイツァーは答えた。
『当たり前だ。それで?』
『知れた事! あるじを返してもらう!』
三角の手にはいおんが捕らわれていた。
「ごめん。ナイツァー……つかまっちゃった……」
『しばしお待ちを。必ず救いだしてみせます』
「あたしに構わず……って言いたいところだけど、あたしまだ死にたくない。絶対に助けてよね……」
いおんは震えながら言った。
彼女はまだ中学生である。
涙を見せていないのが不思議なくらいであった。
『だとさ。どうする? カカカ』
円柱がせせら笑い、言う。
『どうする? どうする?』
半球がにやにや笑い、言う。
『弟君だけでなくあるじをも人質とする暗黒騎士団のやり方……もう我慢ならん。叩き潰す!』
『フン、貴様にできるとは思えんな。それに貴様は勘違いをしている』
三角が鼻で笑い、言う。
『……何?』
『これは人質などではない。――パーツだ』
その言葉には皮肉の色があった。
『そうそう。おれらの合体に必要なパーツさ。だから合体してからダメージがフィードバックされてもしかたねぇよなぁ』
『だぞだぞ』
三体が、からからと笑う。
『なっ!?』
愕然とするナイツァー。それでは人質となんら変わらない、いやむしろもっと酷い。
白き巨人の両の手がわなわなと震える。
『フハハハハハハハハハハハ! 指をくわえて見ているがいい!』
「きゃあああああっ!?」
三角にいおんは吸い込まれていった。
『合体!!』
三角と丸頭と円柱が宙に舞い上がる。
まず、三体の腕がロケットのようにその体から離れた。次に三角の両肩が体を包み込むように合わさり、巨大な頭となった。続いて半球頭が、その半球に足を収納し胴体へ、そして円柱が体を分割し、両足へと変形。
それらがそのまま積み重なっていき、そこに飛んで行った六本の腕が突き刺さり――
『ガニュメデス!!』
現れたのは、異形の巨人。
六本の腕とキャタピラの足を持つ怪物。
それは子どもの積木のようにひどく単純な合体に見える。
しかし、なにより巨大なその体躯が、圧巻であった。
二〇メートルほどの身長のナイツァーの数倍はある。およそ、五、六〇メートル。最早ビルだ。田舎の星色町にこれほどの巨大な人工物は存在しない。
『くくく……』
その巨体で、やはりガニュメデスはからからと笑う。
『さて、この姿になったからには貴様を捻り潰すのはカンタンだが、それじゃあ面白くないだろう? 好きな所を攻撃して構わんぞ』
ガニュメデスは全ての腕を広げ、防御の意思がない事を示す。
しかし、ナイツァーは動けない。内部のどこにいおんがいるか、外からでは全くわからないからだ。
『どうした? 攻撃しないのか? うまくいけばご主人様に当たらないかもしれないぞ? 外れたら死ぬがな。ハハハハハハ!』
『貴様……!』
『来ないのならこちらから行くぞ? 反撃は自由にするといい』
ガニュメデスはキャタピラで一気に加速、ナイツァーに肉薄した。
そして六本の腕を次々繰り出す。
『ホラホラ! どうしたの! どうしたのぉ? ハハハハハハ!』
『ぐうっ!』
ナイツァーは無手で捌こうとするが、物理的に手数が違いすぎる。拳の連撃を受け吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられた。
『フハハハハハハ! 弱い主など持つからだ! こんな下らない小娘に額づくなど、大馬鹿者だよ貴様は』
倒れたナイツァーの真上にガニュメデスがジャンプする。
『トライプレス!』
そしてそのままナイツァーに落下する。
『ごぁぁぁぁっ!?』
圧倒的な加重を受け、ナイツァーは地面にめり込んだ。
技でもなんでもない、ただの暴力的な自重を武器にした攻撃だが、シンプル故にその破壊力は並ではない。
『……がぁっ!』
たまらずナイツァーは力を振り絞り、ガニュメデスを弾き飛ばす。
が――
『ぐぁっ!』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
『しまっ……!』
ガニュメデスからいおんの叫び声が響いた。
『フハハハハハ! 直接当たらなくても、ご主人様は私と同じ痛みを感じるぞ。気をつけろよ?』
『……くっ、どうすれば……』
ナイツァーは手を出せず、距離を取る。
そこに、ガニュメデアスが距離を詰め、体当たりを仕掛けて来た。
『くっ……!』
ヘタに弾こうものなら、いおんにダメージを与えてしまう。
ナイツァーは咄嗟に体を捻り、これをかわした。
『さぁ、いつまで逃げ切れるかな?』
舌なめずりが聞こえてきそうな声と共にガニュメデスが再び突っ込んで来る。
必死でかわすナイツァー。
その攻防は、やがてナイツァーの体勢が厳しくなっていく。
均衡が崩れるのも時間の問題であろう。
そんな白騎士の姿を、いおんは見ていた。
ガニュメデスの中から、ナイツァーが一方的になぶられる様を、見ていた。
「もう止めてっ!」
いおんは絶叫した。その声は金属のパイプや透明なガラスのようなもので構成された空間に虚しく反響する。
『黙ってろ小娘。まだ死にたくはないだろう? フハハハハハハハハ!』
ガニュメデスの声が響く。
そうしている間にもナイツァーは傷つき、全身から金の光が漏れ出していた。
「この悪魔っ!」
いおんは辺りのパイプやガラスを蹴飛ばした。
「きゃあぁぁっ!?」
すると腹に鋭い痛みが彼女の全身を駆け巡った。
針で刺すような痛みが、彼女を苛む。
『やれやれ愚かなことだ。私とお前の痛覚は共有されているのだ。私を痛めつければお前も痛みを感じる。――もっともお前の痛みは私の十倍ほどにしてあるがな。フハハハハハハハハハハハ! そこでおとなしくナイツァーの散りゆく様を見ているがいい』
ガニュメデスのいやらしい笑いが空間内を反響する。
と、いおんが俯いた。
『そうそう、それでいい。人質らしく、おとなしくしてりゃ……』
「……なめないでよね」
『……は?』
「なめないでよねって言ってるのよこの卑怯者! 何が騎士団よ! あんた達は弟巻き込んで、ナイツァー傷つけて……」
いおんは腕を前に突き出した。
「絶対に許すもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 出てきてっ、サラブリオォォォォォォォォォォン!!!」
いおんの腕時計が輝き――
『ばっ、ばかなっ! そんなことをすれば想像を絶する痛みがお前を……』
「痛みがなんぼのモンじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!」
閃光。
ガニュメデスの腹をぶち破り、サラブリオンが飛び出した!
その頭部には尋常ではない量の汗と涙をながし、真っ青な顔で、それでも必死に意識を保ち、片手でたてがみを握り締める少女の姿があった。
『あるじ!』
いおんは答えられなかった。
だが、たてがみを握り締めていない方の手の親指が弱々しく立てられる。
『!』
ナイツァーは全身が震えるのを感じた。
傷だらけの体に力が満ち溢れてくるのがわかる。
体から漏れ出す金色の光は、更に細かい光の粒子となってナイツァーの周りを舞い、吸収されていく。
ナイツァーはゆっくりとサラブリオンに歩みよった。
いおんはもう気を失っていた。サラブリオンはいおんが落ちないように、体勢を傾けていた。
ナイツァーは優しくいおんを抱え、校庭の片隅の木陰にその体を横たえた。
『……ちくしょう! こんな、こんなことがっ……!?』
腹部を破壊されたガニュメデスがよろよろと起き上がった。
火花を噴く腹部の裂傷は激しく、そのまま後ろに倒れて真っ二つに折れるのではないかというほどである。
『これでも私のあるじは下らないか?』
ナイツァーは向き直り、言った。
『私は最高のあるじを持った。……そしてそのあるじを苦しめた貴様を私は許さん!』
『ほざくなっ! まだ……まだ負けたわけではない!』
ガニュメデスが突っ込んで来る。
無理な突進に、腕の数本がもげて零れ落ちていく。
『貴様を殺し、あの小娘もズタズタに引き裂いてくれるわっ!!』
自身の惨状に気づいていないのか、狂ったような声を上げて突進を続けるガニュメデス。
『させると思うか! サラブリオンっ!』
ナイツァーの元にサラブリオンが疾走する。ナイツァーはジャンプし、その上に跨った。
見る間に加速していく人馬。
それはやがて目に捉えられないほどの速度となる。
『我流奥義! 騎士道一直線!!!』
サラブリオンとナイツァーは光の矢となり、超高速で駆け抜けた。
その間にいたのはガニュメデス。
ナイツァーとサラブリオンがその動きを止めたとき、ガニュメデスの体には大穴があいていた。
『……ば、ばかな……ばかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?』
閃光と轟音と、そして大爆発。
『ばかな事などではない! 貴様に道理が見えていなかっただけだ!』
ナイツァーはマントを翻し、叫んだ。
木陰で寝息をたてているいおんにはそれが聞こえたのだろうか。
それはわからない。
だが、その口元には確かに笑みがあった。




