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第二話「二つの心」

 バルツァーが去って2週間。町は平穏を取り戻していた。

 夏のセミのように騒がしかったマスコミも、さすがに引き上げている。今頃は、まだ対応に紛糾している国会にたむろしている事だろう。

 それは同時にいおんもまた日常を取り戻したということであった。

 日曜ということもあり、いおんはぼーっと学習机につっぷして、腕時計の中のナイツァーと他愛のない会話をしていた。

『ところであるじよ。時計の中に匿っていただいたおかげで全ての傷が癒えたようです。もう外に出て直接お守りできましょう』

「ばか。出てきたら大騒ぎになるでしょ」

『成る程。では必要な時にいつでもお呼びください』

 時計の中から静かな声が響く。

「ねぇ、中ってどうなってるの? ヒマじゃないの?」

『味気の無い所ではありますが、己を鍛えるには最適です』

 中は完全な別世界らしいが、いおんは入ったことはない。

 いわば、時計は出入り口の役割に過ぎず、実際に時計の中にナイツァーが居れば、いおんの腕などもげてしまうだろう。

「鍛えるって……?」

『瞑想や素振りといったものです。あるじよ』

「ふーん。ストイックねぇ」

 逆に言えば、何もない空間と言える。

 恐らく、いおんであったら一日と持たずに飛び出すであろうが、広大な宇宙を旅する騎士にとってその程度では寂寥や退屈を感じることはないのだろう。

『サラブリオンの世話なども楽しいですよ。実はもともと末弟の私が世話をしていたもので』

「へぇ~。……って世話って何してるんだろう」

「ねーちゃん何一人でぶつぶつ言ってんだ? 気色悪い」

「お、おわっ!? ら、雷! おどかさないでよ!」

 背後から弟に急に声をかけられ、いおんは椅子から滑り落ちそうになった。

「変なねーちゃん。ま、いいや。おれ〝白騎士〟探しに行ってくる!」

 小五の雷はこのところマスコミの言うところの〝白騎士〟、つまりはナイツァーを探しにあちこち駆けずりまわっていた。

 この間など、裏山で薙ぎ倒された林を見つけて大騒ぎしていた。

 自分の探しているものが、まさか姉の腕時計の中にいるとは知っているはずも無く、雷は外に飛び出していった。

「ふー。そういえばもう来ないのかしらね。黒騎士」

 僅かに期待を込めて、言う。

『そうは思えません。兄上はきっと来るでしょう』

 どうやら生真面目な騎士は、リップサービスとは無縁らしかった。

「ん~、せっかくの日曜なんだから今日くらいカンベンしてもらいたいわよねー」


 雷は再び裏山に来ていた。

「やっぱりここが一番怪しいんだよね。ねーちゃんの中学校のあたりのバトルと全然カンケーないのに、木がばきばきだもん」

 雷は折れた木々をチェックしてまわり、うろうろうろうろ。

「あっ!」

 彼は折れた木々の中に金色に輝く何かを見つけた。

「わぁお! これなんだろ?」

『ナイツァーの血痕だよボウヤ』

『俺らもここまでしか辿れなかったんでな。お前を人質にしておびきださせてもらうぜ』

「ええっ!?」

 雷が振り返ったとき、そこには二つの巨大な影があった。


『出て来やがれ! 裏切り者ナイツァー! オレ達は暗黒騎士団双騎士レフニツカ!』

『ライバニツァ! 出てこなければこの子どもの命はないぞ!』

 中学校の校庭に二つの影が突然現れ、町中に響くような声で叫んだ。

 赤い巨人レフニツカ、青い巨人ライバニツァ。

 金属の体をもつその二体の巨人は、本人たちの名乗りを聞くまでもなく地球のものではないことは一目瞭然だ。

 レフニツカの手には少年が捕らえられていた。

「!」

 声に気付き、様子を見に来たいおんはそれが弟であると知った。

「ら、雷……!?」

「チキショー! 離せこらー! お前らなんか白騎士にやられちまえーっ!」

 雷は大騒ぎしていた。

「助けなきゃ!」

 飛び出そうとするいおん。

『待つのだあるじよ! 今出て行っては!』

「弟が捕まってるのよ! じっとしていられるわけないでしょっ!!」

『!』

 涙をぼろぼろ流しながらの、いおんの叫び。

 その姿に、まるで雷に打たれたかの如く、ナイツァーの巨体が身震いした。

『……そうか……その通りです。……私が行きます。おとりになりましょう』

「え、おとりならあたしのほうが……」

『いえ、やつらもそうそう甘くありません。私に考えがあります……』


『どうしたナイツァー! 腰抜けが! てめぇの性格でこのガキ見捨てられるわきゃあねぇんだ。さっさと出てきやがれ!』

『……もういいレフニツカ。このガキを殺そう。そうすればあの臆病者とて目が覚めるであろうよ』

『チッ、ザコを殺るのは趣味じゃねぇんだがな。……悪いなガキ。恨むならてめえの非力さを恨みな』

「ひっ」

 雷が青ざめた。ライバニツァの声は単に事実を述べているだけだったからだ。

 そこにさしたる感情はなく、ただ作業として殺す――

『まてっ!』

『!』

『来たな!』

 校庭に舞い降りた赤い影。

 その赤い影、マントを振り払い白き騎士がその姿を現した。

「白騎士っ!」

 雷が顔を輝かせた。

『ホントにてめぇは甘ちゃんだな。わかってるだろ? 抵抗したらガキはぺちゃんこだぜ?』

『承知の上』

『いい心がけだ。せいぜいサンドバッグにでもなってもらうとしよう!』

 レフニツカが笑いを漏らしながら、殴りかかった。

 顔面にまともに拳を受け、金属のこすれ合う不快な音と共に火花が飛び散る。

ナイツァーの巨体がよろめいた。

 しかし、倒れない。

『……どうした? そんな腕で私を倒せると思っているのか』

『最下級騎士がほざくな!』

 レフニツカはナイツァーの腹に蹴りをいれた。

『ぐっ』

 ナイツァーは痛みに呻くが、踏ん張った脚に力を入れなおし、宝石に似た目でにらみ返す。

『ふぅん? ねばるじゃないか。そうだな……ならばこうしよう。倒れてもガキを殺す。いいな? ルールはわかったな?』

『貴様……!』

『ほうらぁっ!』

 次々攻撃を繰り出すレフニツカ。ナイツァーは立ったまま、まさにサンドバッグのように拳の嵐にさらされ続ける。

『おいレフニツカ、そろそろ代われよ』

 ライバニツァがレフニツカに近づく。

 その時、ナイツァーの視線がいおんのそれと交差した。

 ライバニツァの背後にまわりこんでいたいおんと。

「いっけぇぇぇっ! サラブリオーーン!」

 いおんの叫びに合わせ、腕時計からサラブリオンが飛び出した。

 鋼馬いななき、そしてそのままライバニツァに体当たりする。

『ごあっ!?』

 ライバニツァの巨体が、軋みを上げて宙空に押し上げられる。

突然の衝撃で、その手から雷がこぼれ宙を舞った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『おおおおおおおおおおおおっ!』

 瞬間、ナイツァーはレフニツカを弾き飛ばし、空に飛び上がった。

 宙空で、それも雷を衝撃で押しつぶさぬよう、そっとマントで包みこみつつ、反転し着地。

 いおんの前へ膝をつく。

『あるじよ、頼みます』

 マントをほどき、ゆっくりと雷を地に下ろす。いおんが駆け寄って見ると雷はショックで気絶していた。

「怖かったわよね……雷を人質にするなんて……」

 気絶した弟の頭を撫でるいおん。

「……ナイツァー! やっちゃえーーーっ!」

 腹の底から放たれた、いおんの叫び。

『承知!』

 それに合わせ、ナイツァーは槍を双騎士に突きつけた。

『私は貴様らを許さん!』

 ナイツァーの裂帛の気合のその意味を知ってか知らずか、肩で笑うライバニツァ。

『フッ……許さないだと? 大きくでたな』

『こすい手で団長を退けたからっていい気になるんじゃねぇぞ』

 ナイツァーを睨む双騎士。

『黙れ! 無関係な者を巻き込み、あるじを悲しませた貴様たち、必ず倒す!』

 ナイツァーは叫び、双騎士に突っ込む。

『なめるなぁーっ!』

『双騎士たる所以みせてやろう!』

 ライバニツァ、レフニツカの体がそれぞれ赤と青に輝き、閃光となってほとばしった。

『なっ!?』

 光が収束し、一つの形を成す。

 赤い右半身、そして青い左半身。

『これが俺の真の姿だ! マグニツィアス!!』

 巨大な魔人。マグニツィアス。

『貴様のような最下級騎士にはもったいないが、捻り潰してやろう……圧倒的な力の差を見せてなっ!』

『おおおおおおおおおおおっ!』

 ナイツァーは恐れもせず飛び込んでいく。

(そう)()弧砲(こほう)!』

 ナイツァーの槍の穂先から光球が放たれる。

 地上で撃てば直進しているように見えるが、宇宙で放てば弧を描く――極めて射程の長い光球の弾丸。

『ぬるいわっ!』

 本来ならば水平線を超え、大気圏外まで飛び続けるであろうそれを片手で弾き飛ばすマグニツィアス。

 やはり、そのパワーはナイツァーの比ではない。

 そしてそのまま両手を突き出し――

『ヴァイオレットブラスター!』

 右手から赤い熱線、左手から青い熱線を撃ち放った。

 それが絡み合い、紫の熱線と化しナイツァーを襲う。

『くっ!』

 慌てて飛びのくナイツァー。

 刹那、爆発と轟音。

 校庭に巨大なクレーターが生まれた。

『塵も残らなかったか……』

 クレーターを覗き込むマグニツィアス。

『どこを見ている!』

 体から白煙をあげているナイツァーがその背後に現れた。

『な……!?』

『遅いっ! 尖光槍破!』

 槍から衝撃波が放たれ、マグニツィアスの背中に命中、その巨体を吹き飛ばした。

 マグニツィアスはそのままクレーターに真さかさまに落ち、地面に叩きつけられた。

『がっ!? き、貴様……』

『どこを見ていると言った! 忠告を二度もさせるようではな!』

 今度はクレーターの上から真横へ回り込むナイツァー。

『くそっ!?』

『こっちだ!』

 更にその反対側のサイドに回りこむナイツァー。

 そして攻撃を繰り返す。

 対してマグニツィアスは左右に振られ、まったくナイツァーを捕捉できない。

『ぐがぁぁぁぁっ!?』

 マグニツィアスの体の中央でスパークが起きた。

『どうした双騎士! 体は一つになっても心は一つになっていないようだな!』

『おおおおおおのれぇぇぇっ!』

『槍牙弧砲!』

 再び放たれる光球。

 先程は片手で弾き飛ばしたそれが今度は直撃し、その顔面で爆発が起こる。

『ぐわぁぁぁぁっ! おおおおががっががっががあが』

『!』

 苦しみだすマグニツィアス。

 そして破裂音が鳴り響き、ライバニツァとレフニツカに分離した。

『!? ばかな!』

『ライバニツァ! 貴様が私に合わせないから!』

『ふざけるな! オレのほうが攻撃は得意なんだ! オレに合わせろ!』

 喧嘩を始める双騎士。

 そこに騎士の威厳など、あろうはずもなかった。

『……何と醜い……』

 ナイツァーはその姿を見て呟いた。

『……退け。今退けば追わぬ』

『ふざざけるな! 貴様など一人で充分!』

『どけ! レフニツカ! こいつはオレが殺す!』

 双騎士、いやライバニツァとレフニツカは先を争うようにナイツァーに襲い掛かった。

『愚かな! 信じあわぬ力に敗れる私ではない!』

 ナイツァーは天に槍を掲げる。

 その槍に稲妻が落ち、金色に輝いた。

『受けろっ!』

 ナイツァーは槍を思い切り振りかぶる。

『バカなっ……それは団長の……!?』

『そんな……そんなことが……!?』

(らい)(こう)(そう)!!』

 稲妻を纏った槍が投擲され、ライバニツァとレフニツカをまとめて貫く。

 それは皮肉な事に、マグニツィアスの時の姿のようにも見えた。

『がはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?』

『ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?』

 直後、巻き起こる大爆発。

 天高く炎が噴き上がり、断末魔のように爆ぜ散る。

 黒煙が晴れると、跡にあるのはナイツァーの槍が残るだけだった。

『心を一つにしない者……その末路がこれか……』

 槍を拾い上げ、呟くナイツァー。

 それからちらりと校庭の片隅に目を向けた。

 そこには気絶していた雷が意識を取り戻したのを、泣きながら抱きしめるいおんの姿があった。

『……ふふっ、そしてこれが……』

 果たしてナイツァーは何と呟いたか。

 聞いた者はいない。誰にもわからない。

 だが、きっと、そこには満足の色があった。

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