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第一話「掟破りの合体破り」

 日本のとある片田舎、(ほし)(いろ)町でのおはなし。

 

 少女、神蔵(かぐら)いおんは両親と弟の4人ぐらし。

 ちょっとずつ変化のある普通で平和な日常を送っていた。

 しかし、今日は違った。

 今日といっても、もう日付が変わりそうな深夜。

 眠りについていたいおんは、ドンという音と振動を感じて目が覚めた。

 音はどうやら裏山から聞こえたようだ。

 両親を起こそうかと思ったが、水をぶっ掛けようと、朝まで絶対に目覚めない筋金入りの寝ぼすけ夫婦だ。声をかけるだけムダだろう。

 さすがに小学生の弟を真夜中に連れ出すのははばかられるので、そっとしておいた。

 いおんは夏とはいえ肌寒さを感じながらも、パジャマ姿のまま外に出て行く。

 外は真っ暗闇。田舎では明かりなんて数百メートル先の街灯くらいしかない。

 玄関に置いてある懐中電灯を手に、裏山へとぼとぼ歩いていった。

 蛾などが明かりに寄ってきて気持ち悪いが、好奇心のほうが勝っていたので歩みを止めることなく進む。

 すると、木々が薙ぎ倒されているのを見つけた。中には根っこが丸出しの状態にまで倒れているものもある。地面も奥に向かってかなりえぐられ、あたりに土砂がまき散らされている。

「なんだろ……隕石か何かでも落ちてきたのかな? ……ん?」

 奥がぼんやりと光っている。

「あっ!?」

なぎ倒された木々の上に、巨人が倒れていた。

白く、真珠のような光沢を持った装甲に包まれた鋼の巨人――わかりやすく言えばロボットであった。

真っ赤なマントを羽織り、西洋の鎧騎士のようにも見える。

「何……これ?」

 いおんはおそるおそる鉄巨人に近づいた。

「自衛隊の新兵器……とか?」

『み、水を……』

「うわっ、しゃべった!?」

『そこの方……水を、頂けないだろうか……?』

 弱々しく巨人が言った。頭部は部分は兜に覆われ、顔に当たる部分も金属に覆われているのだが、目らしき二つの光が声に合わせて明滅する。

どうやら単なる機械ではないようだった。

 むしろ、金属によって構成された肉体を持つ生命体といえるだろう。

 鎧――皮膚かもしれないが――は美しい純白だが、傷だらけだった。

その傷から金色の光が漏れ出し、蛍のように宙を舞い、消えていく。

 ぼんやりと光っているように見えたのはこれだったのだろう。

 人間の出血にあたるのかもしれない。

「……わかったわ。待ってて!」

 いおんは走り出した。

 家に戻ると庭の蛇口からバケツに水を注ぎ、一気にまた裏山へ走っていった。

 邪魔な懐中電灯は置いてきて、子どもの頃この裏山で遊びまくった経験1割、さっきの記憶1割、あとカン8割で闇に覆われた裏山を突っ走って鉄巨人のもとに戻った。

「持ってきたわよ! どうすればいいの?」

『……! ……本当に持ってきてくれたのか……。すまない……そのまま傷口にかけてくれないか?』

 鉄巨人はまず驚き、それからどこか遠慮がちに言った。

「OK! まっかせなさい!」

 いおんはバケツの水を巨人に思い切りかけた。

 じゅうう、と熱した鉄板に水を落とした時に似た音がして鋼の傷口に染み込んでいく。すぐに塞がりはしないが、漏れ出す金色の光は止まった。

 とはいえ巨人は二〇メートル近い身長だ。バケツ一杯程度の水で全ての傷が止血できるはずがない。

 いおんは再び家に走った。

 何度も何度も往復し、遂には巨人の傷すべてに水をかけることに成功したのだった。

 もう、空は白々と明け始めている。

 少女の手はかじかみ、擦り切れていた。

『……本当にお礼の言葉もない……』

「まーまー、気にしない気にしない。困った時はお互い様。助け合うのは当~然でしょ」

 いおんは胸を張って言った。

『……そうか……そうだな』

 巨人は噛み締めるように、呟く。

『……だが、私の星ではそうではない。弱肉強食が掟。助け合いなど……ない』

「……そ、そんな……」

『私はそれがいやで逃げてきたのだ。私は……星では狂っているのだ』

 その声には自嘲めいた響きがあった。

「ええっ、で、でも」

『本来なら私は星系を支配する皇帝に仕えねばならぬ身。しかし、私の仕えるべきは皇帝ではない』

 巨人はゆっくりと体を起こす。

『私が仕えるべきはあなただ! この御恩、私の全てをかけてお仕えすることでお返しする!』

 そしてそのまま、右の拳を地につけ、跪いた。

「ええっ!?」

『私はグランドナイツァー! あなたにお仕えする騎士なり!』


 昼休み。いおんはぼうっと窓の外を眺めていた。

 ――あの空の向こうにはナイツァーみたいなのがたくさんいるのかなぁ。まだ昼で星も見えないけど。

「おいっ、どーしたんだよマイナスいおん!」

「せいっ!」

 幼馴染の(れん)()の顔面にいおんの正拳が突き刺さる。

 マイナスいおんというのは、いおんのあだ名で、ほとんど使うものはいない。今のようにいおんの鉄拳がうなるからだ。

 それでも使うのはそこで倒れている練太くらいというわけだ。

「いってぇ……このゴリラ女……」

「第二撃装てん」

 ごきり、いおんの拳が音を立てる。

「い、いえ、なんでもありません」

「まったく……人が考え事している時に……」

「考え事?」

「あの空の向こうには何があるのかなぁ、とか」

「似合わねぇー。乙女かお前」

 練太は腹を抱えて笑う。

「そうだ・よっ!!」

「がふぁっ!?」

 いおんの拳が練太の肝臓を打ち抜いた。

「お……乙女が……リバーブローなんて打つかよ……」

 ばったりと崩れ落ちる練太。

 それをほっといていおんは再び窓の外を眺めた。

 ……すると、何か雲の狭間から見えるものがあった。

 ――黒い影……。人? そんなバカな。空中に人が……?

 大きい。巨人……? ナイツァー?

 あの黒い鎧……ナイツァーじゃ……ない?

「ナイツァー! ナイツァー!」

 いおんは腕時計に話しかけた。

 すると腕時計の液晶にナイツァーの顔が映った。

『どうされた? 我が主』

「空にナイツァーみたいな影が!」

『何!? ……まさか!?』

 いおんは窓の外に腕時計をかざした。

『あれは……兄上!?』

「ええっ!?」


『ククッ。愚弟を追って辺境くんだりまで来て見れば……これほど生命に満ちた星に辿り着くとは』

 空に浮かぶ黒い鎧騎士は腰にさげていた剣を抜き、天に掲げる。

 すると俄かに天を黒雲が覆い、剣が稲妻を受け金色に輝いた。

『この地に満ちしものどもよ聞け! 我は銀河帝国暗黒騎士団団長バルツァー! この地は銀河帝国の領土とする! それが不服ならば 我を倒してみせよッ!!』

 バルツァーの声は町中に響き渡った。

 だが、誰もがぽかんとして反応しない。

 あまりに現実離れしており、反応できないのだ。

 無理はない。時代錯誤の決闘を、巨大なロボットが挑んできているなど、今やアニメや映画ですらまず見ない。

 よしんば反応できたとしても、片田舎のこの町に軍備などあるはずもなく。

 駐在所に相手をしろというのも酷な話だろう。

『どうした? 来ぬか? 来ぬならこちらから行くぞ! 力こそ法。我が力存分に知るがいい! 逆らう気も起きんようにな!!』

 バルツァーが剣を一振りした。

 瞬間、その延長線上が薙ぎ払われる。

 車だろうが建物だろうが粉々だ。

『見よ! 我が魔なる剣技! 雷光剣!』

 バルツァーは剣を振り上げた。

『つえぁぁっ!』

 そして振り下ろす。

 剣から雷を帯びた斬撃が放たれる。先程町を薙ぎ払った正体。

 それが地に着くか否かその瞬間――

尖光槍破(せんこうそうは)!』

 真横から放たれた衝撃波がそれを相殺した。

『な……その技は……ナイツァー!?』

 衝撃波の放たれた方向をバルツァーが見ると、そこは校庭。

 そして、巨大な純白の騎士の影。

 まさしく、ナイツァー。

 その姿は、色の違いこそあれ、なるほどバルツァーと鏡写しであるかのようだった。

『退いて下さい。兄を討ちたくはない』

『戯言を! 貴様如きが自惚れるなぁッ!』

 バルツァーは激昂し、雷の斬撃を放つ。

『せいっ!』

 ナイツァーは円錐型の槍でそれを弾き飛ばした。

 斬撃が天まで弾け、雲を吹き飛ばす。

『……バカな!? 貴様……力を隠していたのか!?』

 狼狽し身じろぐバルツァー。対してナイツァーは微動だにしない。

『無益な争いは好むところではないのです』

『愚かな……これほどの力……我が跡すら任せられるものを……。こうなったのも我が監督の行き届かぬが故。……痛恨の極みよ! 我が手にて引導を渡してくれる!』

 バルツァーも校庭に降り立つ。

 いかに田舎の学校、校庭は広く、辺りは何もない造成地ばかりとはいえ、二体の巨人が立つと手狭に感じる。

『ナイツァー! そこに直れ! その首落として校庭に捧げようぞ!』

バルツァーは剣をナイツァーに突きつけた。

 一方のナイツァーは平然としている。

『おやめ下さい。力は互角か私が上。ただでは済みますまい』

『黙れ! 我にはまだ手がある! 来い! 神馬サラブリオン!!』

 バルツァーの叫びに合わせ、天が裂け、そこから鋼の白馬が現れた。

 それは地球の美学から見ても、美しいと言えるだろう。

 サラブレッドに似たフォルムに、白銀の光沢、そして太陽の如きたてがみ――

『あれは……一族の宝……鎧馬サラブリオン!?』

『そうだ! 一族が代々鍛えし生ける宝鎧! その力、見せてやろうッ! 黒騎士合体ッ!』

 サラブリオンは分解し、バルツァーの周囲を舞う。

『あ……あ……』

 ナイツァーは呆然とその様を見ていた。

『あれと合体されては……私に勝つ術は……ない』

「何やってるの! 今がチャンスじゃないっ!」

 いつの間にやら校庭に飛び出していたいおんが叫んだ。

『!?』

「奪いとっちゃえっ!」

『……! ……承知!』

 ナイツァーは合体シークェンス中のバルツァーに体当たりし、吹き飛ばした。

『ぐ、……き、貴様……!?』

 うろたえるバルツァーを横目に、ナイツァーはサラブリオンの前に立つ。

生ける宝鎧の名の通り、宙を舞うサラブリオンのパーツが鎧となってナイツァーに纏わりついてゆく。

『騎士道合体! ロイヤル! グランド! ナイッツァァーッ!!』

 周囲を光が包み、それが弾け、白銀に輝く騎士が誕生した。

 それはナイツァーよりも一回りも二回りも大きくなっており、力に満ち溢れていた。

『バカな……斯様な事が、あってはならぬ!』

『一族の鎧を私が纏えぬ道理はありますまい。退いて下さい。もはや勝ち目はありません』

『おのれ……おのれッ! ここで退がるだと! たわけがッ! 貴様、我の何を見て来たか! かくなる上は、貴様と刺し違えんッ!』

 バルツァーは剣を振りかざし、そのまま突っ込んできた。

 遮二無二とはいえ、その剣に込められた力は尋常ではない。

『兄上……こうなれば戦闘不能にするしかない! 我流奥義! (しっ)(そう)大突破(だいとっぱ)!!』

 ナイツァーの槍が銀色に輝き、その周囲に光の刃を成した。

 その光刃をバルツァーに向け、走り出す。

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

『おおおおおおおおおおおおおおっ!!』

 ナイツァーとバルツァーが目にも留まらぬ速さで交差する。

『がふぁっ!?』

 バルツァーの外装が砕け散った。

 そして体のあちこちより黒い塊が吹き出し、がくりと膝をつく。

 その喉元に、ナイツァーは槍を突きつける。

『退いてください。……私に兄は殺せません』

『きさま……ッ……情けをかけるだと……? ふざけおって……』

 バルツァーは拳を握り締め、わなわなと震えた。

 一瞬の逡巡を見せたバルツァーだが、その瞳に暗い炎を灯してナイツァーを睨みつける。

『覚えていろッ! ……必ず後悔させてやる! 必ずだッ!』

 バルツァーはそう言うと、黒い光に包まれ、雷を巻き戻すように飛びあがった、

そして、あっという間に空の彼方に消えた。

『……兄上……』

「何よあいつ。力こそ法なんでしょ。負けたんだから偉そうにしないでよね」

 ぶーぶー言ういおん。

 ナイツァーはサラブリオンと分離し、いおんの方に向きなおった。

『弟に負け、情けをかけられたというのがプライドを傷つけたのでしょう』

「まったくどーしよーもないわねー。また来るわよ。たぶん」

 ふぅ、といおんはため息を漏らす。

『おそらく次は私だけを狙うはず。元は私のまいた種。町を危険にはさらしません』

「そういう事を言ってるんじゃないんだけどね……。さて、隠れてた人が集まってくる前に時計に戻って」

『承知』

 ナイツァーはいおんのかざした時計にサラブリオンごと吸い込まれていった。

「ふー、いそがしくなりそうね……もう」

 いおんはため息を吐きつつ、呟いた。

 そしてその予感は、きっと当たっていた。


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