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 「あ……う……あ…………」

 ……ボクは……未だ、何も話せなかった。

 ……本当は、「違う!!」だとか、「そんなことはしなくていい!!」だとか、言いたいことは山ほどあった。――だけど、ボクの口は、それを言うことができなかったのだ。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……また、長い沈黙(ちんもく)が、ボクを襲った。

 いっそ、このまま彼女が何も話さなければ、それでこの場は、もしかしたら終わりを迎えていたのかもしれない。

 でも……彼女の〝心〟は、そうは思わなかった……。

 「――あ、あなたが、望むなら!!」

 突然そう叫んだ彼女は、もつれる(あし)をそのままに、まるで坂を転がり落ちてくるように、唐突にボクの下へと()い寄ってきたのだ。

 「え? な、何を!? 止め――!!」

 やっとしゃべることができたのが、その一言だった。しかし、すでに彼女の耳はすでに、そんなボクの言葉を理解できるような状態ではなかった。

 ――次の瞬間、彼女はまた、信じられない行動に出た。

 それは――


 むにゅっ……


 ――なんと彼女は、自分からボクの手を掴み、そして、そのまま自分の〝(むね)〟にボクの手を〝押し当てた〟のだ。

 「!!!?????」

 正直、もう頭が追いついて行けなかった。いったい彼女のその行動は、何を意味しているのだろうか?

 ――しかし、次の彼女の言葉で、ボクははっきりと、その〝意味〟を理解することとなった。


 「――好きなだけ、〝(さわ)って〟ください!!」


 ……〝触る〟? 好きなだけ……〝身体〟を?

 ――そう。彼女の、その行動の〝意味〟……それはつまり、先ほど〝土下座〟をすることによって表わした〝絶対の服従〟……それを、完全に言葉で、身体で表したものだったのだ。

 彼女は、胸に押しつけたボクの手を、さらに、ぐいぐい、と押しつけながら叫んだ。

 「ほ……ほら!! 私って、けっこう胸……大きい方なんですよ!? もっと触ってください!! ――あ! も、もしかして、おしりの方が好きでしたか!? それならどうぞ!! 何なら、おしり以外の所も、〝全部〟……っっ!!」

 ……ああ、なるほど。

 自分で自分の首を()めているかのような、そんな、彼女の自虐的(じぎゃくてき)な言葉を聞いた瞬間。ボクは……ボクの頭は、ようやく〝冷静さ〟というものを取り戻すことができた。

 そして、すぐに気がつく。――それは、彼女の胸に触れている方の手……そこから感じ取れたのは、彼女の中にあった、〝(ふる)え〟だった。

 ――そう、彼女はずっと、〝恐怖(きょうふ)〟と戦っていたのだ。それも、今ボクに言った、自分の身体を、見ず知らずの相手の好きにさせる……そこからくる恐怖だけではない。

 〝バレるかもしれない〟という恐怖――彼女は、ボクにそのことを知られた瞬間からずっと、その、〝二つの恐怖〟と戦っていたのである。

 どおりで……納得したボクは、しかし同時に、このままではボクが何かを言ったところで、彼女は聞く耳を持たないだろう。……ということも、分かっていた。

 だったら――!!

 思いついたボクは、おもむろに、ゆっくりと……彼女に掴まれていない方の手を高々と掲げた。

 「……え???」と、それを見た彼女が困惑(こんわく)のあまり。首を傾げる。

 だけど、ボクはそれに構わず、そこに――

 「――えいっ!」


 がつんっ!!


 瞬間、「きゃん!?」という、まるで子犬のような可愛らしい悲鳴が遊具の中に響いた。

 ――いったいボクは彼女に何をしたのか? その答えは簡単だ。


 〝チョップ〟。


 そう、〝チョップ〟だ。よく空手家が(かわら)()りとかで見せる、あの〝チョップ〟である。

 もっとも、当然、そんなに力は込めてはいないのだけれど……って、そんなことはどうでもいいとして、ボクは、そんなボクの〝チョップ〟を受け、きょとん、とした表情のまま、頭を押さえて固まる彼女から、掴まれていた腕を引っこ抜き、そして今度は逆に、そんな彼女の肩をボクはしっかりと掴んで、ゆっくりと……慎重に、言葉を選びながら話した。

 「……えーと……まずは最初に、いきなり叩いたりなんかしてごめんね? ボクは女の子に手を上げる最低な男だ。――だけど……そんな最低な男のボクだけれど……一つだけ、キミに〝聞いてほしいこと〟があるんだ」

 「……聞いて……ほしい……こと…………???」

 「そう。聞いてほしいこと……」

 ボクは、彼女がちゃんとボクの言葉に反応したのを確認してから、続けた。

 「……いい? キミはボクに、キミの〝秘密〟……〝変態性〟がバレて、それをみんなに言いふらされちゃうんじゃないか? って、〝心配〟に思っているんだよね? ――だったら、そんな心配をする〝必要はない〟よ」

 「〝心配〟……〝必要ない〟…………???」

 「うん。そう……なぜなら、ボクだって……ううん、〝ボクの方〟が明らかに――」


 〝変態〟――なんだから。






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