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「くっそ~! 痛って~!! ……テメーどこ見――うおっ!? 〝変態〟!!?」
前下方向から謎の男子生徒の声……って! しまった! 忘れてた!!
誰かにぶつかってしまったことを今になって思い出したボクは、それからすぐに手を前に伸ばし、慌てて謝った。
「――ご、ごめんね! 探し物に夢中で前を……あれ? そういうキミはどこかで……?」
「同じクラスの長山だ!!」
あ……あ~! どーりで! そういえば今日日直やってたね!
同じクラスでは愛梨さんと鏡さん以外、基本ボクは誰とも関わりを持っていない(持てない)ものだから、すっかり忘れてたよ。
「……あ、そんなことより手を――」
バシィ! ――言いかけて、ボクは伸ばした手を思いっきり弾かれてしまった。
ジーン、と手が痛い……いや、それ以上に〝心〟が痛くなった。
「くそが! 誰がテメェのような〝変態〟の手になんか掴まるかよ!」
長山くんはボクを罵倒し、それから自分で立ち上がってズボンの砂を掃った。
そして同時に、小声で何やら、ぶつぶつ、呟い――
「……くそ! 歩いてたらなんかスマホが降ってきて頭に当たるし、〝変態〟にはぶつかるし、今日はホントついてねぇーなぁ……」
「…………」
……ヤバイ。これはかなり怒られるかも……いや、絶対! ものすごく! 怒られる!!
だって、考えてみてもすぐに分かることじゃないか! ボクにぶつかられる前に、すでに長山くんは……なんてことだ! よりにもよってボクのスマホの手(?)によって、頭に大ダメージを受けていたのだ! 長山くんはまだこのスマホがボクのスマホだとは気づいていないようだけれど……しかし、もしもそれに気づいたら、いったい……。
………………………………。
だらだらだら……まるで汗の集中豪雨や~!
――って! そんなこと言ってる場合じゃない!! バレる前にどうにかして長山くんの機嫌を取らないと……!!
だが、次の瞬間だった。
「――ん!? お前、その〝スマホ〟……まさか!!」
バレたーーーっっ!!!
「ごごご、ごめんっ!!」
シュバッ!! ……やはりボクもお姉ちゃんと同じ血が通っているらしい。(こんな時だけ、だけど)神速を超えるスピードで頭を下げることができた。そのままボクは言いわけを述べる。
「あ、あの! 今ちょっと部活で特訓中で、それで特訓中にその……直接部活とは関係ないんだけど、女子生徒S(※〝縞パン〟のS)さんを怒らせちゃって、それで窓からスマホを捨てられて……!!」
「そんなわけ分かんねーことで、かんけーねぇ俺が〝被害〟を受けたってか!? あーあ! どうやってこのオトシマエつけてくれんだよ! ――ああ!?」
怒り心頭、とはまさにこのことか……もはや手がつけられない。
ボクはもはや、ただ必死に頭を下げ続けることしかできなかった。
「本当にごめん! 本来なら購買部でジュースとかパンとか買っておごるべきなんだろうけど、今のボクの全財産、わけあって〝十四円〟しかないんだ! 来月になったら千円分くらい何でも好きな物をおごるから、許して! ね? このとーり!!」
パチン! ボクは両手を頭の前で合わせて懇願した。
――だけど、
「んなもんで許すわけねーだろこのボケェ!! せめて〝一万〟くらい出せや!!」
「い…〝一万〟!? ボクのお小遣いは月〝三千円〟だから、えっと……〝三ヶ月〟分!!? そりゃあいくらなんでも多すぎるよ!!」
「〝四ヶ月〟だ!! 算数もできねーのかテメェは!!」
「え? ……あ、ホントだ。三ヵ月じゃ〝二千円〟足りないや……ごめん。返す言葉も見つからないよ…………」
「〝二千〟じゃなくて〝千〟……うぬぅあぁぁ! もうっ!!」
イライラ、はもう〝最高潮〟のようだった。長山くんは怒り過ぎてもはや自分でも手がつけられない状態らしい。




