1-8改
――山のような遊具の中。
膝を抱えてうずくまったまま動かないでいる女子生徒の隣で、ボクは握り締めた〝パンツ〟をそのままに、同じようにそこに座り、そして何をするわけでもなく、ただずっと、真っ暗闇な遊具の中……その壁を、じっ……と見つめていた。
――なぜ、このような状況になっているのか? それを簡単に、そして一気に説明すると、以下のような流れになる。
……まず、あの盛大な悲鳴の直後、当然のように周りにあった家々からは、「何だ!?」だの、「どうした!?」だの、そういう声が次々に上がっていったのだ。それに慌てたボクは、もはや直感でのみ行動し、急ぎ撮っていた動画を削除し、スカートを押さえてうずくまる女子生徒の下へと登り、そしてその腕を強引に引っ張って一緒に遊具の中に隠れ、ただひたすらに息を殺して騒ぎが収まるのを待っていた……のはいいのだけれど、その騒ぎが収まった後も問題は色々残っていて、結果、現在のように無言の〝硬直状態〟ができあがってしまった……と。そういうわけだ。
――で、まとめたのはいいけど……どうしよう、これ?
チラリ、とボクは女子生徒の方を見てみたけど……もうかれこれ十五分以上は時間が経っているのにも関わらず、女子生徒は未だに動かず、そして無言のままだった。
……何か声をかけてあげた方がいいのかな? と、そんな様子を見かねて何度かそうは思いはしたけれど……いったい、ボクは彼女に何て声をかけてあげたらいいのだろうか?
……例えば、「大丈夫! 〝パンツ〟を脱ぎたくなる時くらい、誰にでもあるよ! てゆーかボクなんて〝年中〟そんな気持ちだしね☆」……とか?
……ボツだ。そんなことを言ったら、きっとこの娘は今すぐ首吊り自殺を図るに違いない。
――だったら、「おっけーおっけー! 問題ないって! ボクは何も見てないし、それに何も聞いてないよ? ここであったことは今すぐデストロイしちゃうぜヒャッハー!!」
……ダメだ。さすがに色々ありすぎて、ボクの頭はもう限界だ。もしもそんなことを言ったら……きっと、この娘は今すぐ焼身自殺を図るに違いない。
いったいどうしたらいいんだ……と、本格的にこの道は〝死路〟ではないかと思い始めた、
――その時だった。
「………………ごめんなさい」
――と、唐突に、彼女がそんなことを呟いたのだ。
え? あの……とボクはその言葉の意味が分からず、あたふたしてしまったけど……彼女はそれに構わず、そのまま、ゆっくりと……まるで消え入りそうなか細い声で続けた。
「……私が……〝悪い〟んです……私が……こんなことを、していたから…………」
「え……わ、悪い? 悪いって……ええと、その……ぱ、〝パンツを脱いでいた〟こと?」
――はっ! ボクは、その言葉を言い終わってから気づいた。
な……ボクはいったい何を聞いているんだ!? そんなことを聞いたら、彼女はますます傷ついて――!!
……だけど、そう思った次の瞬間。女子生徒の口からは信じられないような言葉が呟かれた。
「そう。〝そのこと〟です……私、実は……〝変態〟なんです……小さい時から、そういう趣味……〝性癖〟があって……人前で裸になったり、薄着になると興奮して……それで……!!」
「ちょっっ!!?」
いくら何でも洗いざらいしゃべりすぎだ!
そう思ったボクは慌てて彼女の肩を掴んで、止めに――
「うぅ……ひっく…………うぇ……」
――しかし、その表情を見た、瞬間……ボクはもう、それ以上、何も話せなくなってしまっていた。
女子生徒は……彼女は、そう。〝泣いていた〟のだ。それも、起き上がらせてなお、止まることのない大粒の涙を流しながら、暗闇の中でもはっきりと分かってしまうほどに、目の周りを真っ赤にして……。
見れば、先ほどまで顔をうずくまらせていたその腕……制服は、すでに涙と鼻水で、ぐっちょり、湿っていて、一目見ただけでも、相当な時間、彼女が泣き続けていたことが容易に想像できてしまった。
――まさか、この遊具の中に入ってから、〝ずっと〟?
よろ……と、そのあまりにも衝撃的な事実に思わずバランスを崩してしまったボクは、そのまま後ろに尻もちをついてしまう。
彼女は、そんなボクの様子を見てか……いや、すでにそんな余裕は、彼女にはなかった。
彼女は、ただ、そんなボクの前で正座に座り直り、そしてあろうことか――
「……どう、か……〝このこと〟、は……どう、か……誰…に、も…………」
――それは、〝土下座〟だった。
よく、お笑いとかでやる、あんなふざけた土下座じゃない。
正真正銘……彼女のその〝土下座〟は、彼女の〝心〟。それ〝そのもの〟を表していた。
〝絶対の服従〟……言葉に出さなくても分かる。彼女は、〝自分の性癖〟を他人にバラさないようにしてもらうために、こんな見ず知らずのボクに、それを〝誓った〟のである。