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甲呀の場合。
「承知した。――では〝変人〟である俺がまず以ってやるべきこと、だが……俺にはどうも、〝羞恥心〟というモノが多すぎる気がしてならないんだ」
「〝羞恥心〟……ですか? 〝羞恥心〟って、〝恥ずかしい〟っていう、あの……?」
そうだ。愛梨さんの質問に即答した甲呀は、くい、と眼鏡を直した。
「〝羞恥心〟……〝恥ずかしさ〟というモノが俺の中にあるせいで、俺は未だに〝変態〟に成ることが……〝成りきる〟ことができないでいると思うんだ。――考えてもみてくれ。俺は忍者……知らぬ場所に〝素顔〟で行くことなどまず有り得ん。絶対に〝変装〟という形でその場所へ行くことになるはずだ。……その形では、譬え俺にとってどんなに〝恥ずかしい〟ことをしたとしても、〝俺〟という存在に誰も〝気づかない〟ことになる。……つまり、俺自身もそのせいで、それを変装後の姿……〝演技〟だと思い込んでしまい、全く〝恥ずかしい〟とは思えないんだ……」
「ああ~。なるほど……」
……え? でもそれって……意外と〝簡単に〟克服できるんじゃない?
そう考えたボクは、さっそく意見を出した。
「ねぇ、甲呀? それってさ? 例えば……変装も何もしていない、〝素〟の甲呀のことを、〝変装している〟、と思い込んで、それで〝変態〟的な演技をやってみ――」
「――恥ずかしくて不登校にでもなったら里に連れ戻されてしまうだろうが」
「……じゃ、じゃあ、とりあえず誰もいないようなところで練習を――」
「――誰かに見られるかもしれないという〝恐怖〟をどうやって拭うんだ」
「…………れがいいのに……」
ぼそり。愛梨さんが何かを呟いたような気もしないではなかったけれど……そんなことはともかく、
「……ねぇ、甲呀? 甲呀ってさ、本当に〝変態〟になりたいの? てゆーか、なる気はあるんだよね? 一応確認なんだけどさ?」
「無論だ。でなければこんな部活を造ろうとは言い出さないさ」
「じゃあ〝変態行為〟を――」
「――無理だ。死んでしまう」
「……」
――っのシャイボーイめッッ!!!
甲呀が傷つくといけないから口には出さなかったけれど……とにかく心の中でボクはそう叫んだ。




