4-15改
――〝格〟違いの晩ゴハンからおよそ二時間。食卓兼リビング。
そこで……近くのソファーで、ずっとネコちゃんのように、ゴロゴロ、気持ちよさそうに寝っ転がっているお姉さんのことをそのままに、私は泰介さんといっしょにテスト勉強をしていた。
「――違いますよ、泰介さん。だからタバコが原因で引き起こされる肺の病気は〝ニコ中〟ではなくて、〝肺がん〟や〝肺炎〟などです。他の、〝COPD(慢性閉塞性肺疾患)〟とか、そういう小難しいものは覚えなくてもいいので、とにかく〝肺〟と最初に付く病気だけを覚えていきましょう。そうすれば、今回のテストでは問題なく正解できると思いますよ?」
「〝肺〟〝肺〟〝肺〟……はい! OK! とりあえず〝肺〟って書けばいいんだね!」
「……いえ、そうではなくてですね……」
……ちなみに、聞いてのとおり、思った以上に勉強は進んでいない。……いったいどのように教えれば泰介さんは覚えてくれるのかも、未だにわかっていない状況だった。
も~! 泰介さん~! そう私は声をもらしながらも、泰介さんがちゃんと理解してくれるまで何度でも教え続けた。
「ですから……いえ、もうこうしましょう! 肺の病気は何ですか? っていう問題が出たら、とにかく〝肺がん〟って書いてください! たぶん語群にあるはずですから!」
「OK! 〝肺がん〟って〝語群に書けば〟いいんだね! 分かったよ!」
「…………いえ、あの……だから……………………」
……く、くじけるな、私! 泰介さんだってこれでも覚えようとして必死にがんばってくれているじゃない! ここで私がくじけたら全てが、パァ、だよ!!
――よし! と改めてそれを心に刻みつけた私は、言い方を変えてもう一度最初から……。
その時だった。
「ん~……たいちゃ~ん? そろそろ〝お風呂〟の時間だよ~?」
ゴロロン、と……(まさか、ソファーの上からそのまま!?)泰介さんの足元にお姉さんが転がってきたのだ。それに気がついて泰介さんはすぐに答える。
「おや? ホントだ。もうそんな時間か……あ、でもちょっと待ってね、お姉ちゃん? ここはやっぱり、お客さんの愛梨さんから先に入れてあげなきゃ」
「え? いえ、そんな……私のことでそんなに気を使っていただかなくても……」
「まぁまぁ、いいからいいから」
そう言うと、泰介さんはすぐに椅子から立ち上がり、たぶん、お風呂場がある方なのだろうだろう。――に向かって歩いて行った。
「――ちょっと待っててね? ウチのお風呂はちょうど七分でお湯が汲み終るから」
……せっかくの泰介さんの〝ご厚意〟というやつだ。これ以上断るのは、逆に失礼になってしまうことだろう。
そう思った私は、「はい。じゃあ、よろしくお願いします!」と笑顔で答えた。




