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 ――もはや、(なや)む理由なんて、何一つなかった。

 思ったボクはすぐに行動を……カバンからスマホを取り出し、〝動画撮影(さつえい)〟を開始する。

 なぜ、そんなことをする必要があるのか? ――それは、あの娘が捕まった際に、もし何か〝言い逃れ〟をしたとしたら……ボクは〝変態〟だ。たとえ本当のことだけを言っていたとしても、誰もボクの話なんて聞かず、あの娘の言ったことだけを信用するに違いない。

 だからこその、〝動画撮影〟。――こうやって現物の〝証拠(しょうこ)〟を用意しておかなくては、逆にボクが悪者にされてしまう可能性だってあるのだ。

 ボクはそれから、ちゃんと動画が撮れていることを確認し、音を立てないように慎重(しんちょう)に、しかし素早く木の陰から出てスマホに小声で呟いた。

「――では、これより〝取引現場〟の差し押さえ作戦を開始します」

 ……何か、それっぽくなってきた。と内心ほんの少し、わくわく、してしまう。――だが、それでもボクは、やるべきことだけは忘れなかった。

 ボクは再度、足音を立ててしまわないように細心の注意を払いながらも、スマホをあの女子生徒が入って行った遊具の方に向けて進んだ。

 遊具までの距離は、あと五メートル……四メートル……三メートル……。

 ――二メートルの位置にまできた。あとほんの数歩歩けばそこにボクは到着できる。

 ――だけど、〝オカシイ〟がまた一つ……そう、こんな近くにまできたのに、遊具の中からは女子生徒の話声はおろか、〝呼吸音すら〟聞こえてこなかったのである。

 文字どおり息を(ひそ)めるにしても、相手は人間だ。となれば息をしないわけがないし、しかもこの遊具は山……〝ドーム状〟である。中でいくら注意していても、反響(はんきょう)によってその小さな音は何倍にも大きくなって外に()れ出してしまうはずだ。

 でも、実際に外では何の音も聞こえてこない……このことを考えると、もはや答えは一つだけだった。

 ――ま……まさか!!? 最初からボクに〝気がついて〟いて、それでわざとここに入る所を見せて、裏から〝逃げた〟んじゃ……!!

 くっ! ――ボクは念のため、引き続き音を立てないように注意を払いつつも、すぐさま遊具に近づき、そしてその(かべ)に張り付いた。……それからゆっくりと、慎重に中の様子を(のぞ)き見る。

 ――と!!

 なっ……い、いないっ!!

 やられた! と思った。やはりあの女子生徒は、最初からボクに〝気づいていた〟のだ。それでボクを巻くためにわざとここへ……。

 くそっ! ボクは歯噛(はが)みした。そりゃそうだ。あの女子生徒はわざわざボクに見つかりやすいように行動し、そしてまんまとボクの追跡(ついせき)から逃れてどこかに身を隠してしまったのだ。結果ボクに残されたのはこの、ただの……何もない遊具に慎重に近づいて行くだけ、という、何とも〝マヌケな動画〟と、そして文字どおりの、〝無意味な時間〟だけだった。

 ――見失った今からじゃ追うことも不可能……やはり、そう簡単には〝上〟には行けないか。

 くっそ~……と、悔しさと落胆のあまり、ボクはすぐさまスマホを操作し、そのバカ丸出しの動画を削除(さくじょ)し――


 ぱさっ……。


 ――と、その時だった。突然、ボクの頭の上に何か……〝布切れ〟? みたいな物が落ちてきた。

 ん? 何だこれ? と当然、気になったボクは〝それ〟を頭の上から拾い上げてみる……と、瞬間、ボクはすぐに〝それ〟の正体に気がついた。

 〝それ〟の正体とは――


 ――〝パンツ〟だった。しかも〝女物(おんなもの)〟で、色はピンク……。


 ……………………………………。

 ……その、あまりの衝撃にボクは声すら出せなかった。

 ――なぜ、空から〝パンツ〟が? ひょっとして、誰かがドラゴンなボールを七つ集めて、それで「ギャルのパンティーを~」とか何とか、願ったのであろうか?

 ……いやいやいや、とボクは改めて冷静になる。

 そんなわけはない。だって、それだったら空に暗雲が立ち込めていたはずだ。いくらあの女子生徒を追うことに気がいっていたとはいえ、さすがにそんなことになっていたとしたら、とっくに気づいている。

 となれば……あと考えられることは〝一つだけ〟だ。

 ――そう、この近くに住んでいる人がどこかで洗濯物を干していて、うっかり落としてしまった。そしてたまたま〝パンツ〟がボクの頭の上に落ちてきた……と。うん。もうこれしかないな。

 そう確信を持ったボクは、ちょうど動画を撮っていたということもあり、スマホのズーム機能を使って辺りを見回し、洗濯物を取り込んでいる人がいないかどうかを――


 「――はぁ~❤ すっきりぃ~❤」






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