1-6改
――もはや、悩む理由なんて、何一つなかった。
思ったボクはすぐに行動を……カバンからスマホを取り出し、〝動画撮影〟を開始する。
なぜ、そんなことをする必要があるのか? ――それは、あの娘が捕まった際に、もし何か〝言い逃れ〟をしたとしたら……ボクは〝変態〟だ。たとえ本当のことだけを言っていたとしても、誰もボクの話なんて聞かず、あの娘の言ったことだけを信用するに違いない。
だからこその、〝動画撮影〟。――こうやって現物の〝証拠〟を用意しておかなくては、逆にボクが悪者にされてしまう可能性だってあるのだ。
ボクはそれから、ちゃんと動画が撮れていることを確認し、音を立てないように慎重に、しかし素早く木の陰から出てスマホに小声で呟いた。
「――では、これより〝取引現場〟の差し押さえ作戦を開始します」
……何か、それっぽくなってきた。と内心ほんの少し、わくわく、してしまう。――だが、それでもボクは、やるべきことだけは忘れなかった。
ボクは再度、足音を立ててしまわないように細心の注意を払いながらも、スマホをあの女子生徒が入って行った遊具の方に向けて進んだ。
遊具までの距離は、あと五メートル……四メートル……三メートル……。
――二メートルの位置にまできた。あとほんの数歩歩けばそこにボクは到着できる。
――だけど、〝オカシイ〟がまた一つ……そう、こんな近くにまできたのに、遊具の中からは女子生徒の話声はおろか、〝呼吸音すら〟聞こえてこなかったのである。
文字どおり息を潜めるにしても、相手は人間だ。となれば息をしないわけがないし、しかもこの遊具は山……〝ドーム状〟である。中でいくら注意していても、反響によってその小さな音は何倍にも大きくなって外に漏れ出してしまうはずだ。
でも、実際に外では何の音も聞こえてこない……このことを考えると、もはや答えは一つだけだった。
――ま……まさか!!? 最初からボクに〝気がついて〟いて、それでわざとここに入る所を見せて、裏から〝逃げた〟んじゃ……!!
くっ! ――ボクは念のため、引き続き音を立てないように注意を払いつつも、すぐさま遊具に近づき、そしてその壁に張り付いた。……それからゆっくりと、慎重に中の様子を覗き見る。
――と!!
なっ……い、いないっ!!
やられた! と思った。やはりあの女子生徒は、最初からボクに〝気づいていた〟のだ。それでボクを巻くためにわざとここへ……。
くそっ! ボクは歯噛みした。そりゃそうだ。あの女子生徒はわざわざボクに見つかりやすいように行動し、そしてまんまとボクの追跡から逃れてどこかに身を隠してしまったのだ。結果ボクに残されたのはこの、ただの……何もない遊具に慎重に近づいて行くだけ、という、何とも〝マヌケな動画〟と、そして文字どおりの、〝無意味な時間〟だけだった。
――見失った今からじゃ追うことも不可能……やはり、そう簡単には〝上〟には行けないか。
くっそ~……と、悔しさと落胆のあまり、ボクはすぐさまスマホを操作し、そのバカ丸出しの動画を削除し――
ぱさっ……。
――と、その時だった。突然、ボクの頭の上に何か……〝布切れ〟? みたいな物が落ちてきた。
ん? 何だこれ? と当然、気になったボクは〝それ〟を頭の上から拾い上げてみる……と、瞬間、ボクはすぐに〝それ〟の正体に気がついた。
〝それ〟の正体とは――
――〝パンツ〟だった。しかも〝女物〟で、色はピンク……。
……………………………………。
……その、あまりの衝撃にボクは声すら出せなかった。
――なぜ、空から〝パンツ〟が? ひょっとして、誰かがドラゴンなボールを七つ集めて、それで「ギャルのパンティーを~」とか何とか、願ったのであろうか?
……いやいやいや、とボクは改めて冷静になる。
そんなわけはない。だって、それだったら空に暗雲が立ち込めていたはずだ。いくらあの女子生徒を追うことに気がいっていたとはいえ、さすがにそんなことになっていたとしたら、とっくに気づいている。
となれば……あと考えられることは〝一つだけ〟だ。
――そう、この近くに住んでいる人がどこかで洗濯物を干していて、うっかり落としてしまった。そしてたまたま〝パンツ〟がボクの頭の上に落ちてきた……と。うん。もうこれしかないな。
そう確信を持ったボクは、ちょうど動画を撮っていたということもあり、スマホのズーム機能を使って辺りを見回し、洗濯物を取り込んでいる人がいないかどうかを――
「――はぁ~❤ すっきりぃ~❤」