4-6改
――三年生、多目的室。
「――よいっしょ…っと! ふー! 中々重かったね!」
ポスン、ポスン……ドスン! と次々に、ボクたちは運んできたプリントの山と教材を空いていた机の上に置き、無事任務を完了することができた。……ちなみに最後の〝効果音〟はもちろん、お姉ちゃんである。相変わらず凄まじいパワーだ。いったい、一人で何キロ分運んできたのだろうか……?
「――お疲れさま~」
と、そこに、最後にゆりちゃん先生が入ってきて、ポスン、と教材を同じ場所に置いた。
「いや~、ホント助かっちゃった。先生力全然ないから……あ、そうだ。これお礼ね? みんなでジュースでも飲んで?」
「え? いいの?」
ボクはゆりちゃん先生からそれを受け取ってから聞くと、うふふ☆ と年齢差をまるで感じさせない、まるで同級生であるかのような無邪気な笑顔でゆりちゃん先生は笑った。
「ホントは先生が生徒に買い食いススメちゃいけないんだけどね? これは四人だけの秘密ということで……うふふ❤ な~んて♪」
……ホントに同級生みたいだ。
ゆりちゃん先生……実は年齢偽って働いていて、本当はまだ十五歳……とか言わないだろうか? 何だかそう言われても簡単に信じてしまいそうなほど、ゆりちゃん先生のその外見と仕草は、若さに満ち溢れていた。
なるほど、これならみんなから好かれる理由も分かる気がするよ。……ボクにも何か、そういうモノがあればいいのに……。
と、そんなことを考えていると……お姉ちゃんが聞いた。
「ところでゆりちゃん? 何でこんなにいっぱいプリントがあるの? 三年生って、毎日こんなに勉強しなくちゃいけないの?」
「――あ、ううん。それは一日分ってわけじゃなくて、正確には八週間……実技も合わせればちょうど二ヶ月分なのよ。ちなみにそこにあるプリントは一人分が三枚で、一クラスがだいたい四十人。それが五クラスあるから……」
「なるほど、〝五〟百枚もあるのか……どーりで重たいわけだ」
「たいちゃん、〝六〟百枚だよ~」
「え? ……あ! そ、そうだよね! あはは!」
ところで! とボクは、単純な計算を間違えてしまったということのテレ隠しに、とっさに近くにあったプリントを一枚手に取り、ゆりちゃん先生に聞いた。
「ゆりちゃん先生、これ……読んでみてもいい? 三年生ってどんな勉強してるのか、ちょっと気になるんだ」
「あ、それならお姉ちゃんにも取って! いいでしょ、ゆりちゃん?」
もちろんよ! そう笑顔で答えたゆりちゃん先生は、でも……と続けた。
「もしかしたら、あなたたちにはちょっとだけ、〝刺激〟が強いかもしれないけど……」
「「〝刺激〟……???」」
はて? 何のことやら? このプリントは……〝わさび〟とかでできているんだろうか?
……いや、そんなことあるわけないか。そう思ったボクは、とりあえず、〝刺激〟の意味も分からずに、そのプリントに書かれてあることを声を出して読んでみた。
「……問1、( )に当てはまる語句を四角内の語群から選び、埋めなさい。……〝子作り〟をする際、最も重要なのは( )であり、男女共に――」 ※答え、【計画性】。
バシュッ!!
――その時だった。ボクの目の前にあったプリントが突然〝消えた〟。
え? あれ? とボクは辺りを見回すと……あった。確かに一枚しか持っていなかったはずなのに、なぜかお姉ちゃんの手には〝二枚〟のプリントが握……って!?
「お……お姉ちゃん???」
ボクはお姉ちゃんに話しかけてみたけれど……お姉ちゃんは反応しない。というか、くしゃくしゃになってしまったプリントをガン見して、〝身体を震わせて〟いた。
それから、数秒……。
一とおりプリントに目を通したお姉ちゃんは、すたすた、とゆりちゃん先生の方へ歩み寄り、ズビシッ! とそれを突き付けながら話した。
「……ゆりちゃん、これはどういうことなの?」
「どういうって……ほら、やっぱり高校三年生にもなると興味本位で〝シちゃって〟、妊娠しちゃう子がいっぱい出てきちゃうでしょ? 望まない妊娠を避けるためにも、しっかりとした勉強をさせておいた方がいいと思って……」
「……これ、一~二年生では習わないんだよね?」
「ん? ええ、それはもちろん……だって、将来のこともまだ曖昧な時期のそんな子たちにこれを教えちゃったら、逆に興味をもってクラスメート同士で〝ヤっちゃう〟可能性が高いからね。だから、この勉強は三年生になってからするんだけど……それがどうしたの? ――あ、もしかして、弟くんはまだそういうの知らないの?」
「うん……お姉ちゃんが絶対に知られないように色々してたから……でも、十八歳になったら、ちゃんと〝お姉ちゃんの身体〟で教えてあげるつもりでいるの。それまではずっと純粋なままでいてほしいし……」
「え……でも、〝近○相姦〟で妊娠しちゃうと、奇形の子が生まれてくる可能性が高くなるのよ? それに現在では姉弟の結婚は法律で認められていないし……」
「奇形については確かに注意しなきゃいけないけど、でもそれって絶対そうなるわけじゃないでしょ? 事実天皇家だってつい最近まではそうやってきたわけだし……あと、結婚については大丈夫。正式に認められていなくたって〝愛〟さえあれば問題ないよ。〝イザ〟となればどこか知らない国に移住する覚悟だって、お姉ちゃんには……」
「ごほん! ごほん! ――あー、そろそろよろしいですか、師匠?」
咳払いを二つ……かなり強引に、ではあったけれど、終わらない話に甲呀が無理やり割って入り、それを中断させた。
「俺はまだいいとしても、泰介にはその話の一切が理解できていないようなのです。できれば分かるように話していただくか、または話を変えていただければ助かるのですが……」
うん。うん。ボクは頷いた。いや、ホント。いったい何の話をしているのかさっぱりだよ。〝きん○○そうかん〟? 何それ? 羊かんの仲間? ……みたいな???
「ああ! ご…ごめんね、たいちゃん? こんな話、たいちゃんにはまだまだ早かったよね? もう絶対話さないから、安心してね?」
「先生もごめんね~? 緒方さんがちゃんと将来のことを考えているみたいだから、つい話に夢中になっちゃって……こんな話ばっかりしてるから、先生ってたまに――」
〝変態〟
「――って、呼ばれちゃうのかな~?」




