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――そして、以下略からの帰り道。
「……予想どおり、〝全敗〟だったね?」
「……今回は最初からそんな雰囲気の教師ばかりだったな」
「……ごめんね、たいちゃん、甲呀くん……お姉ちゃんが去年、〝あんなこと〟を言い回らなければ、こんなことには……」
「……いや、お姉ちゃんは悪くないよ。全ては〝変態〟であるボクのせいなんだから……」
「……いや、泰介は悪くないだろ? そもそもそれを直すための部活なのに、それに賛同しない教師たちが悪いのではないか?」
「……ううん。やっぱり、お姉ちゃんが…………」
「「「………………」」」
――はぁ。
――ふぅ。
――しゅん……。
自己嫌悪と落胆と後悔……各々抱えた思いをため息に変え、ボクたちは廊下を歩き続けた。
にしても……ヤヴァイ。このままだと、絶対にヤヴァイ。
何が? とはもちろん、この顧問獲得問題についてである。
ボクたちは今日を合わせての、この四日間。顧問の〝こ〟の字すら見つけられていない状況にあるのだ。
……始める前にも言ったけど、ボクたちが捜している顧問はあくまでも、現在顧問を請け負っていない〝余り物〟的な存在……したがって、絶対的にその数は〝少ない〟状況にある。
それなのに、とはっきり言っておこう。その総数から、この四日間でダメだった先生の数を引くと……〝いよいよ〟だ。いよいよ、〝後〟がなくなってきてしまったのだ。
――正確に言えば、あとたったの〝三人〟。……もしこれらが〝ダメ〟であった場合を考えると……ボクは、せっかくとった栄養が体外に排出されるのを防ぐため、
〝目を瞑り〟、
〝耳を塞ぎ〟、
〝口を閉じる〟。
……そうするしかなくなってしまう。
それだけは避けたい。絶対に……とは、思いはするものの、やはり、今のボクにできることといえば、無意味にさえ思えてくるこの〝勧誘〟という行為だけなのだ。
ならば、少しでもそれの成功率を上げるためにも、何かこう……そう! お代官さまに小判型のお菓子をあげる的なことを……あ、いや、でも今ボク絶賛金欠状態だし……じゃあ……どうしよう?
――そんなことを考えていた、その時だった。
「――あ、ねぇ? そこのキミたち?」
と、唐突に、ボクたちは声をかけられたのだ。
こんなボクたちに声をかけるだなんて……いったいどんな物好きだ?
悲しくもそう思いながら、ボクたちは声がした方向を見てみると、そこは……
「……〝保健室〟?」
そう。誰がどう見ても〝保健室〟だった。
つまり、この声の主は……
「――あ、〝ゆりちゃん〟だ」
――お姉ちゃんが声を上げた。それを聞いて、〝ゆりちゃん〟と呼ばれた声の主も、保健室内から出てきた。
「あら? ――なんだ、緒方さんじゃない。……今帰りなの?」
――そこから出てきたのは、黒い短髪で童顔な顔立ちながらも、母性溢れる豊満な胸に、決して痩せすぎていることのないウエスト。そしておしり……真っ白な白衣に全身を包んだ、その清楚な姿は、ザ・〝保健医〟! と誰が見ても一目で分かる、そんな〝安心感〟さえ抱かせる人物だった。
お姉ちゃんはその人を見て〝笑顔〟で話した。
「うん。そうなんだ♪ 今たいちゃんたちといっしょに帰るトコなの。――それよりゆりちゃん、どうしたの? 何か困りごと?」
「あ、うん、実はね? これを――」
「……ねぇ、甲呀?」
ひそひそ、と……ボクは小声で、〝何でも知ってる〟甲呀に聞いてみた。
「あの〝ゆりちゃん〟っていう人……〝保健の先生〟――っていうことでいいんだよね? 何であんなにお姉ちゃんと〝仲良さげ〟なの?」
べつに、〝お前の姉に限ったことではない〟ぞ? そう一言置いてから甲呀は続けた。
「師匠に〝ゆりちゃん〟と呼ばれている彼女の正式な名は、〝伊東 百合根〟。見て分かるように、〝保健医〟だ。――ちなみに〝百に合う根っこ〟と書く、百合根、という漢字を間違える者はほとんどいないが、逆に伊東の〝東〟の字を、〝藤〟という字と間違うものはかなり多くいるらしい……と、自分で言っておいてアレではあるが、そんなことはどうでもいいとして、本題の〝お前の姉に限ったことではない〟、というのはだな……実は、あの先生。美人で、おまけに童顔であるから、ということもそうだが、その柔らかな〝雰囲気と態度〟から、どんな口下手な人でも〝話しやすい〟ということで、年代問わず〝大人気〟なんだ。そのため、先生であるのにも関わらず、就任当初から、生徒たちからはまるで〝友だち〟であるかのように気軽に話しかけられている状態にあるんだ」
「なるほど……それで〝あの〟お姉ちゃんとも仲が良いわけね……うん、納得したよ。ありがと甲呀」
「べつに礼を言われるほどのことではない。――それより、〝あれ〟を見ろ」
「〝あれ〟?」
甲呀に促されて、ボクは改めてゆりちゃん先生の方を見てみると……ゆりちゃん先生は、お姉ちゃんを連れて保健室に入り、テーブルに山積みにされていた〝紙の束〟の前で、何やらお姉ちゃんに頼んでいる様子だった。
それから、数秒後。
何度かゆりちゃん先生の話に頷き、そして走ってボクたちの下へ戻ってきたお姉ちゃんが、その事情を説明した。
「――あのね、たいちゃん? あそこに置いてあるプリントとかを、三年生の多目的室まで運びたいらしいんだけど、ゆりちゃん一人じゃ何往復もしないと運びきれないらしいの。だから、たいちゃんさえよかったら……なんだけど、大変そうだし、手伝ってあげない?」
「え? ああ、なんだそんなこと? それならもちろんOKだよ! ……甲呀も手伝ってくれるよね?」
「無論だ。困っている人を見すごしたら日本人の〝恥〟になってしまうからな。喜んで手を貸そう」
決まりだね! ボクはそう頷いてからお姉ちゃんに聞いた。
「じゃあ、お姉ちゃん? ボクはどれを持てばいいの?」
「あ、うん! じゃあ……とりあえずこっちにきて! ゆりちゃんと話して決めるから!」
おっけ~! そう答えたボクは、すぐにお姉ちゃんの後に続いた。




