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4-4改




 ――社会科準備室。

 コンコン! ボクはその扉を力強くノックしてから、できるだけはっきりと元気よく、大きな声で先生を呼んだ。

 「失礼します! 一年の緒方です! 社会科の大林先生はいらっしゃいますか!」

 ――ちなみに他の学校がどうなっているのかは分からないけれど、この学校は、教務室、及び職員室等に用がある場合は、まず〝ノック〟し、それから〝自分の名を名乗り〟、そして簡単に用件または用がある〝先生の名前〟を言った後、先生が出てくるまで扉を開けずにその場で〝待機する〟……というのがルールだ。

 さらにちなみに、新規に発足する部活の顧問を勧誘する際は、〝部長と副部長〟……または、どうしても〝これない生徒を除き〟、その部活の〝部員全員〟で勧誘しなければならない、というルールもある。

 ……もっと簡単にすればいいのに、何でそんなめんどくさいことをするんだろうね?

 ――そんなことを思いながら待つことおよそ十秒……その扉からは、「は~い? 誰が用だって~?」……と、いかにもやる気のなさそうな、四十代の髭の濃い、痩せた男の先生が出てきた。

 たぶん、この人が大林先生なのだろう……とは、実はまだ、ボクは大林先生がどの人なのかも〝分かっていない〟状況なのだ。……何しろ入学してからまだ十日しか経ってないからね。

 ボクはお姉ちゃんとアイコンタクトを取り、この人が大林先生であることを確認してから話を切り出した。

 「――大林先生。ボクは一年の緒方 泰介といいます。実は折り入ってお願いしたいことがありまして――」

 ――その時だった。

 「――ひっ! お前らは〝緒方姉弟〟!!」

 突然、大林先生は悲鳴を上げたかと思ったら、ズザザー! と急いで部屋の中に戻り、一度思いっきり強く扉を閉め、そして再び……しかし、今度は〝ほんの少しだけ〟扉を開けて、まるで覗き込むかのようにして聞いてきた。

 「な……ななな! 何の用だ! お前たち! 僕は今〝お金〟なんて持ってないぞ……!!」

 ……どうやら、向こうはボクたちのことを知っていたようだ。……何か、色々〝誤解〟はあるみたいだけれど……まぁ、ともかくだ。

 この怖がりよう……たぶん、この先生はダメだろうな~……とは内心思いつつも、ボクは予定どおり、一応顧問への勧誘を開始した。

 「あの……実はボクたち、新しい部活を発足させたいと思ってまして……規定にある部員の人数自体はちゃんと集まったんですけど、顧問になってくれる先生が見つかってなくて……それで大林先生に……」

 「僕に顧問を〝やれ〟ということか!!?」

 「いや、〝やれ〟じゃなくて、できれば〝なってほしい〟な~……と思ってまして……」

 「断る! 僕はこれでも教師だぞ!? そんな、生徒の〝脅迫〟ごときでどうにかなると思ったら大間違いだ! ――帰れ! 僕はそんな部活の顧問になんか絶対ならないからな!!」

 ――ピシャン!

 扉は……これで何十度目だろう? 硬く、堅く、閉じられてしまった……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……まぁ、と口を開いた甲呀は、この何とも言えない空気を散らすように、いつものように、くい、と眼鏡を直してから話した。

 「あんな小心者の教師では、この先何か問題が起きた際、すぐに顧問をやめてしまいかねんからな……あのような〝雑魚〟のことはもう放っておいて、ここはさっさと次の教師を勧誘しに行こうではないか」

 「……そだね。じゃあ、次は家庭科副担当の岩田(いわた)先生の所に……」


 ――家庭科教務室。


 「――はい、岩田ですけど……っっ!? 〝へん〟っ……いえ! 一年の緒方くん!!? どどど、どうして私の所に!?!」

 ……今、絶対〝変態〟って言おうとしたよね? 仮にも教師という職業柄、何とかそれは呑み込んだみたいだけれど……まぁ、いいや。

 何だかこの女の先生も無理っぽいけど……一応、これも予定どおり勧誘しておくか……。

 そう思ったボクはさっそく、

 「あの、実は……かくかくしかじか……というわけなんですけど、できたら顧問に……」

 「無理です!!」

 ビシリ! 両手を突き出して、全力で岩田先生はそれを即、拒否した。

 「わ、私! そういうのってやったことがないし、それに〝へん〟――じゃない! 緒方くんみたいな〝もんだ〟……じゃなくって! えーと……と、とにかく無理です! とにかくごめんなさい! とにかくさようなら!!」

 ――ピシャン!

 ……とにかく、扉は全力で閉められてしまった。

 ……てゆーか岩田先生、今、絶対ボクのこと〝問題児〟って言おうとしたよね? ギリッギリ、で伏せてたみたいだけど、いいのそれ? というか教師としてどうなのそれ? とにかく泣いちゃうよ?

 「……とにかく、次へ行こうか?」

 「……とにかく、そだね」

 じゃあ、とにかく次は数学Bの鈴木(すずき)先生の所へ……


 ――数学準備室。


 「――はいはーい、いったい何の……って!! 緒方(姉)!?」

 ――ピシャン!

 一言も……しゃべることも許されず、扉は閉められてしまった。

 その上で、奥から怯えた声が聞こえてきた。

 『か、帰れ!! 俺はお前の〝弟〟になんか〝危害を加えたりしてない〟からな! 俺は何もやってない! 何もやってないんだぁぁぁッッ!!!』

 ……。

 ……。

 ……。

 「……ねぇ、お姉ちゃん? ボクが入学してくる前に、〝何か〟……した?」

 「え? ……ただ、ちょっとだけ、〝たいちゃんに手を出したら許さないぞ~〟! って、〝学校中に言って回った〟だけだけど……それがどうかした?」

 「……い、いや……何でも……ないよ…………」

 ……。

 「……次だな」

 「……うん」

 次は……物理の小池(こいけ)先生……。


 ――理科室B。


 「――はい、小池……って緒方!!? 以下略!」

 「はい、実は……以下略……ということでして……」

 「ふざけるな! 以下略! 誰がお前の部活になんか!!」

 ――ピシャン!

 以下略……。

 ……。

 「……以下略、だな」

 「……以下略、だね」

 次は……以下略……。


 ――以下略。


 以下、略。





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