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「もぐもぐもぐ……こうが~、やっぱりどの先生も話すら聞いてくれないよ~。……本当にこの部活、顧問の先生をゲットすることなんかできるの~?」
――四月十日、水曜日。昼休みの屋上。
顧問獲得のため、月曜日から数えてのこの三日間。休み時間の度にみんなで顧問の先生捜しに走っていたボクは……正直、この実になりそうもない行動に疑問を感じて、お昼ゴハンであるおにぎりを片手に、手すりに身体を預けたままそう甲呀に投げかけてみた。
すると……隣に座っていた甲呀からの回答は、予想外も予想外。とても〝シンプル〟なものだった。
――というのも、
「……さぁ、な?」
……さぁ……な……???
……。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!」
ボクは手すりから身体を起こし、黄河の方を振り向いて思いっきり叫んだ。
「さぁ、な??? さぁ、な、って……どういうこと甲呀!?! えっ!!? だってこの部活……部員が揃ってても、顧問の先生がいないと〝発足すらできない〟んでしょ!? どうすんのさ! さぁ、な? じゃ済まないよ!!?」
「……落ち着け。そしてメシを食いながらしゃべるな。米粒が飛ぶ」
「これのどこが落ち着いていられる状況なのさ!」
やれやれ……甲呀は一度ため息をつき、メガネを外して、そこに付いてしまったご飯粒をデコピンで弾きながら話した。
「……もう一度言うぞ? まずは落ち着け。そして今一度冷静になって考えてみろ。どんなに足掻こうとも、俺たちがこの学校の〝生徒〟である以上、よほどの〝コネ〟でもない限り話し合いによる〝勧誘〟でしか顧問を獲得することはできないんだ。――となれば、今行っている俺たちの行動は〝最善〟の行動であり、この方法以外、俺たち生徒に残された手段はない、ということなんだ。……分かるな?」
「う! それは……そうかもしれないけど……でもさ…………うぐぅ……」
……それ以上、言葉は出なかった。――当たり前だ。「でもさ? 他に何か方法があるかもしれないよ?」……なんて言ってみたところで、やはり現実は何も変わらない。甲呀の言うとおり、ボクたちに残された手段は〝勧誘〟以外に他はなかったのだ。
しかし……となれば、なおさら〝気になってくること〟がある。
ボクは不安に思いながらも、だけど、これだけは聞いておかなければならない……そう考えて、すぐに甲呀に聞いた。
「……ねぇ、甲呀? どうしても聞いておきたいんだけど……もし……もしも、だよ? この勧誘に〝失敗〟した場合、ボクらの部活はどうなっちゃうの? まさか〝諦める〟……とか言わないよね?」
「――いや、それは〝ない〟な」
スチャ……即答し、拭いてきれいにした眼鏡をかけ直した甲呀は、それからさらに言葉を続けた。
「……〝普通〟の人間にとってみれば、俺たちの部活は確かに〝いらないもの〟と思われてしまうかもしれない……だがな、俺たちにとってこの部活は、〝なくてはならないもの〟なのだ。――〝普通〟が何と言おうとも、俺たち〝変態〟と〝変人〟は、譬えどんなに〝汚い手〟を使おうとも、部活を発足させなければならん。……必ずな」
「甲呀……」
――分かったよ。
パシン、と一度、ボクは手すりを叩いてから話した。
「甲呀だって、ちゃんと色々考えてくれてるんだもんね。――だったら、ボクはもう何も聞かないよ……ボクは、ボクにできる〝最善〟を尽くす……それでいいんだね、甲呀!」
「ああ」――力強く、とまではいかなかったけれど、大きく頷いてから甲呀は答えた。
「何にしても、〝やらなければ始まるわけがない〟からな……頼んだぞ、泰介!」
「応ッッ!!!」
ボクはそうはっきりと答えてから、むしゃり! と残りのおにぎりに食らいついた。
――その時、気がついた。あのさ? と今度はちゃんとゴハンを飲み込んでから聞く。
「もぐもぐ……ごくん。――えっと、甲呀が言ってたその〝汚い手〟って……〝どんな手〟? 他に何か方法がある……って、ことなの???」
「……ん? 聞きたいのか? だったら、そうだな……〝胃薬〟か、〝吐き気止め〟を用意しておいた方がいいぞ? せっかく取った栄養が全て〝入れた所から体外に出て行って〟しまうかもしれんからな。……先ほど俺に飛ばした米粒の比ではあるまい」
「…………そっか☆ うん、やめとくよ♪」
それからボクは、何も考えずに、とにかく今のボクにできる〝最善〟を尽くすことにした。
……それが、〝平和〟に繋がると信じて…………。




