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 「――ねぇ? たいちゃんってば~?」

 ――と、先ほど呼んだのが聞こえてなかったとでも思ったのか、お姉ちゃんはそれからもう一度、しかし今度は一言ずつでも鳥肌が立ってきそうな、そんな〝妙に高い声〟で話しかけてきた。ボクはそれに慌てて答える。

 「……な、何? お姉ちゃん?」

 ボクが反応したのを確認して、くすくす、とお姉ちゃんは嬉しそうに笑った……けど、それでも〝殺気〟だけは、絶対に緩めることはなかった。

 お姉ちゃんは、そのままキスでもしてくるんじゃないかという至近距離で、限りなく優しそうな声で、ボクに聞いてきた。

 「……ねぇ? あのコたちって……たいちゃんの、〝何〟……?」

 「「……!!」」

 ビクン! 愛梨さんと鏡さんの身体が跳ね上がった。当り前だ。お姉ちゃんの〝殺気〟は、突然二人の方に向かって降り注いだのだから……。ちょっとでもオカシナ行動を取れば、たちまち二人の身体は、二度とは見れないモノへと変化させられてしまうことだろう。

 ボクは、そんなお姉ちゃんのことをなるべく刺激しないように、言葉を選んで慎重に話した。

 「や……やだな~、お姉ちゃん。あの二人はただの〝クラスメート〟だよ。今日はただ、新しい部活を作りたいってことでみんなここに集まってただけなんだ。だいたい、ボクがこの学校に入学してきてからまだ〝五日〟しか経ってないんだよ? 友だちとかそんなの、できるわけがないじゃないか!」

 「……ホント? ウソじゃ……ない? ただの……クラスメート……???」

 「ホントホント! ボクがお姉ちゃんに〝ウソをつくわけがない〟じゃないか! ――ボクが〝大好き〟なのは、〝お姉ちゃんだけ〟だよ!」

 「ふ~ん……」

 ……………………。

 ……数秒の沈黙。

 ――お姉ちゃんの〝答え〟は?

 「……ふふっ♪ そーなんだ~♪」

 んぱっ☆ と突然の〝満面の笑顔〟。

 二人、及び周囲に降り注いでいた重圧な〝殺気〟は瞬間消え去り、ようやく二人は解放された。

 ――だけど、〝危機〟は去ったわけではない。

 ボクはわざとお姉ちゃんごと身体を回転させて、お姉ちゃんの視界から二人を完全に外した。

 ……あとは、言葉巧みにお姉ちゃんの気をボクに集中させるようにするだけだ!

 ボクはそれから、これもわざとお姉ちゃんに()り寄り、お姉ちゃんが〝好きそうなセリフ〟を連発した。

 「あ~、お姉ちゃん〝いい匂い〟だな~! ふかふか、で〝気持ちいい〟し~、ボク、お姉ちゃんのこと〝大好き〟だから、もっと〝抱き締めてもらいたい〟な~!」

 ホント!? すぐに、お姉ちゃんは反応した。

 「お姉ちゃんも、たいちゃんのこと、だ~いすき~❤ ずぅ~っと、ぎゅっ! てしててあげるね~❤」

 ぎゅ~……お姉ちゃんは、自分の胸にボクの顔を激しく押しつけてきた。

 その瞬間を狙って、ボクはお姉ちゃんに見えないように、お姉ちゃんの背中に回した手で、二人に〝合図〟を送る。


 ここは ボクに まかせて! 二人は 逃げて!!


 ……通じたのか、通じていないのか、お姉ちゃんの胸の中では、その一切が分からない。

 しかし……ボクはそれが通じることだけを祈って、何度もその合図を二人に――

 「――なずな〝師匠〟。お久しぶりです」

 ――だけど、その時だった。甲呀が、余計にも脇から口を挟んできたのだ!

 それには当然、お姉ちゃんも……

 「――ん? ああ、甲呀くん~。久し振りだね~。たいちゃんと同じ学校にしたの?」

 しまった! 注意がボクからそれてしまった! ここは何としてでもボクに注意を引き戻さなければ!!

 そう思ってボクはお姉ちゃんの胸から顔を引き抜いた――が、しかし、その前に甲呀はお姉ちゃんの質問に答えていた。

 「ええ。俺は泰介のことをあなたと同様に〝師匠〟と崇めていますからね。決して友だちなんかではありませんが、師の姿を見習うのは、〝弟子〟の務めですから……あ、もう一度はっきり言いますが、決して泰介とは〝友だちなんかではありません〟ので」

 ……なんか、お姉ちゃんに殺されないようにするためとはいえ、そう何度も友だちじゃない、なんて言われると……結構傷つくな~……。

 ……じゃ! なくて!

 ボクはすぐに立ち直り、お姉ちゃんに向かって叫ぶように――

 ――あれ? でも、ちょっと待てよ?

 お姉ちゃんの注意を引こうと言葉を発しかけた、その瞬間だった。ボクは、今さらながらに〝そのこと〟に気がついた。

 ――そう。だいたいからにして甲呀はなぜ、ボクのスマホをピックポケット(※スリのこと。泰介はゲームでこの言葉を覚えた)までして、お姉ちゃんのことを呼んだのか? その疑問がまだ、解き明かされてはいなかったのである。

 ……そういえばボクたちは今、ここで〝何を〟しようとしていたんだっけ? 確か……そう、〝部活の話〟をしていて、それで発足には人数があと〝一人足りない〟ってい…う……。

 …………。

 ――まさか!!?

 ボクのその予感は、見事〝的中〟することとなってしまった。

 くい、とメガネを直した甲呀は、それからゆっくりと口を開いた。

 「――突然ですが、師匠。〝泰介のため〟に、ぜひとも我々の部活に〝入部〟してはいただけないでしょうか?」





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