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「な……なにぃぃぃぃっっっ!!!!!!???????」
驚愕の声を上げたのは鏡さんだった。
鏡さんは、わなわな、と震える手でボクにしがみつくお姉ちゃんを指差し、再び叫んだ。
「う……ウソだろ、おい! だってお前……何だその〝乳〟のデカさ!? それに〝ケツ〟! 愛梨よりスタイルいいじゃんか! そんな〝美人〟がお前の姉ちゃんだなんて……し、信じらんねー!!!」
「悪かったね、ボクが全体的にイマイチで!」
ボクは一応、そう文句は言ってみたものの……まぁ、確かに、ボクとお姉ちゃんを比較してしまうと、その差は〝歴然〟だった。
――お姉ちゃんの容姿。それは、身長も入れて上から順に、166、88(F)、57、83。……これだけでも相当なプロポーションの持ち主だということは分かってもらえるとは思うけど、さらに細かく語っていくと、
髪は超・さらっさら、な、腰まで伸びた黒のストレートロング。
眉と目、鼻や口などの位置はアイドル並みにバランスが取れていて、おまけに顔も小さい。
手脚は細く、しなやかで、特に脚は外国人のモデル並みに長いのが特徴だ。ちなみに、全体的に色白であるのもまた、お姉ちゃんの特徴である。
唯一ボクと似ているであろうと思われる点は、〝垂れ眼〟なところだけど……どうしてだろう? ボクの眼はどこか〝情けない〟気がするのに、お姉ちゃんの眼はとても〝優しそう〟な印象を受けてしまうのだ。……いったい、ボクはどこで間違ったんだろうね?
……おっと。そんな、今にもグラビアアイドル界にでもデビューしてしまいそうなお姉ちゃんの紹介もこの辺にしておいて……そんなことよりも、そろそろ、かな?
そう思ったボクは、ぎゅっ……と、お姉ちゃんを〝逃がさない〟ように、しっかりと抱き締めた。――といっても、べつにボクはお姉ちゃんに甘えたかったわけでは、もちろんない。
……では、なぜ抱きしめたのか? その理由は至極簡単だ。
――みんなが、〝殺されない〟ようにするためである。
「――ねぇ? たいちゃん?」
「「……ッッ!!!」」
ごごご、と突然、まるで〝津波〟のように押し寄せる、どんな鈍感な人にでも即座に感じられるであろう、〝殺気〟……。それがお姉ちゃんから放たれた、瞬間だった。それを普段から浴び慣れていたボクと甲呀を除く愛梨さんたち二人の身体は、完全に〝硬直〟することとなってしまった。
ゆらり……と漆黒のオーラを纏いながら、ボクの頬から離れ、顔を上げたお姉ちゃんの表情は、先ほどまでの蕩けきったダラシナイ表情とは一転。何を考えているのか? それすらも分からない。〝口だけ笑った〟不気味な笑顔に包まれていた。
……さて、なぜ突如お姉ちゃんはこんな変貌を遂げてしまったのか? その理由も、実は、解き明かせばものすごく〝単純明快〟なことなのである。
――お姉ちゃんが変貌した理由……それは、すでに小学校の頃から知っている、決してボクの友だちではない(とお姉ちゃんは認識している)甲呀以外の二人が、まるでボクの〝友だち〟のように見え、そしてさらには、その二人がどう見ても〝女の子〟だったからである。
……実は、お姉ちゃんは小さい頃から、ボクのことをまさに溺れるように溺愛していて、家族以外の〝全ての他人〟が、ボクと仲良くするのをひどく嫌っていたのだ。そして、大きくなってからはそれがほんの少しだけ緩んだものの、相変わらずボクに近づく見知らぬ者への警戒心は消えることがなく、特にそれが〝女の子〟だった場合……ボクを取られてしまうのではないか! という〝恐怖〟が、なぜかお姉ちゃんの中で生まれるらしく、その前に〝消して〟おこう。という傍迷惑な判断が自動的に下されることになったのだ。
――その結果が、現在。
自立心を育てなければ、将来何もできない大人になってしまう、と、教育テレビでやっていた言葉を真に受け、学校にこそ泣く泣く一人で通わせてくれるようにはなったものの、しかしそれでも相変わらずお姉ちゃんはボクの身のことだけを案じ、仲良くなった者がいようものならば即〝消し〟にかかる……ああ、ちなみに、ボクの〝みんなとは違う高校に行こう!!〟計画の際、そんなお姉ちゃんのこと利用し、それを怖がっていた学校中のみんなにお姉ちゃんがこの学校に受験しようとしていたことを知らせたのは、他でもないこの〝ボク自身〟だったりする。……もちろん、お姉ちゃんがそれを喜んで承諾してくれたということは、言うまでもないだろう。