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3-10改




 ――校庭。

 「――で、甲呀? 何でいきなり全員校庭に集合なの? 普通、部活発足届けを持って職員室、とかじゃない?」

 もう日が(かたむ)きつつあるそこで、ボクは甲呀にその疑問を投げかけてみると……甲呀の口からは予想外の答えが返ってきた。

 「ああ、本来なら俺もそうしたいところではあったんだがな……実はまだ、新規に部活動を発足させるための〝条件〟が〝満たせていない〟状況なんだ」

 「〝条件〟……? 何ですか、それ?」

 愛梨さんが聞くと、甲呀は、くい、とメガネを直して話した。

 「……条件、その一。部長、副部長を含む、部員の人数が〝五人〟以上であること。その二。活動目的が、〝学生の本分〟から外れていないこと。そして最後にその三。教師が一人以上、〝顧問(こもん)〟としてその部活を担当していること……以上がこの学校での、部活発足の条件だ」

 なるほど。ボクは、ぽん、と手を叩いた。

 「つまり、ボクたちにはまだ、条件その一の、〝部員の数が一人足りてない〟、ということと、そして条件その三の、〝顧問の先生がいない〟、っていう点が満たせていない状況なんだね! ……って! え!? それじゃあ部活が作れないじゃない! どうするのさ!?」

 「落ち着け。だから〝ここ〟にきたんだろうが」

 ぽい――とその時だった。甲呀がボクの方に向かって、何やら〝薄っぺらい物〟を投げてきた。

 ボクはそれを反射的にキャッチして確かめてみると……それは、〝ボクの〟スマホだった。しかもなぜだか画面には、L○NEのトーク画面が開かれていて――

 「……いや、てゆーか、何で甲呀がボクのスマホを持ってるのさ? しかも〝パスコード〟まで解除して……(うった)えてもいいかな?」

 「何を言う。俺はただ、お前が〝落とした〟のを拾ってやっただけだぞ。パスコードはその時〝偶然指で触った〟所が当たりだっただけだ」

 絶対ウソだ……ボクはそう確信を得ながらも、しかし言ったところで無駄なことは分かりきっていたため、それ以上甲呀のことは()めなかった。

 「――さて、そんなことよりも、だ。泰介……ちょっと、〝送信〟ボタンを押してみてくれるか?」

 「〝送信〟を? いいけど……何で?」

 「何でもだ」

 「……??? まぁ、いいけどさ?」

 ――ぽちっとな!

 わけも分からないまま、ボクはとりあえずノリだけでボタンを押してみると……ポ、とすぐさま文章は送信され、トーク画面に……緑色の背景に書かれた文章が浮かび上がった。

 ――そこに書かれていたのは、


 【お姉ちゃんへ。掃除当番ご苦労さま。校庭で待ってます。早くきてね❤】


 「……お姉ちゃん…………」

 ――〝お姉ちゃん〟!!!!??????

 「こここ…ここうこうこここ……!!!!!?????」

 甲呀! そう言いたいだけなのに、声が出せなかった。

 「ん? どうしたコケコッコー? そんなに姉に会えるのがうれしいのか?」

 「ち、ちがっ!! ちちちちち! ちがっ!!!!!」

 ――ダメだっ! 声が出ない!!!!!

 「――おい、んなことよりいいかげん帰らせてくれよ。あたし、早く帰ってみたいテレビがあんだよ。部活のことはまた来週になってからでいいじゃんか」

 「そう……だよね。もう時間も時間だし……泰介さん、太郎くん。続きはまた休み明けってことにしませんか?」

 そうじゃない!! そんなことを言っている〝場合じゃない〟んだ、みんな!! とにかく一刻も早くここから〝離れ〟て――

 ――しかし、そんなボクの(はかな)い願いは、次の瞬間。(ちり)と化すことになった。


 ――ザンッッッ!!!!!


 ――突然の、〝着地音〟。……それは、ボクから一番離れていた鏡さんの後ろの方から聞こえてきて、さらに、


 ――ダッダッダッダッ!!!


 全員がそちらを振り向こうとした、その刹那の〝ダッシュ音〟。

 音の主は、振り向く瞬間の鏡さんの脇をすり抜け、さらには振り向く初動にすら入っていなかった愛梨さんの真横を猛スピードで駆け抜け、最後に……〝ボクに向かって〟、飛び込んできた。


 「たーいちゃーーーーーんっっっ❤❤❤❤❤」


 がばぁっ!!!!! ――ドシーンッッ!!!

 ……もはや〝タックル〟である。その飛び込みに耐えられなかったボクの身体は、そのまま地面に押し倒されて、〝捕獲〟されてしまった。

 そこで、ようやく声が上がる。

 「――た、泰介さん!? 大丈夫ですか!?」

 「ひ、人が飛び込んだ……だと!!? しかも、お、〝女〟!!??? ――お、おい!! その女、いったい……!!!」

 「……あー…………」

 もう〝きた〟か。仕方ない……。

 そう、色んなことを諦めたボクは、この、抱きついたまま頬を、すりすり、して離れないでいる、女子制服姿の物体をそのままに、ようやくの思いで立ち上がり、紹介した。


 「――えー、じゃあ、紹介します。この人の名前は、緒方 なずな。この学校に通う二年生で、ボクの……〝お姉ちゃん〟…です。はい……」






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