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3-8改




 「………………へ、へー……そうなんだー……」

 ……うん、いや、まぁ……〝変装〟といい、〝壁に張り付いてのお昼〟といい、何となくだけど〝忍者〟かなぁ~? とは常々思っていたんだけど、やっぱりそうだったのか……甲呀が傷つくと悪いから、何も言わないけど……。

 「「……」」

 ……どうやら、愛梨さんたちもそのことを察してくれたらしい。引きつった表情はもうどうしようもなかったけれど、とにかく何も言わなかった。

 「ふ……まぁ、驚くのも無理はないさ」

 ……それを何か勘違いしたのか、甲呀は手裏剣を懐にしまってから、また天井を見つめて話し始めた。

 「……俺の里では少し前から、現代には現代の〝忍び〟として、人々の中に交わりながら生きて行った方が良いではないのか? いいや。伝統を守り、昔と同じようにこれからも人里からは離れ、忍んで生きて行くべきだ。……という口論が、毎日毎日、昼も夜も関係なく繰り返されていたんだ。――〝実験台〟とはつまり、その口論の〝答え探し〟……。俺は頭領の息子であり、次期頭領が確定していたということからそれに選ばれ、〝里のこれから〟を……その〝全て〟を決めるために、独り人里に下り、小学校に入学したんだ」

 ……よし、他人様の家庭の事情だ。ここからはツッコミは一切〝NG〟という方向でいこう!

 ボクはそう決意し、口を固く閉じた。

 甲呀は、そんなボクの心の苦労も知らず、ただ黙々と九年前の話を続けた。

 「――だが、小学校に入学したまでは良かったんだが、〝問題〟はそれからだった。……何せ、俺はほとんど、〝里にいた人間〟としか話したことがなかったからな。通俗的に言えば、俺は所謂〝人見知り〟だったんだ。……まぁ、俺もまだ子どもだったからな。仕方がないこととはいえ、任務であるのにも関わらず、周りにいる誰とも触れ合うことができなかった俺を、当然里は、良くは思わなかった……。そして、遂には〝諦め〟、俺を強制的に里に戻そうとした、その時だ。〝奇跡〟が起きたんだ」

 「……〝奇跡〟?」

 愛梨さんが聞いた。「ああ!」と甲呀はそれに珍しく興奮気味に答える。

 「そう、〝奇跡〟だ! ……戻されることになった当日。俺はいつものように、クラスの隅の方で独り、誰に気にされることもなくただ膝を抱えて丸くなっていたんだが……そこに、なんと手を〝差し伸べて〟きたやつがいたんだ」

 「……それって、まさか……」

 今度は鏡さんが聞く。甲呀はそれにただ黙って頷き、そして〝ボク〟のことを指差し……

 ……え?

 ――甲呀は、それから〝衝撃の事実〟をボクに告げた。


 「――お前だよ、泰介……根暗少年だった俺に、〝初めて手を差し伸べて〟きたのは……!」


 ワオ! と自分でもびっくりだ。甲呀とは昔からの友だちだとは認識していたけれど、まさかそんなに昔から知り合っていただなんて……ぜんっぜん〝記憶にはない〟けどね!

 くい、とそれから甲呀は指を戻し、メガネを直しながらさらに話を続ける。

 「……俺はその時、ものすごく〝うれしかった〟んだ……周りにいる子どもたちとただ触れ合うだけ、という極簡単な任務にも失敗し、里への強制送還という最も無様(ぶざま)醜態(しゅうたい)をさらしていた俺の前に、まるでそんな俺を〝救い出して〟くれるかのように、満面の笑顔で『あそぼうよ!』と手を伸ばしてくれた泰介のことは……まさに〝神〟であるかのようにさえ思えてしまったんだ」

 「……甲呀」

 ……へっ! ボクはテレ隠しに笑った。

 まさか甲呀がそこまでボクのことを良く思っていてくれただなんて……うれしすぎて涙が出てきちゃうよ!

 ボクは、ほろり、と流れ出た涙を指で弾いてから、再び甲呀の方を見た。

 ――だけど……そこにいた甲呀の姿は、とても感動的な話をした後の姿ではなかった。

 甲呀は暗く、俯いたまま、今度は呟くような声で話した。

 「……〝うれしかった〟。本当に〝うれしかった〟……しかし、それでもなぜか、当時の俺は……そんな泰介の誘いを、〝断って〟しまったんだ」

 「え……〝断っちゃった〟ん……ですか?」

 「……ああ。理由は俺にも分からん。だが、その時確かに俺は、〝断って〟しまったんだ」

 「……で…で? その後、どうなったんだよ?」

 「……当然、残念そうに泰介は〝去って行った〟さ」

 なにぃ!? どうしてだ、昔のボク! そこは意地でも甲呀の手を引っ張って遊びに連れ出すべきだろ!!

 とっくにすぎてしまったことの(ゆえ)に、今さらどうすることもできなかったけれど、ボクは心の中で、そんなバカ丸出しの昔のボク自身を(しか)った。

 「だが」と、甲呀の話はまだ終わってはいなかった。――そりゃそうだ。なら、何で今ここに甲呀がいるんだ、という話になってくる。

 ボクは一刻も早くその続きが聞きたい一心で、甲呀のことを、じっ、と見つめた。

 ――甲呀は、それに答えるようにすぐに続きを話した。

 「俺が断った、その〝すぐ後〟のことだ。……残念そうに去って行く泰介の後ろ姿を見て、俺は〝あること〟に気がついたんだ」

 「……え? ボクの後ろ姿? 〝あること〟って……???」

 それは――甲呀は、それから高々と言い放った。


 「――〝ふるちん〟だったんだ。その時の泰介はな……!!」






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