3-7改
……愛梨さん…………。
「……決まりだな。さて、あとは残りの部員だが……泰介。お前は当然、〝入る〟よな?」
……ふっ。
ボクは鏡さんの後ろで、やれやれ、と大きく腕を横に開いて、甲呀の質問に答えた。
「愚問、ってやつだよ甲呀。そんな素晴らしい話を聞かされた後じゃあ、まさか入らない、何てこと、この〝変態〟の化身であるボクが言えるわけがないじゃないか。――その部活に、ボクの〝魂〟をかけよう!」
「グッド! そうこなくてはな」
すすすぅー、と流れるように愛梨さんたちの横に移動したボクたちは、それから、がっちり、と固い握手を交わした。
――そして、同時に鏡さんのことを見る。もちろんそこには愛梨さんの、きらきら、とした視線も含まれていたということは、言うまでもないだろう。
……鏡さんの返事は?
「う…………あー、もう! 分かったよ! 入ればいいんだろ! 入れば!」
やったー! と瞬間。ボクと愛梨さんは両手を振り上げた。それを見て鏡さんは面倒くさそうに、また、テレを隠すためか、わしわし、と頭を盛大にかきむしってした。
……なぜだろう? まだ何もしていない……それこそ、部活がまだ結成されたわけでもないのに、ただ人数が集まっただけでこんなにも〝うれしく〟思ってしまう……本当にホント、人間って不思議だよね!
「よし! そうと決まったら善は急げ、だよ甲呀! さっそく先生に言って――」
「――ちょっと待った!」
――しかし、その時だった。
入部する。そのことに〝納得した〟はずの鏡さんが、声を上げたのだ。
「……どうしたの、桜花?」
愛梨さんが聞くと、くい、と鏡さんは甲呀と同じように、しかし人差し指でメガネを直しながら話し始めた。
「……愛梨。あたしはな、お前が〝変わりたい〟と言ったから、それを〝手伝う〟ために部活に入ってやることにしたんだ。……しかし、どうだ? お前、〝変〟だとは思わないか?」
「〝へん〟? 〝変〟って……えーと…………何が???」
「〝そいつ〟のことさ!」
ビシリ! また鏡さんは、甲呀のことを指差して言い放った。
「どうにもこうにも胡散臭ぇ! だって、〝聞いた〟だろ? こいつは会う前からあたしたちのことを〝知ってた〟んだぞ? それもやたら〝詳しく〟な! ――変だとは思わねぇか!?」
「え……いや、でもそれは泰介さんが太郎くんに話して――」
「お前の〝秘密〟もか!? 〝変態〟は〝変態〟だが、腕を折られそうになっても……いや、実際あのままへし折っていたとしても、〝変態〟はお前の〝秘密〟はしゃべらなかったはずだ! そんなやつが易々とお前のことを〝話すわけがない〟! それに、こいつはあたしがいつも師匠に言われてるセリフまで言い当てた! それは〝変態〟も知らないことのはず……! となればもう、あとは一つしか考えられねーんだよ! ――裏で、こそこそ、あたしや愛梨のことを〝調べ回っていた〟! 理由までは分かんねーが、それが答えだ!!」
「……!!」
……愛梨さんは、何も答えることができなかった。……そして、それをどうにかしてかばおうとしたボクも、言葉に詰まってしまう。
「――さぁ! 答えてもらおうか、太郎! なぜお前は愛梨のことを……あたしたちのことを調べていたんだ! そして、その部活の、〝本当の目的〟は何だ!! ……答え次第じゃ、あたしと愛梨は入部を取り下げるからな!!」
「…………」
……………………甲呀は、何も答えなかった。
「ふんっ! やっぱり言えねーのかよ!」
それを確認した鏡さんは、「帰るぞ、愛梨!」と大声で言い放ち、愛梨さんの手を引いて席を立っ――
「――俺のことを……」
――その時だった。
甲呀が、ゆっくりと〝話し始めた〟のだ。――鏡さんたちはそれに気づき、足を止めて無言で振り向く。
そして――
「……俺のことを誰かに話すのは……これが〝初めて〟かもしれんな。――泰介にすら、このことは一度も話していないのだから……」
……ボクにも、話していないこと……???
「え……? 甲呀? それって、どういう――」
「――九年前のことだ」
甲呀は何もない天井を……いや、〝九年前〟と言ったのだ。その当時のことを天井に映し出し、甲呀は記憶の中にあった〝それ〟を語り始めた。
「当時、俺は……昔とは様変わりしてしまったこの現代で生き抜くためにと、〝実験台〟として独り、泰介が通っていた小学校に通わせられていた」
「……実験? ボクの通ってた小学校に? いったい何の……???」
「〝忍び〟……つまりは、〝忍者〟としてのさ」
す……と、甲呀は懐から……時代劇でよく見るような、何やら変な模様付きの〝手裏剣〟を取り出し、それをボクたちに見せながら続けた。
「これは俺が〝次期頭領〟となる、その〝証〟……アイリサンや鏡はもちろんのこと、泰介すらもが今まで〝思いもよらなかった〟ことではあるとは思うんだが……実は俺は〝忍者〟なんだ。――正式な名前は、忍びの里〝忍野〟。第十七代頭領・忍野 甲呀……お役人御用達の〝影〟に生きる者さ」