3-6改
天井からの突然の声――この声は、まさかッッ!?
「甲呀――!!」
すたんっ! ボクが叫ぶのとほぼ同時に、天井から甲呀が降ってきた。
いったいいつからいたのだろう? とか、何で誰にも気づかれないの? とか、そんな些細なことはこの際どうでもいい!
ボクはただ、救世主が現れた……そのことに心から安堵した。
――だけど、鏡さんはそうはいかなかったらしい。ビシリ! と甲呀を指差して叫んだ。
「だ、誰だてめぇ! いったいどこから現れやがった!」
「……ふっ、天井さ」
そんなことは分かってんだよ! ――鏡さんに怒鳴られつつも、それを全く気にも止めない様子で愛梨さんの方に近づいた甲呀は、それを見上げて、ぽかーん、としてしまっている愛梨さんのことを見つめながら話した。
「初めましてだな、アイリサン。俺は1―4―38番、〝忍〟ぶ〝野〟原に甲羅の〝甲〟。そして口付きの〝呀〟で、忍野 甲呀だ。泰介とは小学校時代からのクラスメート兼知り合いで、わけあって今は〝山田 太郎〟と名乗っている。だから俺のことは気軽に〝太郎くん〟と呼んでくれ」
「……はぁ? 太郎くんですか……よろしくお願いしま――」
「おいおいおい!! ちょっと待てコラ!!」
す、が待てなかったのだろう。鏡さんは今度こそ無視されまいと、甲呀の前におどり出て怒声たっぷりに叫んだ。
「浦島太郎だか桃太郎だか金太郎だかとにかく何だか知らねーが! おいてめぇ! お前今、この〝変態〟の知り合いつったか!? じゃあ信用ならん! とっとと消えろ!」
……ナニソレ? ボクの知り合いってだけでそんな反応なの? ヒドクナイ?
「まぁ、落ち着け鏡。いつも師匠に言われているだろ? 『心を常に冷静に保て』……と」
くい、とそれでもいつものマイペースは揺るがない。甲呀はメガネを直したかと思うと、いつの間にか鏡さんの〝真後ろ〟へとワープし、また愛梨さんのことを見つめて話し始めた。
「……俺は何も、お前らを落としめにきたわけじゃない。というよりもむしろ、〝助け〟にきたんだ」
てめ、いつの間に……!! そう呟き、鏡さんが振り返った、
――その瞬間だった。
「――俺と共に、〝部活〟を作らないか?」
唐突に、甲呀はそんなことを言い出したのだ。
それには当然、鏡さんが、
「……はぁっ!? おま……いきなり何言ってやがんだてめぇ!? ぶっとばされてぇのか!?」
……もはや不良まっしぐらなセリフだ。
甲呀は、そんな不良一歩手前の鏡さんに背を向けたまま、またもそれを気にすることなく、真っ直ぐに愛梨さんを〝勧誘〟しにかかった。
「……アイリサン。どうだ? お前、鏡にあんなことを言われて〝悔しく〟はないのか? お前の〝全てを否定〟されたんだぞ? それも、たかだが〝露出癖〟があるというだけで」
「いや! 愛梨〝の〟ことは否定してねーよ!」
いやいや! それならボクのことも否定しないでよ!
そう、ボクは甲呀の後ろで叫ぶ鏡さんの後ろで、心の中で叫んだ。……ヤヤコシクなるから、しばらく黙っていよう。
「私は……」
――と、その時だった。
甲呀の言葉を聞いて少し悩んだような表情をしていた愛梨さんが、ゆっくりと口を開いたのだ。
「……私は……〝悔しい〟…です。――たとえ、桜花や、泰介さんが私のことを〝変態〟じゃないって言ってくれたとしても……それでも、やっぱり私自身は、〝そうだと思って〟しまうから……だから……っっ!」
「っ! ……愛梨…………」
………………。
……鏡さんは数秒の沈黙の後、一転。今度は落ち着いた様子で甲呀の後ろ姿に話しかけた。
「……おい、太郎。話せ。お前、いったい〝どんな部活〟を作ろうってんだ?」
ふん……甲呀も、それにはちゃんと鏡さんの方を向いて答えた。
「――ズバリ、〝変態〟という人生から、〝変態〟を迎えるためにできることを探す……そんな〝部活〟を作りたいと考えている」
「〝変態〟からの……〝変態〟……ああ、生物が〝変態〟して〝別の姿形〟になる、あの〝変態〟ことですか? ――つまり、私たちの中にある〝変態性〟……それを〝取り除いて〟、普通の人になるために〝考え〟、〝努力〟をする……そんな〝部活〟にするってことですね!」
「そのとおりだ」
甲呀は頷いてから、再び愛梨さんの方を向く。
「部活名、その名も――〝変態を迎える人生〟部。――バカにされ続けてきた人生を見返すための、俺たちのためだけの部活だ……!」
「……!!」
……。
……。
……。
……長い沈黙。
だけど、それを破ったのは他でもない。〝愛梨さん自身〟だった。
「――やります……私、その部活に〝入部〟します! 私は……自分の人生を〝造り直し〟たいですっっ!!」