3-5改
――放課後。すでにほとんどの人が帰った後の教室。
「……………………あ……あの、あのあの……その……だ! だいじょうぶですよ! だって……ほら! みんな〝変態は〟って言っただけで、誰も〝泰介さんのことを〟お断り、なんて言ってないじゃないですか! きっと他の誰かのことですよ!」
「……どうぶ」
「……え?」
あの、今何て……? と、愛梨さんが机に突っ伏していたボクの肩に手を触れた、その瞬間。ボクは、〝変態=ボク〟であるという、逃れられない〝証拠〟を彼女に話した。
「……剣道部と、手芸部と、あと卓球部は……ボクの〝実名〟を出して拒否してたよ? しかも、〝クラスと番号〟まで出して……」
「………………だ…………だい、じょうぶ……ですよ……その、ほら……ええと…………」
………………。
愛梨さんはそれから、言葉に詰まってしまった。……でも、ありがとう。おかげで心なしか気が楽になった気がするよ。キミはなんて優しい娘なんだ。
「――ふんっ! ただ単に、〝変態〟が〝変態〟だから悪いだけじゃんか!」
と、そんな愛梨さんとはまるで対照的な言葉と態度でボクを攻め立ててきたのは、言わなくても甲呀以外でボクの知り合いはもう一人しかいないから、分かるとは思うけど……一応言うと、鏡さんだった。
がたっ。という音……顔を上げて見てみると、ボクたちの席からはかなり離れた所にある席に座っていた鏡さんは、カバンを持ってその席から立ち上がり、ずかずか、とボクたちの席の方に歩み寄ってきた。――その上で続ける。
「……いいか、〝変態〟? 〝変態〟っていうのはな、どう考えても〝マイナス〟のイメージしかねーんだよ。いや、つーかもう〝存在自体がマイナス〟だ。つまり、〝プラス〟を目指す部活動にとってお前ほど〝邪魔〟な存在はねーってことなんだ。だから、もう諦めろ。何もかも諦めろ。そして黙って死ね」
鏡さんはそれから、もう何も言わなかった。――どうやら言っても時間の無駄だと思ったらしい。呆れきった表情をしていた。……でも、ありがとう。おかげでなぜだか愛梨さんの時以上に〝心が軽く〟なったよ。はっきりとモノを言われた方がむしろ気が楽になるなんて……人間って、本当に不思議だね?
「さて、んじゃ言いたいことも言ったことだし、そろそろ帰――って! 愛梨!? どうしたお前!??」
と、突然、鏡さんが悲鳴にも似た叫び声を上げた。
いったい、愛梨さんがどうしたのだろう?
気になったボクはすぐに愛梨さんの方を見てみると…………なるほど。その理由がすぐに分かった。
そこには、ずーん……という、謎の効果音に今にも押し潰されそうになっている、いつの間にか自分の席に座って突っ伏してしまっていた、愛梨さんの〝悲しげな姿〟があったのだ。
愛梨さんはそんな状態の中、まるで消え入りそうな声で話した。
「……そうだよね……〝変態〟なんかいても〝邪魔〟なだけだよね……じゃあ〝変態の私〟も、さっさと〝この世から消えてなくなった〟方が……〝みんなのためになる〟って、ことだよね? えへ、えへへ、えへへへへへへ…………」
「う、うわーっ! 違うんだよ愛梨!! あたしが言ったのはその……お、おい〝変態〟! お前のせいだぞ! 何とかしろ!!」
「わっつ!?」
これ、ボクのせいなんですか!?
がたたんっ! 椅子を転ばせながらも立ち上がったボクは、とにかく急いで灰色の脳みそをフル回転させたけど……ちぃ! 突然ボクのせいにされたせいで回転が追いつかない……どころか、逆に〝減速〟しだしたぞ!? どうすればいいんだ、これ!?
わたわた、ともうどうすることもできない。ボクと鏡さんは愛梨さんを挟んで、おろおろ、となぜだか周りをいっしょになって回ってしまった。
――そして遂には一周して一列に並んだ……その時だった。
「――どうやら、ここは俺の出番のようだな、泰介……!!」