2-16改 二話目終わり。
もう、痛すぎて何も感じない……ボクはただ、涙で歪む視界の中、その変な方向に捻じり曲がって〝いない〟腕を見つめ……
「――えっ!?」
思わず、声を上げてしまった。
曲がって〝いない〟……そう、ボクの腕は、変な所で捻じり曲がったりなんかせずに、ちゃんと〝真っ直ぐ〟なままだったのだ!
どう……いう、こと……???
気になったボクは起き上がり、後ろを振り返ってみると……そこには、やれやれ、といった具合に腕を横に広げた、鏡さんの姿があった。
鏡さんはそれから大きく一度ため息をつき、三度頭をかきながら話した。
「……わーったよ、ったく! あたしの〝負け〟だよ、〝負け〟! もう知らねーから好きにしろ!」
「え……あの、えっと……???」
困惑するボクを余所に、ほっ、とため息を一つ……愛梨さんが、この現状の説明をしてくれた。
「よかった……あのね、泰介さん? 実は桜花は……私の〝秘密〟を、もう〝知っている〟んですよ。――知ってて、泰介さんがしゃべってしまわないか、〝試した〟んです」
ええっ!? ボクはその衝撃の事実に、またもや声を上げてしまった。
「じゃ、じゃあ、最初から――」
いいや、それは違う。と今度は鏡さんが話した。
「愛梨がここにきたのは本当に〝偶然〟だし、こういう話の流れになったのも〝偶然〟だ。だからあたしがお前のことを試したのも〝偶然〟だし……ま、お前が〝話さなかった〟のは、〝偶然〟じゃないといいんだが……な?」
「は、ははは……」
……はぁ~…………何だか、緊張してたせいか、一気に疲れがきてしまった。
そのせいで、ぱたん、とボクが後ろに倒れると、「泰介さん!?」とそれを心配した愛梨さんが脇に駆け寄ってきて、ボクのことを支え起こしてくれた。
ボクは……せっかくのチャンスだ。ついでに、というわけじゃないけれど、〝もう一つの〟目的を果たすことにした。ゆっくりと、口を開く。
「あいり、さん……今朝は……本当に、ごめんね……? ボク……」
「……いいんですよ、そんなこと……私、全然気にしてませんから」
「……そう……よか、った……」
ふふふ。――確認し合ったボクたちは、それから、静かに笑った。
「――おい、〝変態〟」
と、その時だった。――すでに公園から出ていた鏡さんが肩越しに話しかけてきたのだ。
「あたしは好きにしろ、とは言ったが、〝許す〟、とは一言も言ってないからな? あたしに許してほしかったら、そうだな……この先に〝ウマイ店〟があるんだ。そこで〝愛梨の分〟も含めて、お前に全額おごってもらおうか? ……構わねーよな?」
「……だ、そうですよ? どうします、泰介さん?」
「……はは、分かったよ……ただしボク、今三千円しか、持ってないからね? それ以上は、勘弁してよね……?」
「そんだけありゃあ上等だ。ただし、お前は水だけな! その分あたしと愛梨が食うから!」
よっこいしょ……ボクを立ち上がらせてくれた愛梨さんは、それから「水だけはさすがにヒドイよ~。せめてドリンクバーくらいはつけてあげようよ~」と鏡さんに抗議してくれていた。
……何にしても、だ……これで、ようやくボクは〝明日〟に向かって生きて行ける、というわけか……やれやれ、まったく……こんなにも一日が長く感じたのは、生まれて初めてだよ。
でも……今日は何だか、すっごい〝幸せな気分〟だな……。
そんなことを思いながらも、ボクは愛梨さんに支えられながら、鏡さんの後を――
「――あ、そうだ……愛梨さん?」
と、ふと、思い出したボクは、愛梨さんに話しかけた。
「ん? どうしたんですか?」
いや、実はね……ボクは、限りなく優しく微笑みかけてくれた愛梨さんに向かって、ポケットから〝ある物〟を取り出し、愛梨さんに渡した。
――その、〝ある物〟とは……
「――え? 何ですか、この〝きれいにラッピングされた物〟……え? もしかして……!!」
「……うん。〝プレゼント〟だよ」
ボクはそう言ってから続けた。
「……愛梨さんにも、ボクはすっごく迷惑をかけちゃったからね。……そのお返しに、と思って……まぁ、鏡さん〝は〟気に入らなかったみたいだけど、きっと、愛梨さんなら気に入ってくれる――」
はず――そう、言いかけた、その瞬間だった。
ごごご、と突然の〝殺気〟……ボクの目の前には、再び……いや、三…四度目の、〝鬼〟モードに入った鏡さんの姿が…………。
……え?
「てぇぇぇ……めぇええ……!!! やっぱり全身の骨ブチ折ってやるッッ!!!!!」
「え? え??? 何で――どはあぁっっッッッ!!!!!??????????」
――その後、ボクの行方を知る者は、誰もいなかった……。