2-14改
……ど…きゃ……あ???
いったい何の効果音だろう? 気になってボクは鏡さんの手……渡したプレゼントを見てみると、そこには原型を留めていない、無残にも握り潰されたプレゼントの箱が――
……え?
「……てぇぇめえぇぇぇ!! 〝これ〟はいったいどういうつもりだ……ああっッ!!?」
ベシィッッ!! と〝これ〟が地面に叩きつけられたのとほぼ同時に、ボクは座ったままの姿勢にして次の瞬間、思いっきり飛び跳ねてしまった。……当り前だ。包装紙を開いた直後の鏡さんが放つ〝殺気〟……それは今朝、ボクが鏡さんの親友である愛梨さんに粗相をしてしまった時を〝遥かに超える〟ほどのモノだったのだから……!!
「ちょちょちょ!!? 待ってよ!? いったいどうしたのさ!? そんなに〝これ〟が気に入らなかったの!!???」
ボクは正座の姿勢のまま、急いで地面から〝これ〟を拾い上げ、再び鏡さんの方を見る。
――が、しかし、その〝殺気〟はやはり気のせいではなかったらしく、ごごご、と今にも地鳴りでもしてきそうな高圧のエネルギーの中、鏡さんはさらに数歩ボクの方に近づいてきて怒鳴り声を上げた。
「……気に入るとか、気に入らないとか……そんな問題じゃねぇ! 何なんだ! 〝それ〟は!!!」
ひぃ! 小さな叫び声を上げながらも、急いでボクはその問いに答えた。
「な、何って……〝(セクシーな)パンツ〟だよ! 鏡さんってどんな物が喜ぶかな~…ってデパート内を散策してたら、たまたまこれを見つけて……ホントは〝ブラジャー〟もいっしょに買おうと思ったんだけど、サイズが分からなかったから、とりあえず〝(セクシーな)パンツ〟だけ買ってサッカーボールキッ――」
くばあああぁぁっッッ!!!???
突然、ボクは鏡さんに、握り締められた〝(セクシーな)パンツ〟入りの箱ごと、顔面をまるでサッカーボールのように容赦なく蹴り抜かれた。
ぴゅうううぅぅぅ…ずばっ! ずばっ! ズザザー!!
――と、まるで水面に小石を投げてバウンドさせるが如く、地面をバウンドして公園の入り口まで吹っ飛ばされたボクは、しかしそれでも気絶することなく……否! わざと気絶させられなかったのだ!
これから、〝トドメ〟をさされるために……!!
「は……はなじを……はなじをぎいで……!!」
「あ? 鼻血だと? 鼻血ならもう出てんじゃねーか。滝のように」
「ぢ、ぢがっ…そうじゃ、なぐで……!!」
バタバタ、ともう鼻から血が止まらない。だけどそれでも必死に手を伸ばし、ボクは鏡さんと会話を試みようとがんばったけれど……しかし、それも無駄な努力というやつだった。
――ザンッッ!!!
倒れるボクの目の前まで歩いてきて脚を止めた鏡さんは、次に、かっはぁ~……と、まるで口から炎でも吹きそうな勢いで右手を握り締め、それを思いっきり振りかぶった。
そして、
「……〝最後〟に、言い残すことはあるか?」
「……!!」
……か、考えろ、ボク!! どうにかしてこの〝現状を打破〟する、そのセリフを!!
……!
……!!
……!!!
……~~~ッッ!!!!!
「……ないようだな? ――それじゃあ、あばよ、〝変態〟!!」
「ま――!!」
「――まってえええぇぇぇぇぇっっ!!!!!」
――その時だった。
救いの手が……〝女神〟が、ボクの目の前に舞い降りた。
「――〝あいいひゃん〟!?」「――〝愛梨〟!!?」
ビタアァッ!! ――両手を大きく広げてボクの前に立つ愛梨さんの姿に気づき、寸での所で拳を止めた鏡さんは、慌てて拳を引っこめ、続けて叫んだ。
「おまっ……何でこんなところに!? 先に帰ったはずじゃ……!?」
「お昼休みから何だか桜花の様子が変だったから、帰ったフリをして後ろからつ尾行し(つけ)てきたの!! そうしたらこんな状況に出くわして……それで……!!」
――くそっ!! 鏡さんは叫び、そして腕を横に大きく振った。
「そこを退け、愛梨!! そんな〝変態〟……このあたしが、愛梨に近づく前にぶっとばしてやる!!」
「だから待ってってば! この人は……確かに〝変態〟かもしれないけど、でもそれはわざとやってるわけじゃないの! 全部桜花の〝誤解〟なんだよ!!」
「はぁ!? あたしが何を〝誤解〟してるって!? 〝誤解〟してるのは愛梨の方だろ! そいつは紛れもないただの〝変態〟だ! それなのになぜ止める!? 昨日、お前らの間に何があったのかは知らねーが、さっさと目を覚ませ、愛梨!! そしてそこを退け!!」
「退かない!! 絶対に、退かない!!」
「何でだよっ!!?」
困惑し、さらには気が逆立っている鏡さんを前に一歩も引かない愛梨さん。
……しかし、このままではいつまで経っても状況は好転しない――愛梨さんもそのことが分かっていたのだろう。
次の瞬間、愛梨さんは一瞬、肩越しに首だけ振り向いてボクのことを見たかと思うと、何かを思いついたのか前に向き直り、こくん、と一度頷いてから口を開いた。
――だけど、そこから発せられた〝言葉〟とは……
「――この人は……泰介さんは、私の〝秘密〟を知っているの!!」