2-10改
――〝プレゼント〟?
「〝プレゼント〟っていうと……あの?」
他にどれがある、と甲呀はまた、くい、とメガネを直した。
「……〝誕生日が近い〟、というのも理由の一つだが、太古の昔より、女性に限らず、相手の機嫌を取るには〝贈り物〟が最も効果的だとされている。――考えてもみろ。お前、プレゼントを貰って何か嫌な思いをしたことがあるか?」
「……あるよ。あれは……そう。小学校五年生の頃だっ――」
「――すまん。俺の言い方が悪かった。例えば……そう。日用品のタオルセットとかだ。べつにタオルを貰ったくらいではうれしくはないが、決して〝悪い気はしない〟だろう? タオルは日常のあらゆるところで使える優れモノだからな」
なるほど、確かに……ボクは納得して頷いた。
「タオルはなかったら困るけど、あってもべつに困らないもんね。――とはいえ、鏡さんはボクに対してあんなにも〝警戒心〟を抱いているからなー……まさかタオル程度で機嫌を直してくれるわけがないし……となると、もっと〝貰ってうれしい〟ような物をあげなきゃならない、ってことになるよね?」
「そういうことになるな。――ただし、〝食べ物などは要注意〟だ。特に甘いだとか、辛いだとか、そういう味に〝偏り〟があるものはできるだけ選ばない方がいいだろう。何しろ味覚は人それぞれだ。せっかくプレゼントを献上しても、嫌い、または苦手な物を贈っては、喜びはタオル以下にしかなり得んからな……というより、むしろお前の場合即〝キレられる〟かも分からん。……まぁ、何をプレゼントするのかはお前に全てまかせるが、とにかく、だ。できるだけ〝万人ウケする〟ような物を選んで買ってくるといい。俺は、その間やつの動向を見張り、随時お前に連絡するとしよう」
「分かった! ……って、え? 何? 今から買ってくるの? もう五限だよ?」
当然だ。甲呀はそう言いきってから話した。
「――避けられない理由があるとはいえ、何しろ今のお前は、本来の学生の仕事でもある、〝学業〟を疎かにしている状態にあるんだからな。……しかも、どうせ帰ったところでお前は〝姉の世話〟しかやることがないんだろ? だったら、余った時間は有効に使った方がより良い〝変態人生〟を送れるというのは目に見えて分かっているはずだ。……放課後、やつが下校する前までにそこらのデパートでプレゼントを仕入れてこい。もちろん、きれいに包装してもらうのを忘れずにな」
「放課後までに……およそ〝二時間〟か……うん、分かったよ! じゃあボクはそれまでに鏡さんが喜んでくれるような物を探し出して、入手しておくよ! ――そっちは任せたよ!」
「ああ、任せろ。お前は心置きなくミッションに励んでくれ」
では……。
すぅぅ…と甲呀は息を大きく吸い込み、言い放った。
「作戦開始だ……!!」




