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――なぜだッッ!!!?????
予想外の〝言葉〟。
予想外の〝反応〟。
ドサッ! と……受けてしまったそのショックにより、ボクは持っていたカバンを思わず手から滑り落としてしまった。
しかし次の瞬間、「はっ!」と〝気がついた〟。ボクは慌てて周りを見回すと……な、何ということだ!
――女子生徒Aが悲鳴を上げた直後の生徒玄関前。
登校してきた凄まじい数の生徒たちで埋め尽くされていたはずのそこには、いつの間にか、ボクの周り半径五メートル圏内〝だけ〟に、ボク以外が存在しない、完全な〝無人状態〟となる空間が構築されてしまっていたのだ!
しかも! ボクを見るなり皆が皆、〝変態〟〝変態〟と……まるでそれしか言えない人形であるかのように、言葉と共にボクに無機質な冷たい視線を送ってきていた!
――ば、バカなっっ!! ボクは親切心でただちょっと女子生徒に声をかけただけなのに、なぜこんなことに……!!???
はっ! とまた、しかし今度は〝決定的なそのこと〟に気がついた。
ま……まさかっ! ボクの住んでいる町からはこんなにも遠く離れているというのにも関わらず、すでにこの学校にも、ボクの〝名〟が知れ渡っていたとでもいうのか!!? ――ということは、さっきホワイトボードに近づいた時にみんなが避けてくれたのは〝厚意〟なんかじゃなくって……ッッッ!!!!!
「くッッ――!!」
ダメだ!! だとすれば、今はどうしようもない!! ひとまずはこの場を離れて、それからこの先どうするのかを――
「――何やってるんだお前たち! 道をあけろ!!」
ッッ!!? この、とても高校生とは思えない野太い声は……まさか、教師!? ――ちぃ!! もう誰かが職員室に通報したのか!!!
ばっ!! それに気づいたボクは、さらに急いでその場から逃げようとした――しかし!
「な……と、〝通れない〟ッッ!!!!!」
そう。そこには、未だに冷たい視線を送ってくる生徒たちが大勢残っていて、しかも、仮にそれを無理やり突破できたとしても、その後ろからはさらに、続々と……この状況を知るはずもない、〝他の生徒たちが登校〟してきていたのだ!
当然、今のボクにとっては〝敵〟であるその生徒たちは、言うなれば、自立機動の動く監視カメラ……ダメだ! 逃げ場がないッッ!!!!!
――ジャリリリッッ!!
激しく靴を地面に擦りつけて止まったボクは、次に姿勢を低くし、意を決して声がした方向に身構えた。
……そう。ボクにはもはや、〝闘う〟ことしか残されてはいなかったのである!
こうなったら玉砕覚悟だ! やってやる!!
「こいっっ!!!」
――叫んだ、その時だった。
がしり、と遂に、ボクの目の前にいた、最後の生徒が退けられ、野太い声の主である教師がボクの前に姿を現した。
「――お前か? この騒ぎの元凶は?」
!! この、分厚い〝筋肉〟と高い〝身長〟――生活指導担当の、体育教師か!!
与えられた僅かな情報からそう瞬時に判断したボクは、同時に、未だかつて味わったことがないような……これ以上ないほどの〝手強さ〟というものを、その体育教師に感じていた。
どうする!? ――考える前に、ボクの口からは〝牽制球〟が発射されていた。
「ふっ……ボクとしては、こんな騒ぎにしたくてしているつもりは微塵もないんですけどね?」
考える前に言い放った言葉としてはまずます……さあ! どうくる、体育教師よ!!
今度はそれに対して身構えると……しかし体育教師は予想外にも、その彫刻刀でシワを彫り込まれたかのようなゴツイ顔を、さらにしかめ始めた。
何だ? ――ボクが思うが早いか、体育教師は口を開いた。
「……騒ぎにしたくない、だと? ――その〝格好〟でか?」
「は? 〝格好〟……???」
――はっ! 瞬間、ボクはその言葉の意味に気がついた。
ま、まさか、知らず知らずのうちに、ボクは自ら〝変態〟的な格好をしていたとでもいうのか!!?
ヤバイ! 思ったボクはすぐに、改めて自分の姿を確認してみた。
えーと、まずは髪の毛だ。これは今朝セットしてきたとおり、ワックスなんかは付けていないし、色も黒。もちろん寝ぐせもついていない。
次に、上着だ。これももちろん私服なんかじゃないし、よくある、中学校の時の制服だ☆ なんてオチもない。この学校指定の、紺のブレザーだ。ちなみにそのセットとして付けているネクタイもただのチェック柄の模様で、へんなイラストなんかはついていないし、その下には当然、買ったばかりの汚れていない、真っ白なYシャツだ。無論、こちらにもイラストとか文字は描かれていない。
最後に下半身ではあるけど……これも問題ない。履いている〝スカート〟もちゃんとこの学校指定の、チェック柄のやつだし、靴もどこにでも売っているただの白いスニーカー……
「――どこも変じゃないじゃないですか!!」
「何だと!?」
予想外の声を上げたのは、体育教師の方だった。
「え……いや、その……し、しかし、どう見てもお前は〝男〟……だよな???」
……は?
「何言ってんですか! あなたはたくましさ溢れるこのボクの姿が、文字もそのままに女々しい女性の姿にでも見えると言いたいんですか!!」
「あ、いや、そうではないんだが……じゃあ、何で男のお前が、そんな〝格好〟をしているんだ?」
はぁ???
――いや、待て! 落ちつけ! もしかしたらまだ何か、見落とした〝変態〟的な部分があるんじゃないか? ここはもう一度調べてみようじゃないか!
そう自分を制したボクは、今一度上から順に自分の姿を確認してみた。
……よし、じゃあまた髪の毛からだ。ワックスはつけてないし、色も黒。そして寝ぐせもついてないし……よし、完璧だ!
次に、上半身のセットだけど……上着はこの学校指定の、紺のブレザーだし、ネクタイはチェック柄で、下には真っ白なYシャツ……よし、これも完璧だ!
最後は下半身……〝スカート〟も上着同様この学校指定の、チェック柄のものだし、靴もただの白いスニーカー……いや! ちょっと待てよ? 〝スカート〟だって!!? ――はっ! 分かったぞ! 犯人はこいつだ!!! きっと今のボクは、まさかまさかのチャックの閉め忘れで〝股間丸出し状態〟なんだ! どれどれ……ほらみろ! 〝下〟から〝ガラパン〟がはみ出しちゃってるじゃあないか! ヤバい!! 早くチャックを閉めなくては!! ――えーと、チャックは……あれ? チャックはどこだ? 正面にはないぞ? ……ん? いや、あった……けど、何でチャックが〝側面〟に? これでは用を足す時に支障が…………。
……。
…………。
………………。
……………………んんっ!!?
ちらり……見上げた先には、体育教師の、もう俺にはどうしていいのか分からない、という顔があった。
すとん、ともう一度、ボクは自分の下半身に視線を落とし、〝それ〟を確認してみる。
〝スカート〟・アウト・ザ・〝ガラパン〟
――次の瞬間、ボクは、叫んでいた。
「オールマイシィィィィィトゥォォォォォッッッ(※訳:全てはボクのせい)!!!!!???」