2-5改
まったく、甲呀も心配性だな~……そんなことを思いながらも、人生挑戦あるのみ! なボクはそのまま茂みの陰に隠れながら、引き続き〝鬼〟の監視を続けた。
――と、その時気がついた。なんと幸運にも〝鬼〟が立ち上がり、その顔がしっかりと見えるほどの位置にまで近づいてきていたのだ。
チャンスだ! そう思ったボクは、何でもいいからとにかく〝鬼〟の情報をメモ帳に書き記した。
えーと、じゃあ、まずは彼女の容姿からだけど……髪は黒。肩の所で一本に結ばれていて、それを正面に垂らしている。その長さから推測するに、下ろした時の最大の長さは、およそ肩甲骨の終わりくらい……だと思われる。
えー、次は眼と顔。……メガネ越しの眼は甲呀以上に鋭く、凶悪で、眼と鼻の間の所に若干だけどそばかす有り。ちなみに表情は相変わらず、ぶすっ、としたままだ。
スタイルは……可もなく不可もなく、といったところだろうか? 痩せてはいるけど、その分胸もおしりも小さめ……と。他にこれといった特徴はなし。
……さて、あと残すは脚のみだね? 脚は……おや? いつの間にか〝脚だけ〟しか見えなくなってしまったぞ? あ、いや、観察する分にはむしろ好都合なのだけれど……なぜだろう? この脚、やけに〝近く〟にあるような気がしてならないんだ…け……ど…………
「――〝あ〟」
……時、すでに〝遅し〟。というやつだった。
茂みに隠れていたボクの目の前……見上げても、ギリギリ、スカートの中身が見えないその位置に、文字どおり仁王立ちしていたのは……言うまでもなく、〝鬼〟の姿だった。
「――ぃよう、〝変態〟……また会ったな?」
「……」
……だらだら、ともう冷や汗が止まらない。ボクは〝鬼〟にあいさつをされても、それに一言も返すことはできなかった。
しかし、構わず、〝鬼〟は同時に動けなくなってしまっていたボクの背後に回り込み、甲呀が書いた〝地面の文字〟を読み上げた。
「……一、〝鬼〟は〝破壊衝動〟を持っている。二、〝鬼〟は〝嫉妬心〟を抱いている……」
だらだらだら、とさらに冷や汗の量が増す……けど、やはり〝鬼〟は、そんなことを気にはしなかった。
ひょい、と〝鬼〟がボクの手から摘まみ上げた物……それは、〝メモ帳〟だった。
〝鬼の情報〟が書かれた、あの――!!
瞬間、だった。
めしゃあ。
ボクの耳に聞こえてきたのは、メモ帳が天に召される、その最後の断末魔というやつだった。
「……へー……あたしが〝鬼〟……ねぇ…………?」
だらだらだらだら………………。
「ち……違…………」
ざしぃ!
……その時だった。〝鬼〟の脚が、ボクの頭のすぐ脇に、突き刺さった。――〝鬼〟はそのままボクの隣で屈み、耳元で……まるで囁くかのように、静かな声で続けた。
「おい、〝変態〟……冥土の土産に、〝鬼〟の名前を教えておいてやるよ。……あたしの名前は、鏡 桜花。手鏡の〝鏡〟に〝桜の花〟で、鏡 桜花。〝地獄〟への、案内役だ――」
「…………」
………………………………ふっ。
終わったな。ボクの、人生……。
ぐしゃあ――