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――その時。ボクの説明を聞いて完全に納得したはずの甲呀が、話し始めた。
「――泰介。お前は昨日、帰る途中で偶然にもアイリサンを見かけ、状況的になぜかその後をわざと〝追跡〟しているような形になってしまい、見つかってはマズイと思って慌てて隠れたのはいいが……しかしそこで気づいたのがアイリサンの〝不自然な行動〟で、気になったお前は『――もしかしたら妙な薬品の取引が近くで行われているのかもしれない!』と思い、本格的に後をつけ始めた、と? ……だが、そこで実際に行われていたのは薬品の取引などではなく、アイリサンの、所謂〝秘密の遊び〟、というやつだった。……まぁ、何だかんだとそこでは色々とあったが、無事にそれを乗り切ったお前はアイリサンを駅まで送り、手を振ってそれを見送ったはいいが、アイリサンが〝パンツ〟を忘れて行ってしまったことに気がつき、仕方なくお前はそれを一度家へと持ち帰り、洗濯し、そして翌日……つまり、今朝。奇跡的にも隣の席だったアイリサンに運命というものを感じつつも、話の流れで意気揚々と〝パンツ〟を返した。……そういうことだな?」
「…………………………………………」
……こほん。
せき払いを一度。ボクはまた、無敵の話術スキルを発動させた。
「ゼ…ゼンゼン……チガ……ウヨ? ナニ、イッテンダイ、ココ、コウ…ガ?」
……ボクはこの時、せっかく手に入れた話術スキルを、その絶対的な自信を、全て失ってしまった。……てゆーか、何? 本当は甲呀って、全部見てたんじゃないの?
「……ふむ。そうか。まぁいい」
――と、そんなボクの気持ちを知ってか知らぬか、甲呀は全く気にする様子も見せず、淡々と話を続けた。
「とりあえず〝パンツ〟の件は分かった。彼女の心境を考え、俺も誰にも言わないと約束しよう。――っと、そんなことより、だいぶ話が逸れてしまったな? ここは一つこの辺りで閑話休題とし、本題に戻ろうか。……で、泰介? 少々疑問は残るものの、お前の言い分を鵜呑みにすると、原因は〝パンツ〟ではないんだな? 他に思い当たることもないとすれば、もはや考えられることは〝限られて〟くるんだが……」
「……え? と言うと?」
「うむ、それはだな……」
カリカリカリ……甲呀は落ちていた枝を拾い上げ、何やら地面に文字を書きながら説明した。
「一つ……あの〝鬼〟にはそもそも、〝破壊衝動〟というものがあり、理由は二の次でお前をぶちのめした。二つ……女性に多い〝嫉妬心〟…つまり、友人であるアイリサンをお前に取られてしまうのではないかと思い、お前を叩きのめした。……さて、どっちだろうな?」
「デ○アンヌ!! 絶対二番でお願いします!!」
そう思う、ではなく、そう願いたい……ボクは祈りにも似たその気持ちで、必死に、全力で二番に投票した。
「まぁ、そう願いたいところだがな。仮に一番だったとしたら、もはや俺たちにはどうすることもできんわけだし――さて、と……」
と、突然。なぜか甲呀は隠れていた木の陰から離れたかと思うと、これもまたなぜか〝鬼〟がいる方向とはまるで真逆の、グラウンドの方に向かって歩き始めた。
「……? どうしたの甲呀? もう監視するのは止めるの? それともトイレ?」
「いや? ただ単にお前があまりにバカでかい声でしゃべるものだからな……〝気取られ〟た。お前もさっさと〝逃げろ〟」
「え? けどられ……〝逃げろ〟???」
……いったい何のことだろう? 〝逃げろ〟、ということはまさか、〝鬼〟に気づかれたのだろうか? ――いや、そんなまさか。だってここは〝鬼〟のいる場所からはそこそこに離れているし、何より、ここは学校だよ? 図書館みたいな静かな所なら分かるけど、ここはそこら辺中から生徒たちの声が聞こえるんだ。いくら何でも、ちょっとやそっと大声を出したくらいじゃ見つかんないって。