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 あ、待って! ――私が答えようとすると、なぜか伊東先生はそれを止めて、少し離れた所でテーブルの片づけをしながらこちらの様子をうかがっていた泰介さんの方を横目に話した。

「せっかく部員全員で協力してやっていることなんだし、みんなさえよかったら、ぜひともこの部活の部長さんである、緒方くんに接客してもらいたいな♪ 実際、どんな接客をしてくれるのかもすっごく気になるし」

「そういうことでしたら――泰介さん、聞こえてましたか?」

 私は伊東先生と同じく、泰介さんを横目に見ながら胸元に付けたマイクに向かって話しかけると、すぐに返事が返ってきた。

『うん! 聞こえてたよ! これを片づけたらすぐに行くね!』

「わかりました。よろしくお願いします。――じゃあ、伊東先生。もう少し待っててもらえますか? 今、あのテーブルの片づけが終わったらくるそうなので」

「うん。ありがと☆ ……それより、〝ソレ〟は?」

 す――伊東先生が私の胸元のマイクを指差して聞いた。

「ああ、これは――」

「――〝インカム〟です」

 ――私がそれを説明しようとしたその時、今度は太郎くんが割って入ってきた。

 インカム? と先生は首を傾げる。

「インカムっていうと、えーと……タクシーとか、バスの運転手さんが使ってる、アレ? ごめんね、先生あんまり機械とか強い方じゃなくて……」

「まぁ、似たようなものです。――泰介は今まで、アルバイトや親戚の店の手伝いなど、そういったものの経験がほとんどありません。唯一あった文化祭のカフェですら、最終的には邪魔だと追い出されていましたから。……そのことを考え、今回は特別にアイリサンがインカムを使って指示を出すようにしているんですよ」

「ふ~ん? そうなんだ~?」

 じ~、と未だ伊東先生はマイクを見つめていたけれど、どうやら太郎くんの説明自体は納得できたようだ。ふ~ん、とか、へ~、とか唸っていた。

 ……しかし、何で太郎くんは伊東先生にこれのことを〝インカム〟だ、なんて説明したんだろう?

 そんなことを思っていると、コツン、と何か、私の後頭部に触れた。

 何? と当然気になり、私は振り向こうと――瞬間だった。

『――そのまま聴け、アイリサン』

 ふわっ!?! 太郎くんの声が直接頭に!!?

 驚く私をそのままに、太郎くんは続けた。

『大師匠は保健医とはいえ、仮にも〝教師〟……〝盗聴器〟を使って仕事をしているなどと言うわけにはいかん。ここはお前も〝インカム〟だと言い張ってくれ。自身でも言っていたとおり、幸いにも大師匠は機械類に詳しくはないようだからな』

 すっ――太郎くんが話し終わると同時に、私の後頭部から何かが離れた。瞬間、当然のこと太郎くんの声は聞こえなくなる。

 これも〝忍術〟!? すっご~い!!! ――なんて、思わずはしゃいでしまいそうになる自分の心を必死に止め、なるべく平常心を装いながら私は話した。

「こ……これのおかげで、初日はコーラのことを〝甲羅〟って言ったり、オムライスのことを〝オウムライス〟とか言って、〝全然〟、それこそ〝全く〟と言っていいほど〝仕事ができなかった〟泰介さんが、たった半日で驚くほど上達することができたんですよ! 今じゃ普通の人と大差ありません!」

「へ~? そうだったんだ~☆ ……あ、ところで小出さん? 一つ聞いていい?」

「? はい、何ですか?」

 いや、ね? ……となぜか、伊東先生は再び盗聴…改め、インカムを指差して聞いてきた。

「それ……今も〝音〟、緒方くんに〝聞こえている〟んだよ……ね?」

「え――あぁっっっ!!!?????」

 ばばっ!! すぐに私は泰介さんの方を振り向き、その様子を確認すると……うわぁ……。

 ――そこには、いかにも、という感じでテーブルに両腕を突き立て、首が落ちてしまうんじゃないかというくらい俯いて落ち込む、泰介さんの姿があった…………。

「……あ、あああ、あのあの! たい……すけさん???」

 冷や汗混じりに、私はその後ろ姿に声をかけると……イヤホンから、小さな声が……。

『……ごめん。愛梨さん……ボクみたいな〝変態〟がいたら、仕事のじゃまだよね? ……分かってるよ。ホントはボクみたいな〝変態〟になんか、仕事を……仕事を……ううっ!』

「ああっ!!? ち、違いますよ泰介さん!! 私、そ、そんなこと全然……!!」

『いいよ。そんな気を使ってくれなくても……それじゃあ、ボクはこれで……』

「ま! 待って! 待って待って待って! お願い! 待ってください!」


 泰介さーーーんっっっ!!!!!







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