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「……泰介さん自身がいくらがんばっていたとしても、事実は事実。今さら変えることはできません」

「そんな……それじゃあ、ボクは――」

「――しかし」

「……えっ?」

 泰介さんが反応したのを確認し、絶妙なタイミングを見計らって私は続ける。

「――まだまだ遅くはありません。何しろ、このバイトは始まったばかり……泰介さんにだって、これから先いくらでも〝挽回のチャンス〟はありますよ!」

「そ……そうか!」

 パァァ、泰介さんの顔に笑顔の花が咲いた。

「うん! 確かにそうだよね! まだまだ始まったばかりなんだ! これからもっとがんばれば、ボクにだって……」

 ――でも、私はそこにあえて、言う。

「……いえ。残酷なようですが、泰介さん……これからどんなにがんばろうとも、今のままでは決して〝追いつくことはできません〟」

「え!? な、何で……?」

 一転。わかりやすくもさらに不安そうな表情を見せる泰介さん……チャンスだ! 私は一気にたたみかけた。

「その答えこそ、〝お姉さん〟です! ……泰介さん! これからお姉さんのことをしっかりと〝観察〟し、まずは〝マネ〟をすることから始めてください! ――ただし、服装やしゃべり方はそのままじゃなきゃダメですよ? 泰介さんは、〝男性店員〟なんですから! ――そうすることによって、きっと、今の泰介さんに〝足りないナニカ〟が見えてくるはずですよ! ……【己を知るためには、まずは相手のことを知れ!】……です!」

 な、なるほどーッッ!!!!! 驚きと興奮に満ち満ちた表情で、泰介さんは応えた。

「分かったよ愛梨さん! ボク、とりあえずは精いっぱい、お姉ちゃんのマネをすることから始めてみるよ! そして最終日にはきっと、逆転優勝(?)してみせる! 必ず!!」

「その意気です!」

 ぐっ。……指に力を入れることはできなかったけれど、私は泰介さんにも見えるように小さく拳を握り、言い放った。

「――それでは泰介さん! お姉さんの観察とマネをしつつ、とりあえずは先ほどのレモンティーを急いで作って持って行ってください! 少し時間がかかってしまったので!」

「分かった! すぐに用意するよ!」

 そう答えた泰介さんは、それから小走りで部屋に入って行った。

 それを見届けた私は、ふぅー! と今度は安堵のため息をつく。

 ……完璧。そう、完璧だったのだ!

 泰介さんの性格……私と泰介さんは出会ってからまだ一月くらいしか経ってはいなかったけれど、私はそのわかりやすい性格のことをこのひと月でマスターしている!

 〝負けず嫌い〟! 〝マネっ子〟! 〝単純〟!! ――まるで子どものようなその性格を逆に利用し、今ある問題点を克服するためには、これしかない!


 〝見取り稽古〟!!


 上手い人のことを観察して、それを見習い、自分のものとする……ある意味基本中の基本とも言えるその稽古法こそが、現状を打破できる〝カギ〟であったのだ!

 …………まぁ? 何か純粋な泰介さんのことをダマしているようで、少し〝罪悪感〟的なモノを感じるような……気もしないでもないような………………。

 …………。

 ――き、気のせい気のせい♪

 ブンブン! 私は頭を振って、その雑念を払い除けた。

 とにかく! 良かったじゃない! これでもしかしたら泰介さんは弱点を克服できるかもしれないんだし、おじさんだって、お客さんだって喜ぶ! 万々歳ってやつだよ!




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