2-3改
――校庭。
〝鬼〟のことを調べることにしたボクたちは、ちょうど昼休みになっていたその時間。とりあえずは教室に戻ってみたものの……彼女の姿が見当たらないことに気がついた。――そこで、「どこかで昼食をとっているのではないか?」という甲呀のアドバイスを基に、学校中のそれらしい場所を捜していると……いた。奇しくもボクたちが元いたごみステーション。そこからさほど離れてはいないその場所に、彼女の姿を発見した。
――しかも、ついでに見つけたのは……
「ふむ……見ろ泰介。見た感じではあるが、あのアイリサンとかいう女子生徒と〝鬼〟は、どうも〝友人関係〟にあるらしいぞ」
そう、そこにいたのは、無愛想な〝鬼〟とは裏腹に、楽しげにおしゃべりをしながらランチタイムを堪能している、愛梨さんの姿だったのだ。
「へー、あの二人、友だちだったのか……メモメモ、と…………」
――二人からはそこそこに離れた場所にあった茂みの影。
そこにほふく前進の姿勢で隠れていたボクは、甲呀に教えてもらったとおり、得た情報を忘れないようにすぐさまメモ帳に書き記していた。
「ところで泰介」
と、そんなボクのすぐ脇。木の陰に隠れていた甲呀は、くい、とメガネを直しながら聞いてきた。
「〝鬼〟が殴ってきた理由について、なんだが……俺が考えるに、もしかしなくとも、あの二人が〝友人関係にあったから〟ではないのか? ――友人であるアイリサンに〝危機〟が迫ったと思い、お前を殴った……これだけでも理由としては十分に考えられるぞ?」
なるほど、とボクは甲呀の推理に素直に納得した――けれど、しかしそれならと、ボクの中では新たな疑問が生まれてしまった。
でもさ、甲呀? とボクは聞いた。
「ボクは決して、愛梨さんに〝危害なんて加えてない〟よ? いやそれどころか、昨日忘れて行った〝パンツ〟を、わざわざ洗濯までして持って行ってあげたくらいさ。〝感謝〟こそされても、殴られる理由なんてボクには思いつかないんだけど……?」
「…………………………そうか……」
では、となぜか妙に長い間を空けて、甲呀はまた、くい、とメガネを直して聞いてきた。
「ならば俺も聞きたいんだが……そもそもあの〝パンツ〟は、いったい何なんだ? 忘れて行った、とか、持って行ってあげた、とか、そういう表現を使うあたり、あの〝パンツ〟は、〝アイリサンの持ち物〟なんだろ? ――腕時計やバッグなどならともかく、普通下着は人前で脱いだり、忘れて行ったりすることなど、まず〝有り得ない〟はずだ。それなのになぜアイリサンは〝パンツ〟を忘れて行ったんだ? ……何か特別な〝事情〟でもあったのか?」
「え…………そ、それ……は…………」
……。
……。
……。
ボタボタボタボタボタ……。
その時だった。――ボクの顔面からは、滝のような冷や汗が流れ出していたのだ。乾いた地面……それは、どんどん、しみ込んでいく。
……ヤバイ。どうしよう? 何て……説明する???
……すでに世間ほぼ全般の皆様が御周知のとおり、〝変態〟であるボクが素直に本当のことを言うのであれば〝何も問題はない〟だろう。――しかし、愛梨さんの場合は全くの別だ。
――〝知られたくない〟。
愛梨さんは昨日、その想いから、今まで味わったことのないほどの恐怖と闘いながらも、見ず知らずだったはずのボクに向かって自分の持ち得るモノ、その全てのモノを差し出し、周囲に〝秘密〟がバレることを阻止しようとしたのだ。
――彼女にとって〝知られる〟とはつまりそういうこと……それを〝知りながら〟も、ここでボクがバカ正直に本当のことを言ってしまえば……きっと彼女は、もう二度とボクと目を合わせてはくれなくなることだろう。それだけは絶対に避けたい……。
…………だけど、とはいえ〝パンツ〟のことを、どう甲呀に説明すればいいんだろう……?
う~ん…………。
……ボクは真剣に考え、そして、なんとか答えを振り絞った。
「……え、えーと……つまりあの〝パンツ〟は…………そう! 〝水溜り〟! 昨日ボクは帰る時にたまたま愛梨さんと会って、それで普通に歩いてたら愛梨さんが水溜りの所で転んで〝ずぶ濡れ〟になっちゃたんだよ! で! その日〝偶然〟にもボクが朝着てきてしまった、〝女子生徒用〟の制服があったから、それを愛梨さんに貸してあげて、着替えて無事ことなきを得たのはいいんだけど、その時に忘れて行っちゃったのが、あの〝パンツ〟だったわけ! それでボクは今朝、洗濯した〝パンツ〟を愛梨さんに返したんだよ!」
「……なるほど、そうだったのか」
いよっしゃぁぁーーーッッ!!
ボクは、心の中で会心のガッツポーズをとった。
――どうやら大成功だったようだ。甲呀はボクの説明に何の疑問も抱くことなく、普通に納得していた。
ふっふっふっ……ボクは茂みの陰で小さく笑った。
見たか! 聞いたか! ボクのカリスマ的話術スキルの極意を! もうたとえどんな逆転不可能な状況に陥ったとしても、ボクはこの話術だけでその全てを乗り切る自信がついたぞ! もはやこのボクに怖いモノなんて、何も――
「――つまり、こういうことだな?」
……え?