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9-2




 ――お昼時を少しすぎた店内。

 連休初日とはいえ、さすがにゴールデンウィーク中とだけはあって、まだまだほぼ満席の状態で賑わうそこで、私はレジ番をしながら、チラリ、と泰介さんの方を見た。

 ……すると、

「――え? 〝甲羅〟??? ……すみません。そんなものメニューには……」

「……は? こうら??? ――あ、いやいやいや! 店員の兄ちゃん、〝コーラ〟だよ! コ○コーラとか、ペ○シとかの〝コーラ〟! 分かる!? オレはべつにカメの仙人的なモノは目指してないからね!?」

「ああ~! 〝コーラ〟ですね! ――えっと、お砂糖とミルクは……」

「ああ、じゃあ頼むよ――って! いるかっ! そんなもん!!」

 ……。

 ……。

 ……。

 ……はぁ。

 いったいこれで……本当にいったい、これで何度目のため息だったことだろう? とりあえず、泰介さんが担当したお客さんたちが、今のお客さんみたいにノリの良い、優しいお客さんばかりで良かった……。

 そう思い、しかしそれと同時に、またまた私の口からはため息がこぼれてしまった。

 ……ちなみに、〝ずっと〟である。

 何が? とはもちろん。泰介さんのこの、〝おバカ〟な言動が、である……。

 泰介さんは、開店直後から今の今に至るまで、それこそ決して〝わざと〟というわけではないのだろうけれど、ずっとこんな感じで〝おバカ〟な言動を繰り返し、私たちを、そして何よりもお客さんたちのことを困らせていたのだ。

 冒頭の〝アイスコーヒー〟のことといい、先ほどの〝コーラ〟ことといい、オーダーの聞き間違いや個数の間違いは当たり前。ホットなのか、アイスなのかは毎回のように聞き忘れてくるし……〝オムライス〟のことを〝オウム〟ライスと言って、『このカフェでは〝オウム〟を使っているの!? いや確かに〝トリ肉〟には違いないけどさ!?』――って騒いでいたのは、まだ全然〝かわいい方〟……だろうか?

 ……ともかく、

 ぱしっ……私は思わず手で顔を覆ってしまった。そのせいでケガをしていた指が若干痛かったけれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 〝心配ごと的中〟。――私が泰介さんに対して抱いていた〝不安〟は、予想を裏切ってほしいという私の願いも完全に無視し、ものの見事に、悲しくも現実のものとされてしまったのだ。

 ……も~! 泰介さ~ん~!!

 半ば諦めつつも、私は手を取り払い、心の中で叫んでもう一度泰介さんの方を見ると、今度は……いや、語るのはよそう。だって文字どおり、キリがないんだもの……。

 はぁ~……まったく、泰介さんには困ったものだ。……まぁ? そりゃあ、こんな無理難題を快く引き受けてくれたこと自体には感謝してもし足りないくらいだし、泰介さんだって、いっしょうけんめい真面目に、真剣に仕事に取り組んでくれているということはわかる。――でも、いくら何でもこうミスばかり続けられていては困る。だって、そう……ここはお店であり、〝カフェ〟であるのだ。

 ――〝カフェ〟に必要なものは何だと思いますか? そう道行く人に聞いた時、それこそ答えは十人に聞けば十とおりの回答が返ってくることだろう。……しかしながら、私はそのどれもに、あるたった一つだけの〝共通する答え〟があると思っているのだ。


 その〝共通の答え〟というのが、〝居心地の良さ〟――である。




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